第2話 朝ごはんと、村人たちの大騒ぎ
カイが目を覚ました時。
最初に感じたのは、ふかふかの布団の感触だった。
「……すごい」
思わず呟く。
柔らかい。
暖かい。
しかも身体が全然痛くない。
病院のベッドは清潔だったけれど、こんな“気持ちいい眠り”ではなかった。
窓の隙間から朝日が差し込み、鳥のさえずりが聞こえてくる。
「朝……かぁ」
それだけで、なんだか感動してしまう。
すると。
ぐぅぅぅぅぅ……。
お腹が鳴った。
「……あ」
カイは少し赤くなった。
そういえば昨日から何も食べていない。
病院食しか知らないカイにとって、“旅先のご飯”というものは未知の領域だった。
その時。
ばんっ!!
勢いよく扉が開いた。
「カイ!! 大変!!」
飛び込んできたのはリナだった。
髪は寝癖だらけで、息も荒い。
「どうしたの!?」
「村中大騒ぎなのよ!!」
「えぇ!?」
「朝起きたらこの小屋だけ高級宿みたいになってるんだもん!! そりゃ騒ぐわよ!!」
確かに外がやけに騒がしい。
窓の外を見ると、小屋の前に村人たちが集まっていた。
「あれ本当に空き小屋か……?」
「壁ピカピカなんだが……」
「空気まで違わない?」
ざわざわしている。
カイは首を傾げた。
「綺麗にしただけなんだけど」
「その“だけ”がおかしいのよ!!」
リナが全力でツッコむ。
その時。
「失礼する」
年配の男性が小屋へ入ってきた。
立派な髭を生やした、穏やかな雰囲気の男だ。
「この村の村長です。旅人殿、少しお話をよろしいかな?」
「はい!」
カイは素直に返事をした。
すると村長は部屋を見回し、感心したように目を丸くする。
「……これは見事だ。王都の宿より快適かもしれん」
「ありがとうございます?」
「褒めてるのよ、それ」
リナが補足した。
村長は咳払いを一つ。
「リナから話は聞きました。どうやら貴方は、かなり高位の魔導師のようだ」
「え? 生活魔法しか使えませんけど」
「その生活魔法で森の主を追い払ったと聞いたが」
「綺麗にしただけですよ?」
「……」
村長は遠い目をした。
リナも頭を抱える。
どうやら本人に自覚がないらしい。
「まあよい。それより――もしよければ、少し頼みを聞いていただけませんかな?」
「頼み?」
「実は村の共同浴場が壊れてしまいましてな」
「お風呂!」
カイの目が輝いた。
前世では満足に入浴もできなかった。
お風呂は憧れだったのである。
「ぜひやります!」
「食いつくところそこなの!?」
◆ ◆ ◆
村の共同浴場は、かなり古びていた。
壁はヒビだらけ。
配管は壊れ、お湯も出ない。
床もぬめぬめしている。
「うわぁ……」
カイは顔をしかめた。
不衛生センサーが反応した。
これはよくない。
非常によくない。
「任せてください」
カイは静かに手を掲げる。
「【一斉清浄】」
光が浴場を包み込む。
瞬間。
床のぬめりが消えた。
カビも汚れも完全消滅。
さらに。
「【修復】」
ヒビ割れた壁や床が、一瞬で新品同然へ戻る。
「【浄水】」
濁っていた水が透明になる。
最後に。
「【適温加熱】」
ごぼごぼごぼっ!!
浴槽から湯気が立ち上った。
「おおおおおおっ!?」
村人たちが歓声を上げる。
しかも湯加減が完璧だった。
熱すぎず、ぬるすぎず。
思わず入りたくなる理想の温度。
「な、なんだこの湯……!?」
「肌がつるつるするぞ!?」
「身体が軽い!!」
村人たちが大騒ぎする。
リナは呆然としていた。
「……あんた、本当に何なの?」
「生活魔法使いだけど?」
「生活魔法の概念壊れてるのよ……」
すると村長が、震える声で言った。
「旅人殿……もしや、“伝説級の浄化術師”では……?」
「違いますよ?」
カイは即答した。
「僕、旅がしたいだけなんです」
村長たちは顔を見合わせた。
こんな規格外の力を持ちながら、本人は本気でそう思っているらしい。
その時だった。
「村長ぉぉぉぉ!!」
一人の村人が慌てて駆け込んできた。
「大変です!! 畑が!!」
「畑?」
「昨日のマッドベア騒ぎで、畑が泥だらけに荒らされてて……今年の作物が!!」
村人たちの顔が青ざめる。
それを聞いたカイは、きょとんとした。
「泥?」
そして、にっこり笑った。
「それなら簡単ですよ?」




