第14話 帰還報告と、討伐されたくない竜
ワイバーンがフィルンの外壁近くへ降下していく。
巨大な翼が羽ばたくたび、突風が街道の砂を巻き上げた。
門番たちは完全に腰が引けていた。
「来るぞ!!」
「防壁起動!!」
「弓兵!! 弓兵ぃ!!」
警鐘が鳴り響く。
街の中では人々が慌てて建物へ駆け込み、露店商が商品を抱えて逃げ回っていた。
夕暮れの穏やかな街は、一瞬で大混乱になっている。
そんな中。
ズゥゥゥン……!!
ワイバーンが街の外へ着地した。
地面が揺れる。
砂煙が舞い上がる。
巨大な翼がゆっくり閉じられ、その威圧感に門兵たちは青ざめた。
だが次の瞬間。
「よいしょ」
ひょいっと背中から降りたカイの第一声がそれだった。
緊張感がない。
ワイバーンは満足そうに喉を鳴らしている。
「グルル」
「ありがとう。すごく楽しかった」
カイが首元を撫でると、ワイバーンは気持ちよさそうに目を細めた。
門兵たちが凍りつく。
「……懐いてる?」
「いやいやいやいや」
「なんで?」
全員の頭が追いついていなかった。
その時。
「おいコラァァァァ!!!」
怒号が飛んだ。
ギルドから飛び出してきたロイドだった。
黒いコートを翻しながら、ものすごい勢いでこちらへ歩いてくる。
後ろにはベルクや冒険者たちの姿もあった。
全員、唖然としている。
ロイドはワイバーンを見上げ。
カイを見て。
もう一度ワイバーンを見る。
そして。
「……なんで増えてんだよ」
絞り出すように言った。
「討伐依頼だったよな!?」
「はい」
「なんで乗って帰ってきてんだ!!」
リナが遠い目で呟く。
「私も同じこと思った」
カイは不思議そうに首を傾げた。
「でも怪我してたので」
「怪我?」
ロイドが眉をひそめる。
カイはワイバーンの翼を指差した。
「傷が化膿してて痛そうだったから、治して綺麗にしたら懐いてくれて」
「グルル」
ワイバーンが誇らしげに胸を張る。
ベルクが頭を抱えた。
「竜種を治療して手懐ける者があるか……」
周囲の冒険者たちもざわつく。
「討伐じゃなくて調教して帰ってきやがった……」
「いや調教でもねぇだろこれ」
「なんなんだあいつ」
ロイドは深いため息を吐いた。
だがその目は、どこか呆れ半分、感心半分だった。
「……で?」
「はい?」
「街道の安全は?」
カイは振り返る。
ワイバーンは「グル?」と首を傾げた。
「もう襲わないよね?」
「グルル」
大きく頷いた。
完全に会話成立していた。
門兵たちがさらにざわつく。
ロイドは額を押さえた。
「……まあ、確かに安全にはなったな」
「討伐しなくても大丈夫でした」
「結果だけ見れば完璧なんだが、過程が意味不明すぎる」
その時だった。
ぐぅぅぅ……。
低い音が響く。
全員の視線が止まる。
ワイバーンだった。
「……腹減ってるのか?」
ロイドが呟く。
「グル」
ワイバーンが素直に頷く。
周囲が一歩下がった。
竜種の食事量なんて想像したくもない。
だがカイは「あっ」と声を上げた。
「そうだ、ご飯」
そして普通に言った。
「ロイドさん、この子って何食べます?」
「知らねぇよ!!」
ギルドマスターのツッコミが夕暮れの街へ響いた。




