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第36話 海猫亭の絶品料理と、路地裏の銀光


「ああ、やっとお昼! ギルマスに捕まった時はどうなるかと思ったわよ」


リナが空腹を訴えるように、隣を歩くカイに笑いかけた。


「……お腹、空いた」


カイは感情の読めない瞳で、潮風に乗って届く香ばしい匂いの元を探した。


「ほら、あそこの青い看板のお店! 漁師さん御用達の『海猫亭』よ」


二人が暖簾をくぐると、店内は活気と魚の焼ける匂いで満ちていた。


「いらっしゃい! 二人かい? 空いてる席へどうぞ!」


威勢のいい店主の声に導かれ、二人は隅のテーブル席に腰を下ろした。


カイは席に着くや否や、指先を小さく動かした。


「【調律】(コンフォート)」


その瞬間、テーブルの周りだけ生臭さが消え、涼やかで澄んだ空気に変わった。


「ふぅ……。あんたのこの魔法、本当に贅沢よね」


リナが冷えた水で喉を潤しながら、看板メニューの『白身魚の香草煮込み』を注文した。


すぐに運ばれてきたのは、大きな深皿に入った、スープたっぷりの白身魚だ。


だが、カイはフォークを持つ前に、皿に向かって指を向けた。


「【分別】(セパレート)」


皿の中で魚の身がわずかに震え、無数の小骨がスッと浮き上がって一箇所にまとまった。


「あ、私のもお願い! その『骨なし魚』、一度体験すると戻れないのよね」


リナに促され、カイは彼女の皿からも完璧に骨を取り除いていく。


「……美味しい」


一切のストレスなく口に運ばれた魚の身は、スープの旨味を吸って最高に柔らかかった。


フォルもテーブルの端で、カイが冷ました魚の身を「キュルルッ」と嬉しそうに食べている。


最高の昼食を終えて店を出た時、カイはふと足を止めた。


「……リナ、あっち。すごく汚れてる」


カイが指差したのは、日光の届かない、ジメジメとした暗い裏路地だった。


「えっ、そっちは『影の区画』よ。わざわざ行く場所じゃないわよ」


「不潔なのはよくない。見てくる」


カイは迷いなく、鉄錆とカビの臭いが充満する闇の中へと踏み込んでいった。


「ちょっと待ちなさいってば! ……もう、本当にお世話が大変なんだから」


リナが追いかけた先、路地の奥にはゴミの山と、丸まっている「何か」があった。


細い首には、重々しい鉄の枷が嵌められている。


それは、泥と煤にまみれて本来の色を失った、銀髪の少女だった。


「……汚いね」


カイがポツリと呟くと、少女は怯えたように灰青色の瞳を大きく揺らした。


「カイ、その子……。そんな、こんな酷い枷を付けられて……」


リナが絶句する中、カイは迷いなく少女の銀髪に触れた。


「【清浄】(クリーン)」


一瞬にして、少女を覆っていた汚れも不快な匂いもすべてが霧散した。


現れたのは、透き通るような白い肌と、まばゆいばかりの純銀の髪だ。


「えっ……。嘘、こんなに綺麗な子だったの……?」


カイはさらに、少女の首を絞める鉄の枷に指を触れた。


「これも不潔だね。【修復】(リペア)」


パキィィィィン!


自由を奪っていた枷が、内側から弾けるように粉砕された。


自由になった首筋を摩りながら、少女は呆然と自分を救った少年を見上げた。


「……あ、あ……」


「歩ける?」


カイの問いに、少女は震える足で、初めて「清潔な地面」に一歩を踏み出した。


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