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第23話 街道の景色と、初めての昼休憩


フィルンを出て、数時間後。


街道はゆるやかな丘陵地帯へ入っていた。


石畳の道は朝露で少し湿り、両脇には背の高い草原がどこまでも広がっている。


風が吹くたび、草の海が波みたいに揺れた。


遠くには小さな森。


さらに向こうには青い山脈が霞んで見える。


空は高く、雲はゆっくり流れていた。


「……すごい」


カイは何度目か分からない感想を漏らした。


本当にずっと景色を見ている。


道端の花。


飛んでいく鳥。


流れる雲。


全部が新鮮だった。


リナは少し笑う。


「そんなに珍しい?」


「うん」


カイはしゃがみ込む。


小さな白い花を見つけたらしい。


花弁には朝露が残っていて、太陽の光で小さく輝いていた。


「綺麗だね」


「……ほんと感受性豊かよね」


リナは呆れ半分、感心半分だった。


普通、冒険者は街道の景色なんていちいち気にしない。


だがカイは違う。


世界そのものを楽しんでいる。


その時。


「キュルル!」


フォルが草むらへ突撃した。


ざばぁっ、と草が揺れる。


次の瞬間。


ぴょこん。


フォルが飛び出してきた。


口に何か咥えている。


「キュル!」


「……それ何?」


リナが目を細める。


フォルが持っていたのは、小さな青い果実だった。


丸くて艶があり、葡萄みたいな見た目をしている。


カイが受け取る。


「食べられるのかな」


「ちょっと待って!? 野生の実を適当に食べないでよ!?」


リナが慌てて止める。


冒険者の基本だ。


知らない植物は危険。


毒の可能性だってある。


だが。


「キュル!」


フォルは自信満々だった。


むしろ「美味しいよ!」と言いたげである。


リナはじっと果実を見る。


「……あ、これブルーベリー系の実だ」


「食べられる?」


「うん。甘酸っぱくて美味しいやつ」


するとカイが少し嬉しそうに笑った。


「フォルすごい」


「キュルル〜♪」


褒められてご機嫌である。


尻尾が高速で振られていた。


◆ ◆ ◆


昼頃になると、日差しが少し強くなってきた。


街道脇には小さな休憩広場があり、旅人たちが荷物を降ろして休んでいる。


大きな木が一本立っていて、その木陰は涼しかった。


「ここでお昼にしよっか」


「うん」


カイたちも木陰へ座る。


草の匂い。


土の匂い。


遠くで鳴く鳥の声。


風が木の葉を揺らし、さらさらと音を立てていた。


カイは少し空を見上げる。


葉の隙間から差し込む木漏れ日が綺麗だった。


「……こういうの、いいなぁ」


ぽつりと漏れる。


リナは隣で水筒を開けながら笑った。


「もうちょっと冒険っぽい感想ないの?」


「十分冒険してるよ」


その声は本当に楽しそうだった。


リナは少しだけ目を細める。


カイは戦いより、こういう時間の方が好きなんだろう。


その時。


「キュル!」


フォルが旅バッグをごそごそし始めた。


「ん?」


次の瞬間。


ぽんっ。


小さなリンゴが転がり出てきた。


「……いつ入れたのそれ」


「キュル〜♪」


どうやら市場でもらったらしい。


得意げだった。


「食料隠してたの?」


「キュル!」


完全にそのつもりだった。


リナが吹き出す。


「なんか賢いのよねこの子……」


フォルはリンゴを前足で抱え、しゃくしゃく食べ始めた。


食べ方まで可愛い。


近くで休んでいた旅人たちも、つい視線を向ける。


「あれ竜だよな?」


「竜がリンゴ食ってる……」


「可愛い……」


また言われていた。


その時だった。


ざわっ。


風とは違う音がした。


近くの草むらが揺れる。


リナの表情が変わった。


「……カイ」


「うん」


空気が少し張り詰める。


フォルもリンゴを食べるのをやめ、ぴくっと耳を動かした。


草むらの奥。


何かがいる。


そして次の瞬間――


ガサッ!!


草を掻き分け、小柄な影が飛び出してきた。

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