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第12話 竜の傷と、ふわふわの翼


渓谷を吹き抜ける風が、ゴウゴウと岩肌を揺らしていた。


巨大なワイバーンは低く唸りながら、鋭い瞳でカイを見下ろしている。


その巨体だけで圧迫感が凄まじい。


黄色い瞳は獣そのものだ。


一歩間違えれば、その牙で噛み砕かれる。


だが。


「……やっぱり痛そう」


カイは心配そうに翼を見ていた。


左翼の付け根。


鱗が裂け、赤黒く腫れている。


しかも傷口には泥や小石まで入り込んでいた。


見るからに状態が悪い。


リナが小声で言う。


「カイ……あれ、縄張り争いの傷かもしれない」


「縄張り争い?」


「竜種って縄張り意識強いから。たぶん別の魔物と戦ったのよ」


ワイバーンは再び低く唸った。


「グルルル……」


近づけば威嚇するように翼を広げる。


暴風が吹き荒れ、砂が舞う。


それでもカイは逃げなかった。


「大丈夫。痛いことしないから」


ゆっくり、一歩ずつ近づく。


リナは生きた心地がしなかった。


(普通、竜種にそんな近づき方する!?)


だが不思議なことに。


ワイバーンもすぐには襲ってこない。


むしろ戸惑っているように見えた。


自分を見て怯えない人間など、初めてなのだろう。


カイは傷口の近くまで来ると、そっと眉を寄せた。


「うわぁ……化膿してる」


「グル……」


「これ絶対痛いよね」


ワイバーンが少しだけ目を逸らした。


図星らしい。


カイは静かに手をかざした。


「じゃあ、綺麗にするね」


リナが慌てて叫ぶ。


「待って!? 急に魔法かけたら怒るんじゃ――」


「【清浄】」


ふわり、と白い光が広がった。


優しい光だった。


暴力的な魔力の奔流ではない。


春の日差しみたいな、穏やかな光。


それがワイバーンの傷口を包み込む。


「グルッ!?」


一瞬、ワイバーンが身を震わせた。


泥が消える。


血が洗い流される。


傷口が綺麗になっていく。


さらに。


「【修復】」


淡い光が鱗を撫でた。


裂けていた傷が、みるみる塞がっていく。


赤く腫れていた部分も元通りになった。


数秒後。


そこには、傷一つない綺麗な翼があった。


「グル……?」


ワイバーンが目を瞬かせる。


ゆっくりと翼を動かす。


ばさっ。


空気が震えた。


痛みが消えている。


ワイバーンは呆然としていた。


リナも呆然としていた。


「……治した」


しかも一瞬で。


高位治癒術師でも、竜種の傷をここまで綺麗には治せない。


だがカイは首を傾げている。


「んー……でもちょっと毛並み悪いな」


「毛並み!?」


リナがツッコむ。


ワイバーンには羽毛のような柔らかい体毛が、首元や翼の根元に生えていた。


そこが砂埃で少しごわついている。


カイは真剣だった。


「汚れてると痒そう」


「いやそこ気にする!?」


カイはそっと翼へ触れる。


ワイバーンはびくっとしたが、逃げなかった。


「【柔軟】」


ふわぁっ――。


風が吹いた。


次の瞬間。


ワイバーンの体毛が、信じられないほどふわふわになった。


陽光を反射して艶まで出ている。


もはや高級毛布だった。


「グルッ!?」


ワイバーンが目を見開く。


自分の翼を見ている。


ぱたぱた動かす。


ふわふわだった。


「グルル……」


なんか嬉しそうだった。


カイは満足げに頷く。


「うん。綺麗」


その時。


ワイバーンが、そっと頭を下げた。


巨大な竜の頭が、カイの前へ差し出される。


「……え?」


リナが目を丸くする。


竜種が。


人間へ。


頭を下げた。


ワイバーンは喉を鳴らした。


「グルルル……」


敵意はもうなかった。


むしろ懐いている。


カイは少し迷ってから、その頭を撫でた。


鱗はひんやりしていた。


「よしよし」


「グルゥ……」


完全に大きい犬みたいになっていた。


リナは頭を抱える。


「……もう驚かないって決めてたのに」


その直後。


――ゴオオオオオッ!!


ワイバーンが突然、大きく翼を広げた。


暴風が渓谷を駆け抜ける。


「きゃっ!?」


リナが目を閉じる。


だが。


ワイバーンは空へ飛び立たなかった。


代わりに。


ぐいっ、と。


カイの服を軽く咥えた。


「……?」


「グル」


そして背中を向ける。


数秒の沈黙。


リナが恐る恐る呟いた。


「……これ、乗れって言ってない?」


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