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第11話 渓谷への道と、空の王者


フィルンの街を出たのは、昼前だった。


青空が高く広がり、石畳の街道には春の風が吹いている。


街の門を抜けると、景色は一気に変わった。


なだらかな丘。


黄金色の草原。


遠くに連なる山脈。


街道沿いには白い花が咲き、小さな川がきらきらと陽光を反射している。


カイは相変わらず、きょろきょろと周囲を見回していた。


「すごいなぁ……」


「また始まった」


リナが苦笑する。


だが、少し分かる気もした。


この景色は確かに綺麗だった。


風が気持ちいい。


空気も澄んでいる。


旅をしている、という実感がある。


ただ一つ問題があるとすれば。


「……本当に行くのね」


「うん」


「相手、竜種だからね?」


「ワイバーンだよね」


「軽いのよ反応が!!」


リナは頭を抱えた。


ワイバーン。


それは下位竜種とはいえ、普通の冒険者なら命懸けの相手だ。


鋼を裂く鉤爪。


馬を丸呑みにする顎。


空を飛ぶ圧倒的機動力。


新人が受ける依頼では断じてない。


なのにカイは。


「ちょっと楽しみ」


とか言っている。


怖がってはいる。


だが、それ以上に“見たことのない生き物”への好奇心が勝っていた。


「はぁ……」


リナは深いため息を吐く。


けれど、不思議と絶望感はなかった。


たぶん。


カイならなんとかしてしまう。


そんな妙な安心感がある。


◆ ◆ ◆


数時間後。


二人は渓谷地帯へ到着した。


切り立った岩壁が左右にそびえ立ち、細い街道が谷間を縫うように続いている。


風が強い。


上空では黒い鳥が旋回していた。


岩肌には巨大な爪痕が刻まれている。


「……いるわね」


リナが小声で呟く。


空気が変わっていた。


静かすぎる。


魔物の気配すらない。


まるで、この一帯全てが“縄張り”になっているみたいだった。


その時。


ヒュオオオオオッ――!!


突風。


影が走る。


「――上!!」


リナが叫ぶ。


次の瞬間。


巨大な影が、空から舞い降りた。


ズドォォォンッ!!


地面が揺れる。


砂煙が舞い上がった。


現れたのは、巨大な翼竜だった。


深緑の鱗。


鋭い黄色の瞳。


槍みたいな牙。


広げた翼だけで十メートル以上ある。


ワイバーン。


本物の竜種だった。


「グルルルルル……」


低い唸り声だけで空気が震える。


リナの背中に冷や汗が流れた。


威圧感が凄まじい。


目の前に立つだけで、本能が警告してくる。


逃げろ、と。


だが。


「おお……!」


カイは目を輝かせていた。


「すごい……!」


「感動してる場合!?」


リナが叫ぶ。


ワイバーンが翼を広げた。


轟っ、と暴風が吹き荒れる。


岩が砕け、砂が舞う。


普通の人間なら立っていられない。


だがカイは感心したように呟いた。


「翼綺麗だなぁ」


「グル?」


ワイバーンが一瞬止まる。


褒められると思っていなかったらしい。


カイは一歩前へ出た。


「こんにちは」


「ちょっと待ってぇぇぇ!!」


リナが悲鳴を上げる。


相手は竜種だ。


普通そんな距離まで近づかない。


だがカイは気にしていない。


むしろ興味津々だった。


「君が街道を塞いでるの?」


「グルル……」


ワイバーンが低く唸る。


鋭い牙が覗く。


普通なら恐怖で足が竦む。


しかしカイは真剣な顔になった。


「……あ」


「え?」


「怪我してる」


ワイバーンの左翼。


根元近くに、大きな傷があった。


鱗が剥がれ、黒ずんでいる。


しかも少し膿んでいた。


リナもようやく気づく。


「あれ……」


ワイバーンは威嚇するように翼を広げた。


近づくな、と言っているのだろう。


だがカイは眉を下げた。


「痛そう」


その声は、本当に心配そうだった。


ワイバーンが僅かに目を細める。


カイはそっと手を上げた。


「治す?」


渓谷に、風の音だけが響いた。


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