第16話 名前と、竜連れ冒険者
「……一緒に旅します?」
夕暮れの門前が静まり返った。
風だけが草を揺らしている。
数秒後。
「「「はぁぁぁぁぁっ!?」」」
叫び声が爆発した。
門兵がひっくり返る。
冒険者たちが頭を抱える。
ロイドは額を押さえた。
「お前なぁ!! 相手は竜種だぞ!?」
「ワイバーンだよ?」
「分かって言ってんのか!?」
カイはきょとんとしている。
だがワイバーンは。
「グルル!」
なんだか嬉しそうだった。
巨大な尻尾がぶんぶん揺れる。
そのたびに地面が揺れる。
リナが震える声で言った。
「え、えっと……カイ?」
「うん?」
「旅って、つまりこの子も一緒ってこと?」
「懐いてくれたし」
「軽いのよぉ!!」
ロイドは深く息を吐いた。
夕陽が城壁を赤く染める。
街の人々は遠巻きに様子を見守っていた。
子供たちなんかは、もう興味の方が勝ってきている。
「ねぇお母さん、あの竜しっぽ振ってる」
「見ちゃダメです!」
「でも可愛い……」
ワイバーンは肉を食べ終えると、満足そうに喉を鳴らした。
「グルルル……」
さっきまで討伐対象だったとは思えない。
ロイドはその姿を見て、盛大にため息を吐く。
「……まあ、街道襲わなくなったなら依頼達成だ」
「じゃあ!」
「だが問題は山積みだ!」
ロイドが即座にツッコむ。
「そんなデカブツ連れて街入れられるわけねぇだろ!!」
確かにその通りだった。
ワイバーンは巨大だ。
普通の家より大きい。
こんなのが街中歩いたら建物が壊れる。
すると。
「グル?」
ワイバーンが少ししょんぼりした。
尻尾まで下がる。
その様子を見たカイは、少し考え込む。
「……小さくなれたりしない?」
「グル?」
ワイバーンが首を傾げた。
数秒後。
ぽんっ。
煙みたいな光が弾けた。
「「「え?」」」
次の瞬間。
ワイバーンが縮んだ。
巨大だった身体が、みるみる小さくなっていく。
翼が縮む。
尻尾が縮む。
脚も縮む。
そして。
最終的に。
大型犬くらいのサイズになった。
「……キュル?」
ちょこん。
全員が固まった。
「……縮んだ」
リナが呆然と呟く。
小さい。
それでも竜らしい姿はそのままだった。
深緑の鱗。
小さな翼。
黄金の瞳。
だがサイズ感のせいで迫力より可愛さが勝っている。
しかも首元のふわふわ毛並みがかなりもふもふだった。
「えぇぇぇ……」
門兵たちがざわつく。
ロイドが頭を抱えた。
「竜種って縮むのかよ……」
ベルクが真顔で呟く。
「聞いたことがない」
つまりまたカイの影響だった。
たぶん【柔軟】とか【修復】とか色々やったせいで、魔力循環が異常進化した。
本人だけ気づいていない。
その時。
小さくなったワイバーンが、カイの足元へすり寄った。
「キュルル……♪」
完全に懐いていた。
カイは嬉しそうに撫でる。
「小さくなったね」
「キュル!」
「可愛い」
その瞬間。
周囲の空気がざわついた。
「かわ……?」
「竜種に?」
「可愛いって言ったぞ今」
リナは遠い目をする。
もう感覚がおかしくなりそうだった。
するとロイドがふと思い出したように言う。
「そういや名前どうすんだ」
「名前?」
「そいつのだよ」
小型ワイバーンが「キュル?」と顔を上げる。
確かに、ずっと“ワイバーン”呼びだった。
カイは少し考える。
夕陽を浴びた深緑の鱗。
森みたいな色。
空を飛ぶ姿。
しばらく悩んだあと。
「……フォル」
「キュル?」
「風っぽかったから」
フォルはぱちぱちと瞬きをした。
それから。
「キュルルルッ♪」
嬉しそうに尻尾をぶんぶん振った。
どうやら気に入ったらしい。
その姿を見て、近くにいた子供がぽつりと呟く。
「……かわいい」
するとフォルは得意げに胸を張った。
「キュル!」
完全に小動物だった。
夕暮れの門前。
そこにいるのは。
規格外の生活魔法使い。
ツッコミ役の少女。
そして。
名前を付けられてご機嫌な、もふもふ小型ワイバーン。
誰かが遠い目で呟く。
「……もう討伐対象って感じじゃねぇな、これ」




