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第111話 快適性談義


「それが、なんだか少し好きだった。」


 そんな感覚を、

 カイはぼんやり抱いていた。


 工房の中は騒がしい。


 弟子達が走り回り、

 工具の音が鳴り、

 蒸気が時々白く吹き上がる。


 なのに妙に落ち着く。


 多分、

 ここにある物全部が“生活のため”だからだった。


「おい坊主、こっち来い」


 ガルドが奥の作業台を叩く。


 巨大な木製作業机だった。


 表面には細かな焦げ跡や削り痕。


 長年使われてきたのが分かる。


 その上には、

 分解途中の生活魔導具が並んでいた。


 細い銀導管。


 透明な魔力結晶。


 小型羽根。


 術式板。


 カイは自然と近づく。


「これ何」


「携帯乾燥器だ」


 ガルドが部品を持ち上げる。


「旅先で衣類乾かす用」


 金属筒型の道具だった。


 手のひらより少し大きい。


 側面には細かな通気孔。


 内部には三重構造の術式板が埋め込まれている。


 火属性。


 風属性。


 水分制御。


 それぞれ独立して刻まれていた。


 カイは少し目を細める。


「……乾燥ドライに近い」


 その瞬間、

 ガルドの目が光った。


「使えるのか!?」


「うん」


 レオンが肩を竦める。


「カイの生活魔法だいたい頭おかしいぞ」


「精密操作型だしな」


 ガルドは興味津々だった。


「見せてみろ坊主!」


 カイは少し考え、

 近くに掛かっていた濡れ布を手に取る。


 そして。


乾燥ドライ


 ふわり、と。


 空気が変わる。


 熱すぎない。


 風も強すぎない。


 なのに、

 布から水分だけが自然に抜けていく。


 湿気が一点に籠もらず、

 周囲へ静かに分散される。


 数秒後。


 布は完全に乾いていた。


 しかも柔らかいまま。


 弟子達が固まる。


「は?」


「えっ?」


「早っ……!?」


 ガルドだけが真顔だった。


「……なるほど」


 カイを見る目が変わる。


「三属性同時制御か」


「風量調整」


「温度制御」


「湿度分散」


「しかも全部リアルタイム調整」


 ガルドはニヤリと笑う。


「生活魔法扱いされてるだろそれ」


「うん」


「だが難易度クソ高ぇな?」


「まあまあ?」


「まあまあじゃねぇ!!」


 レオンが笑い転げる。


 リナも呆れていた。


「やっぱ普通じゃないわよね……」


 ガルドは完全に楽しそうだった。


「いいじゃねぇか!」


「こういう“無駄に高難易度な生活魔法”大好きだぞ俺!」


 そして次の瞬間。


 ガルドは棚を漁り始める。


「待ってろ坊主!」


「面白ぇ物見せてやる!」


 奥から引っ張り出してきたのは、

 銀色の細長い筒だった。


 表面には大量の通気孔。


 内部には複雑な術式層。


 持ち手部分には温度調整用らしき小型ダイヤル。


「試作型携帯乾燥機だ!」


「旅先用!」


 リナが頭を抱える。


「また始まった……」


 ガルドは真剣だった。


「だが風制御が甘い!」


「乾燥ムラ出る!」


 カイは筒を受け取り、

 静かに術式を見る。


「……ここ流れぶつかってる」


「お?」


「風向き逆」


「あと熱少し強い」


 ガルドが数秒止まり――


 次の瞬間。


「やっぱお前最高だな!?」

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