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第30話 森の巨影と、フォルの怒り


どしん。


どしん。


重い足音が、夜の森を震わせる。


木々が大きく揺れた。


枝が折れ、葉がばさばさと落ちてくる。


月明かりの届かない森の奥。


その暗闇の中で、巨大な赤い目だけが不気味に光っていた。


リナの喉がごくりと鳴る。


「……なに、あれ」


普通じゃない。


大きすぎる。


狼たちが怯えるのも当然だった。


灰狼たちは低く唸りながらも、小屋の近くから離れようとしない。


敵意ではない。


“ここが一番安全”だと思っているのだ。


つまり。


あの森の奥の存在は、グレイウルフの群れですら逃げ出す相手。


どしん。


また一歩。


地面が震える。


木々の間から、黒い巨体が少しずつ姿を現し始めた。


岩みたいに分厚い皮膚。


木の幹ほどある腕。


全身に黒い苔のようなものを纏っている。


そして頭部には、歪んだ巨大な角。


「……トロル?」


リナが呟く。


だが、すぐに首を振った。


違う。


大きすぎる。


普通のトロルではない。


しかも、その身体からは黒い靄みたいなものが漏れていた。


嫌な気配。


見ているだけで本能が警鐘を鳴らす。


「魔力が……おかしい」


リナの顔が青い。


空気が重かった。


まるで森そのものが怯えているみたいだった。


巨体が森から半身を出す。


赤い目が、休憩小屋を見た。


「グォォォォォ……」


低い唸り。


空気が震える。


狼たちが一斉に後ずさる。


フォルも前へ出た。


「キュルル……!」


翼を広げる。


黄金の瞳が鋭く細まった。


だが今回は、昼間みたいな余裕はない。


明確に警戒していた。


その時。


黒い巨体が腕を振り上げた。


狙いは――小屋。


「まずい!」


リナが叫ぶ。


次の瞬間。


ブォンッ!!


巨大な腕が振り下ろされた。


空気が裂ける。


木々をまとめて薙ぎ倒しながら、怪物の腕が迫る。


だが。


「【障壁ウォール】」


カイが静かに呟いた。


ぱきぃんっ!!


透明な壁が、小屋の前へ展開される。


直後。


轟音。


怪物の腕が障壁へ激突した。


衝撃で地面が揺れる。


だが――壊れない。


「……え?」


リナが目を見開く。


怪物の腕は、透明な壁に完全に止められていた。


しかも。


ぴし、ぴしぴし。


怪物の腕の方にヒビが入っていく。


「グォッ!?」


怪物が初めて苦しそうな声を上げた。


カイは首を傾げる。


「危ないから叩いちゃダメだよ?」


「いや基準がおかしいのよ!!」


リナが叫ぶ。


普通なら街ごと吹き飛びそうな一撃だった。


それを生活魔法の障壁で止める意味が分からない。


フォルはそんなカイを見上げる。


そして。


「キュルルル……ッ!!」


怒った。


小さな身体から、びりびりと魔力が漏れる。


さっきまでと違う。


本気で怒っていた。


カイを攻撃されたからだ。


黄金の瞳が強く輝く。


空気が熱を帯び始める。


リナが気づいて目を見開く。


「……待ってフォル、それ本気の――」


フォルが息を吸い込む。


小さな胸が膨らむ。


だが。


今度は違った。


周囲の空気が揺らぐ。


熱風で草が揺れる。


小さな口元から漏れる炎だけで、地面が赤く焼け始めていた。

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