第109話 街道沿いの魔導工房
王都を出てから数時間。
太陽は少し高くなり、
街道にも昼前の暖かさが広がり始めていた。
空は青い。
雲は薄く、
風も穏やかだった。
街道は途中からゆるやかな丘道へ変わり、
左右の景色も少しずつ変化していく。
背の高い草原だった景色に、
木々が増え始めていた。
白樺のような白い幹の木。
濃い緑の針葉樹。
枝葉の隙間から差し込む光が、
地面へまだら模様を落としている。
道脇には小さな花も咲いていた。
紫色。
薄青色。
名前も知らない野花が、
風に揺れている。
時折、
遠くから鳥の鳴き声が聞こえた。
街道脇には浅い水路も流れていて、
澄んだ水が太陽を反射しながら静かに流れている。
その水音を聞きながら歩いていると、
自然と気持ちも落ち着いてくる。
「……いい」
カイが小さく呟いた。
レオンが横で笑う。
「気に入ったか?」
「静か」
「王都と真逆だからな」
リナも少し伸びをする。
「空気軽いわね」
「分かる」
アルトでさえ、
どこか肩の力が抜けていた。
王都にいる時より、
明らかに表情が柔らかい。
そんな中。
前方に少し変わった建物が見えてきた。
街道脇。
木立を切り開いた場所に、
大きな工房が建っている。
石と木材を組み合わせた無骨な建物だった。
だが普通の工房とは違う。
壁面に大量の魔導パイプ。
回転している小型風車。
屋根には水流制御用らしき導管。
煙突はあるが、
黒煙ではなく白い蒸気が細く上がっている。
建物横では、
小さな水車まで回っていた。
しかもその水車、
途中から術式光が流れている。
「……何あれ」
リナが若干引いた顔をする。
レオンは笑った。
「あれ全部ガルドの趣味」
「快適化研究の塊だ」
ティアは目を輝かせる。
「すごいです……!」
工房周辺だけ、
妙に整っていた。
街道の土も均され、
石段の高さまで綺麗に揃っている。
風通りまで計算されているのか、
周囲より少し涼しい。
カイは周囲を見回し、
少しだけ目を細めた。
「……空気流れてる」
ベルクが笑う。
「気づくか」
「建物配置で風の通り道作っとるんじゃ」
アルトが少し呆れた顔になる。
「本当に快適性に全振りしてるな……」
その時だった。
――ガンッ!!
工房の奥から、
盛大な金属音が響く。
続けて。
「違う!!」
「そこを連結すると湿気が逆流するだろうがァ!!」
怒鳴り声。
そして。
「だから結露するんだよ!!」
さらに別の怒鳴り声。
ティアがびくっと肩を震わせた。
レオンが苦笑する。
「通常運転だな」
工房の扉が勢いよく開いた。
現れたのは、
大柄な男だった。
無精髭。
太い腕。
作業着。
腰には大量の工具。
額には汗。
そして目つきが鋭い。
「おい馬鹿弟子!!」
「冷却術式の前に湿度管理覚えろっつっただろ!!」
後ろから若い職人が涙目で叫ぶ。
「無理ですよ師匠!!」
「湿度制御難しいんですよ!!」
「そこが生活魔導具の肝なんだよ!!」
ガルドだった。
そして次の瞬間。
ガルドの視線が、
レオン達の方へ向く。
「……お?」
数秒。
そして。
カイを見た瞬間だった。
ガルドの目の色が変わる。
「――お前」
職人の勘みたいなものだった。
一瞬で分かる。
こいつ、
普通じゃない。
だが同時に――
“同じ方向の人種”だとも分かった。




