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第82話 中央書庫と、初めて自分で見る世界


 朝食を終えた後。


 カイたちはセレスティアとエルミナに案内され、中央区画へ向かっていた。


 王都魔導院の内部は広い。


 白い回廊。


 空中を流れる魔力灯。


 壁面へ刻まれた魔法紋。


 歩くだけで、この国の魔法技術の中心にいると分かる場所だった。


 ティアはきょろきょろ周囲を見回している。


「すごいです……全部が綺麗……」


 リナも少し感心していた。


「魔導院ってもっと堅苦しいと思ってたけど、普通に観光地レベルね」


 エルミナが少し誇らしげに言う。


「王都でも有名ですから」


 一方。


 カイは静かだった。


 ただ周囲を見ている。


 壁。


 窓。


 遠くの空。


 行き交う人。


 その視線は、どこか“確認する”ようだった。


 セレスティアが横目でそれを見る。


「……何か気になりますか?」


「別に」


 カイは少しだけ間を置いて続けた。


「でも、ちゃんと歩いて見れるの、なんか変な感じ」


 リナが視線を向ける。


「変?」


「前は、あんまり外出れなかったから」


 その言葉に。


 一瞬だけ空気が静かになった。


 ティアが小さく瞬きをする。


 エルミナも少し驚いた顔になる。


 だがカイ自身は、重く言ったつもりはなかった。


「だから、自分で歩いて色々見るの好き」


 窓の外を見る。


 朝の空。


 風。


 遠くの塔。


「知らない場所いっぱいあるし」


 ぽつりと続ける。


「まだ見たことない景色、いっぱいあるから」


 その声は静かだった。


 でも。


 ほんの少しだけ楽しそうだった。


 リナはなんとなく納得する。


 カイは“自由”を好む。


 好き勝手しているように見えて。


 本当は、“自分で選んで動けること”そのものが嬉しいのだ。


 セレスティアも静かに聞いていた。


 やがて小さく口を開く。


「……王都魔導院は、王国中の知識が集まる場所です」


「うん」


「書庫には古代魔法文明の記録もあります。地方文化、歴史、他国資料も」


 カイが少しだけ反応する。


「色んな場所の本ある?」


「あります」


「じゃあ見たい」


 即答だった。


 ティアが嬉しそうに笑う。


「カイ様、本読むの好きなんですね!」


「知らないの見るの好き」


 その返答に、セレスティアは少しだけ目を細めた。


 研究者としての知識欲とは少し違う。


 もっと純粋な、“世界そのもの”への興味。


 だからこの少年は。


 閉じ込められることを嫌うのかもしれない。


 やがて、一行は巨大な扉の前へ辿り着く。


 中央書庫。


 王都魔導院最大の知識保管区画だった。


 扉だけで普通の建物ほど大きい。


 ティアが圧倒されている。


「お、お城みたい……」


 リナも引いていた。


「図書館のサイズじゃないでしょこれ」


 エルミナが少し笑う。


「内部は更に広いですよ」


 重厚な扉がゆっくり開く。


 その瞬間。


 静かな空気が流れてきた。


 紙の匂い。


 澄んだ空気。


 無数の本棚。


 吹き抜け構造の巨大空間。


 上層では魔導灯が星みたいに浮かんでいる。


 そして何より――静かだった。


 カイが止まる。


 数秒。


 ゆっくり周囲を見る。


「……ここ、好き」


 小さく漏れた声。


 セレスティアはその反応を見て、少しだけ安心したように息を吐いた。


 リナが苦笑する。


「完全に快適判定入ったわね」


「静かだし」


 カイは普通に言う。


 それから少しだけ視線を上へ向けた。


 積み上がる本。


 知らない文字。


 知らない世界。


 まだ見たことのないものが、ここには山ほどある。


 その光景を見つめるカイの目は。


 ほんの少しだけ、子供みたいに輝いていた。

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