第26話 休憩広場と、ちょっとした有名人
狼たちが去ったあとも、しばらく誰も動かなかった。
風が草を揺らす音だけが聞こえる。
そして。
「……助かった」
最初に口を開いたのは、荷馬車の護衛をしていた中年の冒険者だった。
額に汗を浮かべながら、ほっと息を吐いている。
「まさか街道でグレイウルフの群れに遭うとはな……」
普通ならかなり危険だった。
数が多い上に、荷馬車を守りながら戦うのは難しい。
だが。
「キュル♪」
全部追い払った本人(本竜?)は、既に褒められ待ちの顔をしていた。
カイは笑いながらフォルを撫でる。
「偉かったね」
「キュルル〜♪」
尻尾がぶんぶん振られる。
さっきまで竜の威圧感を出していたとは思えない。
完全に甘えモードだった。
リナは呆れ半分でため息を吐く。
「ほんと切り替え早いわね……」
その時。
荷馬車の商人らしき男性が、おそるおそる近づいてきた。
「その……あんたら、冒険者か?」
「はい」
「そっちの小さい竜が追い払ってくれたんだよな?」
「キュル!」
フォルが胸を張る。
なぜか返事をした。
商人はびくっとしたあと、苦笑する。
「……賢いな」
すると近くにいた子供が目を輝かせた。
「ねえねえ! その子ドラゴン!?」
母親らしき女性が慌てる。
「こ、こら近づいちゃダメでしょ!」
だがフォルは。
「キュル?」
むしろ興味津々だった。
子供の方をじーっと見ている。
小さな子供も恐る恐る近づく。
「……さわっていい?」
「キュル!」
許可が出た。
カイがそっとフォルを抱き上げる。
子供が恐る恐る頭を撫でた。
ふわっ。
「わぁ……!」
目を輝かせる。
フォルの鱗は硬そうに見えるのに、実際は滑らかで温かかった。
しかも今は小型化しているせいか、触り心地が妙に良い。
「キュルル♪」
フォルも嬉しそうだった。
周囲の空気が、一気に和む。
さっきまで魔物襲撃で緊張していたとは思えない。
リナは遠い目をした。
「なんで休憩広場でふれあい動物コーナー始まってるの……」
◆ ◆ ◆
その後。
旅人たちから感謝として、色々貰うことになった。
干し肉。
焼き菓子。
果物。
保存食。
フォルの前にどんどん積まれていく。
「キュル!?」
本人が一番驚いていた。
「助けてもらった礼だ」
「ありがとな、ちび竜」
「キュルル〜♪」
完全に人気者だった。
フォルは嬉しそうに旅バッグへ食料を詰め始める。
「……もう自分の荷物管理してる」
リナが呟く。
しかも妙に綺麗に収納していた。
「賢いねフォル」
「キュル!」
また褒められてご機嫌になる。
そんな様子を見ながら、年配の旅人がぽつりと呟いた。
「しかし最近、本当に魔物の出現がおかしいな……」
空気が少し変わった。
「この辺りでグレイウルフの群れなんて、今まで聞いたことない」
「森の奥から何かに追い立てられてるみたいだったな」
「もっと強い魔物でも出たのか……?」
旅人たちの表情に、不安が滲む。
リナも真面目な顔になった。
「……やっぱり普通じゃない」
カイは東の森を見る。
街道の先。
遠くの木々が、風にざわざわ揺れていた。
どこまでも続く深い緑。
その奥は薄暗く、昼なのに少し不気味だった。
フォルもその方向を見ていた。
黄金の瞳が細くなる。
「キュル……」
さっきまでとは違う声。
少しだけ警戒したような鳴き方だった。
カイはその頭を優しく撫でる。
「何かいるの?」
「キュルル……」
フォルは小さく頷くように鳴いた。
その時。
東の森の奥から――
遠く、低い咆哮が響いた。




