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第31話 怒りのブレスと、森を震わせる一撃


フォルの黄金の瞳が、真っ直ぐ巨体を捉えていた。


「キュルルル……ッ!!」


今までの可愛らしい鳴き声とは違う。


低く、空気を震わせるような唸り。


森そのものが一瞬ひるむ。


リナが息を呑んだ。


「……これ、まずいやつ」


カイはフォルを見ている。


怒っているのは分かる。


でも、ただ暴れているわけじゃない。


ちゃんと“守るため”の怒りだった。


黒い巨体――異形のトロルは、障壁に腕を押し付けたまま唸っている。


「グォォォ……!」


だが腕は動かない。


カイの障壁に完全に押さえ込まれていた。


その時。


フォルが息を吸い込む。


小さな胸が大きく膨らむ。


空気が変わる。


暖炉の火とは比べものにならない熱量が、一点に集まっていく。


「……来るわよ」


リナが短く言った。


次の瞬間。


「キュルルァァァァッ!!」


放たれたブレスは、さっきまでの比じゃなかった。


小さな身体から出たとは思えない、圧縮された炎の奔流。


それは“線”だった。


太く、鋭く、まっすぐ。


夜の森を一瞬で昼に変えるような光。


轟音と共に、森の空気が焼ける。


ゴォォォォッ!!


トロルの腕に直撃した瞬間――


「グォォォォッ!!?」


黒い皮膚が一瞬で白く炭化した。


さらにそのまま、炎は腕だけで止まらない。


関節、肩、胸元へと一気に走る。


まるで火が“伝染”していくように。


リナが呆然と呟く。


「……範囲、じゃない。これ制御された直線圧縮……?」


トロルがたまらず腕を引いた。


だが遅い。


すでに焼かれた部分が崩れ始めている。


「グォォォォォォッ!!」


森が揺れるほどの咆哮。


だがフォルは止まらない。


もう一度息を吸う。


今度はもっと静かに。


怒りはある。


でも、それ以上に“終わらせる”という意思があった。


「キュルル……」


小さく鳴いたその瞬間。


二発目。


今度はさっきより細い。


だが、密度が違う。


一点に絞られた極小の火線。


それがトロルの胸に突き刺さる。


――ドンッ!!


爆ぜるような衝撃。


巨体が後ろへよろめいた。


地面が裂ける。


木が折れる。


森の奥へと、巨体が押し戻されていく。


「……嘘でしょ」


リナの声がかすれる。


普通の魔物なら跡形もなく消えている威力だ。


それでもまだ倒れていない。


トロルは黒い靄を噴き出しながら、森の奥へ退こうとしていた。


だがその時。


「キュルル!!」


フォルが一歩踏み出す。


翼が広がる。


その小さな影が、なぜか森全体より大きく見えた。


トロルが一瞬、動きを止める。


本能が理解したのだ。


これ以上は無理だと。


「グォ……」


低い呻き。


そして――逃げた。


森の奥へ。


巨体を引きずるように消えていく。


静寂。


風の音だけが戻る。


リナがその場に座り込んだ。


「……勝った、のよね?」


カイはフォルを抱き上げる。


「お疲れさま」


「キュル……♪」


さっきまでの威圧感はどこへやら。


完全に満足顔だった。


尻尾がふわふわ揺れている。


リナは遠い目をした。


「今の……普通の冒険者パーティなら全滅案件なんだけど」


カイは首を傾げる。


「そうなの?」


「そうなのよ!!」


夜の森は静かに戻っていく。


だが、どこかで確かに感じる。


この森にはまだ“何か”がいる。


そしてそれは、今までとは違う次元の気配だった。


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