第20話 冒険者ギルドと、新しい依頼
朝の陽光が、ギルドの大窓から差し込んでいた。
フィルン冒険者ギルド。
分厚い木の扉を開けた瞬間、酒と鉄と革の匂いが混ざった空気が流れてくる。
石造りの広いホール。
壁には大量の依頼書。
武器を背負った冒険者たちが行き交い、受付嬢たちは忙しそうに書類を捌いていた。
そして。
「……来た」
「竜連れだ」
「ほんとに連れて歩いてる……」
ざわざわ。
一気に視線が集まる。
原因はもちろん。
「キュル♪」
カイの後ろをとことこと歩くフォルだった。
小さな翼をぱたぱた揺らしながら、興味津々に辺りを見回している。
完全に場違いな可愛さだった。
「なんでギルドが癒し空間になってんだ……」
「昨日ワイバーンだったよなあれ」
冒険者たちの感情が追いついていない。
すると。
「キュル?」
フォルが近くのテーブルを見上げた。
そこには朝から酒を飲んでいた大柄な冒険者が座っている。
冒険者はびくっと肩を震わせた。
だが。
フォルはただ、テーブルの上の肉串を見ていただけだった。
「……食うか?」
恐る恐る一本差し出す。
「キュル!」
ぱくっ。
「キュルル〜♪」
幸せそう。
「……かわいいなコイツ」
陥落した。
周囲の冒険者たちもざわつく。
「今しっぽ振ったぞ」
「犬じゃねぇか」
「でも竜なんだよな……」
リナが遠い目をする。
「フィルンの人たち順応早すぎない?」
その時。
二階から重い声が響いた。
「おい坊主」
ロイドだった。
腕を組みながら階段を降りてくる。
「報酬受け取りに来たんだろ」
「はい」
「あと話もある」
ロイドの後ろにはベルクもいた。
二人とも、フォルを見るたび複雑そうな顔をしている。
カイたちはギルド奥の部屋へ通された。
木製の机。
地図だらけの壁。
積み上がった書類。
ギルドマスター室らしい、雑多な部屋だった。
フォルは部屋へ入るなり、窓際の日向へ向かう。
「キュル〜……」
ぽすっ。
丸くなった。
完全にくつろいでいる。
ロイドがそれを見てため息を吐いた。
「ほんとに竜かそいつ……」
そして机へ腰を下ろす。
「まず依頼達成報酬だ」
革袋が置かれた。
中には銀貨がぎっしり入っている。
「街道封鎖解除。危険指定魔物の無力化。追加報酬込みで金貨五枚」
リナが目を見開いた。
「ご、五枚!?」
かなり高額だった。
普通の新人冒険者なら数ヶ月は暮らせる。
だがカイは。
「多いんですか?」
「冒険者としては破格だ」
「へぇ」
反応が薄い。
ロイドがじっとカイを見る。
「お前、自分がどれだけ異常か分かってねぇな?」
「?」
本気で分かっていなかった。
ロイドは頭を掻く。
「まあいい。それで本題だ」
空気が少し変わった。
ベルクが壁の地図を指差す。
フィルンから東へ伸びる街道。
その先には、大きな赤丸が描かれていた。
「交易都市アルトへ向かう街道で、最近妙なことが起きてる」
「妙なこと?」
「魔物の動きがおかしい」
ベルクの声は真剣だった。
「普段なら森の奥にいる魔物が、街道近くまで出てきている。しかも群れ単位だ」
リナが眉をひそめる。
「スタンピードの前兆……?」
「そこまでは分からん。だが嫌な感じがする」
ロイドは腕を組む。
「本来なら中堅パーティに調査させる予定だった。だが」
ちらり、とカイを見る。
そして窓際で丸まっているフォルを見る。
「お前らなら死にはしねぇだろ」
「基準がおかしいんですよロイドさん」
リナが即ツッコむ。
だがロイドは真顔だった。
「正直、普通の冒険者じゃワイバーン級が出た時点で終わる」
「キュル?」
名前を呼ばれた気がしたのか、フォルが顔を上げる。
その姿にベルクが小さく笑った。
「……少なくとも、今のそいつは脅威には見えんな」
「キュルル♪」
褒められたと思ったのか、フォルが尻尾を振る。
そして。
ロイドは地図の赤丸を指で叩いた。
「どうだ。アルトまでの街道調査、受けるか?」
部屋の空気が静かになる。
窓の外では、朝の市場の喧騒が聞こえていた。




