表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/80

第54話 出発準備と、朝の大騒動


翌朝。


アルトの街は、昨日と変わらず賑やかだった。


窓の外からは荷車の音と商人たちの声が聞こえてくる。


焼きたてのパンの匂いまで漂ってきて、朝から妙にお腹が空く。


宿の一室では、リナが腕を組んでいた。


「……で?」


じとーっとした目が、部屋の中央へ向けられる。


そこには、大量の荷物が積み上がっていた。


果物。


お菓子。


光る瓶。


謎の置物。


変な柄のクッション。


どう見ても旅に必要ない物ばかりだ。


「カイ。これ全部なに」


「アルトのお土産」


「まだ出発すらしてないのよ!?」


即ツッコミが飛ぶ。


カイは真顔だった。


「だって限定って書いてたし」


「だからって壺三つも買う!?」


「模様綺麗だったから」


「キュルッ♪」


フォルが壺の周りを楽しそうに飛び回る。


完全に面白がっていた。


ティアは困ったように笑いながら、小さな布袋を抱えている。


中には昨日買ったお菓子が入っていた。


「で、でも……この飴、美味しかったですし……」


「ティアまで!?」


リナが頭を抱える。


旅支度というより、完全に観光帰りだった。


すると。


コンコン、と扉が叩かれる。


「起きているか」


ベルクの声だった。


リナが扉を開ける。


深い青のローブを纏った老人は、部屋に入った瞬間、無言になった。


視線の先には、荷物の山。


「……お前たちは引っ越しでもするのか?」


「違うよ。旅」


「旅で壺はいらんだろう」


正論だった。


カイは少し考える。


「……確かに重いかも」


「今さら!?」


リナが叫ぶ。


ベルクは深いため息を吐き、椅子へ腰掛けた。


「王都までは街道を歩いて七日ほどだ」


「七日」


「途中で宿場町や湖畔の町も通る」


「湖?」


カイが少し反応する。


「王都街道沿いに、“鏡湖”と呼ばれている場所がある。風が止むと空がそのまま映るんだ」


「へぇ」


「夜は星まで映るぞ」


カイの目が少しだけ上がった。


ベルクは続ける。


「春のこの時期は、水辺に青白い発光虫も出る」


「見たい」


即答だった。


リナが笑う。


「ほんと景色には弱いわね、あんた」


「歩くなら景色大事だし」


カイは当然みたいに言った。


「馬車だと寝てる間に終わっちゃうから嫌なんだよね」


「……乗らんのか?」


ベルクが少し意外そうに聞く。


「自分の足で歩きたい」


カイは窓の外を見ながら答えた。


「街の匂いとか、空気の変わり方とか、歩かないと分かんないし」


朝風がふわりと部屋へ吹き込む。


パンの香りと、人の気配。


アルトの街の“空気”だった。


「疲れたらその辺で休めばいいし」


「お前の場合、“その辺”が高級宿並みに快適になるから基準がおかしいんだよ」


ベルクが呆れた声を出す。


するとカイが少し考える。


「……それに、旅って移動中も楽しいから」


その言葉に、リナとティアが少しだけ目を見開いた。


カイは本気でそう思っているのだ。


目的地へ着くことより。


途中で見える景色や、寄り道や、食べ歩き。


そっちの方が大事だったりする。


フォルまで「キュルッ♪」と嬉しそうに鳴いた。


「あと王都へ着いたら、まず魔導院へ来てもらう」


ベルクが真面目な声になる。


「お前の魔法について調べたい」


「んー」


カイは少し考える。


嫌そうというより、面倒そうだった。


「長い?」


「内容による」


「難しい話多い?」


「まあ多少は」


カイの顔が露骨に曇った。


「それはちょっと嫌かも」


「子供かお前は」


「難しい話って空気重くなるし」


「そこなの!?」


リナが吹き出す。


ティアまでくすっと笑った。


ベルクはとうとう額を押さえた。


「……本当にお前は」


呆れたように息を吐きながら、それでもどこか楽しそうだった。


窓の外では、アルトの街が今日も賑わっている。


次に向かうのは王都。


知らない景色。


新しい街。


見たことのない食べ物。


その全部を思い浮かべながら、カイは少しだけ楽しそうに笑った。


「よし。じゃあ準備したら出発しよう」


「まずその荷物減らしなさい」


「壺はいるよ?」


「いらないのよ」


リナのツッコミが、朝の部屋に響き渡った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ