第15話 竜のご飯と、街中パニック
夕暮れのフィルンの門前。
巨大なワイバーン。
腰を抜かした門兵。
頭を抱えるギルドマスター。
そして。
「この子って何食べます?」
真顔で聞いてくるカイ。
ロイドは深いため息を吐いた。
「普通に考えりゃ肉だろ……」
「どれくらい?」
「知らねぇよ!! 俺は竜飼育員じゃねぇ!!」
ワイバーンが「グルル」と鳴く。
なんだか不満そうだった。
その鳴き声だけで門兵たちがびくっと肩を震わせる。
夕陽を浴びた巨大な身体は迫力が凄まじい。
深緑の鱗は鎧みたいに硬そうで、鋭い牙は人の腕くらい簡単に噛み千切れそうだった。
なのに。
カイへ頭を擦り寄せている。
ぐりぐり。
大型犬みたいだった。
「わっ」
カイが少しよろける。
「グルル」
「お腹空いたの?」
「グル」
頷いた。
リナが頭を抱える。
「なんで会話できるのよほんと……」
その時。
「お、おい見ろ……」
誰かが呟いた。
気づけば、街の人たちが遠巻きに集まり始めていた。
家の窓から顔を出す人。
物陰から覗く子供たち。
露店商たち。
冒険者。
全員、恐怖と好奇心が入り混じった顔でワイバーンを見ている。
「ほんとに懐いてる……」
「竜種だぞ……?」
「夢か?」
すると。
ぐぅぅぅぅ……。
再びワイバーンの腹が鳴った。
しかもかなり大きい。
空気が震えるレベルだった。
カイは真剣に考え込む。
「やっぱりご飯必要だよね」
ロイドが嫌な予感を覚えた。
「……おい坊主」
「はい?」
「まさか街の家畜とか食わせる気じゃねぇだろうな」
「えっ、駄目です」
即答だった。
ロイドが少し安心する。
だが次の瞬間。
カイはぽん、と手を叩いた。
「じゃあ大きいお肉作ろう」
「は?」
嫌な予感が倍増した。
カイは空いている草地へ歩いていく。
そして。
「【生成】」
淡い光が地面へ広がった。
次の瞬間。
ドォンッ!!
巨大な肉塊が出現した。
「「「!?」」」
周囲が凍る。
でかい。
とにかくでかい。
牛一頭分どころではない。
小屋みたいなサイズの分厚い肉塊が、草地へ鎮座していた。
しかも。
じゅううう……。
いい匂いがする。
表面がこんがり焼けていた。
肉汁が滴っている。
香辛料の香ばしい匂いまで漂っていた。
門兵の一人が呆然と呟く。
「……飯テロ?」
ロイドが顔を引き攣らせる。
「お前、なんでそんなもん出せんだよ……」
「生活魔法です」
「生活の規模がおかしいんだよ!!」
ワイバーンの目が輝いた。
「グルルルル!!」
尻尾がぶんぶん揺れている。
完全にテンションが上がっていた。
「熱いから気をつけてね」
「グル!!」
次の瞬間。
ガブゥッ!!
ワイバーンが巨大肉へ食らいついた。
肉汁が飛び散る。
骨ごと噛み砕く轟音が響く。
「おぉ……」
街の人たちが思わず見入る。
豪快だった。
だが不思議と恐怖感は薄い。
食べ方が嬉しそうすぎる。
ワイバーンは夢中で肉へかぶりついていた。
尻尾まで振っている。
「……なんか犬っぽいな」
冒険者の一人が呟いた。
「わかる」
「いやでもサイズが家なんよ」
リナはその光景を見ながら、遠い目をしていた。
つい昨日まで普通の村娘だった。
なのに今は。
街の門前で。
巨大なワイバーンが。
生活魔法で出された超巨大ステーキを食べている。
意味が分からない。
その時だった。
「おい」
ロイドが低い声でカイを呼ぶ。
「はい?」
ギルドマスターは真顔だった。
「お前、そのワイバーンどうする気だ」
静かになった。
周囲の視線が集まる。
確かに問題だった。
懐いたとはいえ、相手は竜種。
街の近くへ置いていい存在じゃない。
カイはワイバーンを見る。
ワイバーンも肉を咥えたまま「グル?」と首を傾げた。
数秒後。
カイは真剣な顔で言った。
「……一緒に旅します?」
「「「は???」」」
フィルンの夕空に、全員の叫び声が響いた。




