第19話 朝食と、街で有名になり始める竜
翌朝。
窓から差し込む朝日が、部屋を淡く照らしていた。
鳥のさえずり。
遠くから聞こえる市場の声。
焼きたてのパンの匂い。
穏やかな朝だった。
そして。
「キュルル……」
ふわふわ床のど真ん中で、フォルが幸せそうに寝ていた。
お腹を上に向け、小さな翼をだらんと広げている。
完全に無防備だった。
カイは目を覚ますと、しばらくその姿を眺める。
「……可愛い」
「朝一番の感想それなの?」
隣のベッドからリナの呆れ声が飛んできた。
だが気持ちは少し分かる。
小型化したフォルは、本当に小動物みたいだった。
昨日の“空の魔物感”がほぼ消えている。
すると。
ぴくっ。
フォルの耳が動いた。
「キュル……?」
眠そうに目を開ける。
そしてカイを見つけた瞬間。
「キュルルルッ♪」
尻尾をぶんぶん振りながら飛び起きた。
ぼふっ。
勢い余ってカイへ突っ込む。
「わっ」
そのまま顔をぺろぺろ舐め始めた。
「キュルキュル!」
「はは、くすぐったい」
リナがじとーっとした目で見る。
「完全に犬」
フォルはご機嫌だった。
ふかふか床で寝れたのが相当嬉しかったらしい。
その時。
コンコン、と扉が鳴る。
「朝食持ってきたよー」
宿屋のおばさんだった。
扉を開けた瞬間。
「キュル!」
フォルが元気よく挨拶する。
おばさんはもう慣れ始めていた。
「はいはい、おはようフォルちゃん」
「キュルル♪」
完全に近所の犬扱いである。
朝食の乗った木製トレーからは、いい匂いが漂っていた。
焼きたてのパン。
野菜スープ。
ハムエッグ。
それから木苺のジャム。
素朴だけど、とても美味しそうだった。
カイは目を輝かせる。
「すごい……」
「そんな感動する?」
「こういう朝ご飯、食べてみたかったから」
リナは一瞬だけ目を丸くした。
けれどカイはすぐ笑顔になる。
「いただきます」
温かいスープを飲む。
優しい塩味が身体へ染み込んだ。
パンは外が少し硬く、中はふわふわしている。
噛むほど甘かった。
カイは嬉しそうに食べている。
その様子を見て、リナも少し笑った。
「ほんと、なんでも楽しそうにするわよね」
「全部初めてだから」
「……そっか」
その時。
「キュルゥ……」
フォルがじーっと朝食を見ていた。
完全に欲しそうだった。
「フォルも食べる?」
「キュル!」
勢いよく返事する。
リナが慌てる。
「待って待って! 竜って人間のご飯食べるの!?」
「食べてみる?」
カイがパンを少しちぎって差し出す。
フォルはくんくん匂いを嗅ぎ――
ぱくっ。
「キュル!」
目を輝かせた。
気に入ったらしい。
尻尾が高速で振られる。
「パン食べたぁ!?」
リナが叫ぶ。
フォルはそのまま夢中でパンを食べ始めた。
もきゅもきゅしている。
食べ方まで小動物だった。
◆ ◆ ◆
朝食後。
三人(?)は宿を出た。
朝のフィルンは活気に溢れている。
石畳の道を荷馬車が通り、商人たちが店を開き始めていた。
八百屋には色鮮やかな野菜が並び、パン屋からは香ばしい匂いが流れてくる。
噴水広場では子供たちが走り回っていた。
そして。
「……あ」
街の人々がカイたちを見た瞬間、ざわついた。
原因はもちろん。
「キュル♪」
フォルだった。
「あの竜昨日の!?」
「ちっちゃくなってる!」
「かわいい……」
人々が遠巻きに集まり始める。
子供なんて目を輝かせていた。
「触りたい!」
「キュル?」
フォルが首を傾げる。
その瞬間。
「かわいーーーー!!」
歓声が上がった。
リナが頭を抱える。
「昨日までワイバーンで大騒ぎだったのに……」
フォルは完全に人気者になり始めていた。
すると。
市場の肉屋のおじさんが、にやにやしながら大きな骨付き肉を差し出す。
「ほら、食うか?」
「キュル!」
フォルの目が輝く。
次の瞬間。
ぱくっ。
「キュルル〜〜〜♪」
幸せそうな声が響いた。
周囲から「かわいい……」という声が漏れる。
カイは嬉しそうに撫でた。
「よかったね」
「キュル!」
そしてその光景を、ギルド二階の窓から見ていたロイドは。
「……なんで街の人気者になってんだあの竜」
頭を抱えていた。




