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第107話 市場飯と、旅支度


「……おいしい」


 焼き串を食べたカイがぽつりと呟く。


 レオンが笑った。


「だろ?」


「ここの香辛料、旅人向けで濃いんだよ」


 市場通りには香ばしい匂いが満ちていた。


 焼き肉。


 果実菓子。


 揚げパン。


 昼前の市場は人も多く、

 かなり賑やかだ。


 ティアは完全に楽しそうだった。


「王都ってすごいですね……!」


「中央市場は特に人多いからな」


 レオンが答える。


 アルトも少し離れた屋台で飲み物を買っていた。


 貴族らしい堅苦しさはあるが、

 市場慣れはしているらしい。


 その様子を見て、

 リナが少し面白そうに言う。


「案外普通に馴染んでるわね」


「王都育ちなら市場くらい来る」


 アルトは当然のように返した。


「ここの果実菓子は有名だ」


「詳しいじゃない」


「……昔からある店だからな」


 そんなやり取りを聞きながら、

 カイは周囲を見ていた。


 賑やかな空気。


 普通に笑っている人達。


 荷物を抱えて歩く旅人。


 それを見ているだけでも、

 少し新鮮だった。


 その後。


 一行は旅用の買い出しを進めていく。


 保存食。


 水袋。


 携帯灯。


 街道用の外套。


 王都外まで歩くなら、

 それなりに準備が必要らしい。


 カイは並べられた旅道具をじっと見ていた。


「これ全部使うの?」


「街道は何があるか分からねぇからな」


 レオンが言う。


「雨も来るし、夜は冷える」


「保存食も多めに持つ」


 カイは少し考える。


「……歩くのって大変なんだ」


「お前基準で考えるな」


 リナが即座に突っ込む。


「普通は長距離歩けば疲れるの!」


「そうなの?」


「そうなのよ!」


 アルトが呆れ顔で口を開く。


「お前、本当に常識抜けてるな……」


 だが以前より声色は柔らかかった。


 もう最初みたいな敵意は薄い。


 理解不能なだけだ。


 その時。


 レオンが荷物をまとめながら言う。


「明日王都出たら、昼過ぎくらいにはガルドの工房寄れると思うぞ」


 ベルクが頷く。


「あやつの工房、街道沿いじゃからな」


「山側へ入る前の休憩地点として丁度いい」


 ティアが少し首を傾げた。


「そんなに遠い場所なんですか?」


「温泉街自体は数日だな」


 レオンが答える。


「途中に小村とか休憩所もある」


「景色も結構変わるぞ」


 その言葉に、

 カイは少し窓の外を見る。


 王都の外。


 まだ見たことのない景色。


 知らない道。


 それを自分の足で歩ける。


 その感覚が、

 少しだけ嬉しかった。


「……楽しみ」


 小さな声だった。


 でも、

 ティアはすぐ気づいて笑った。


「はい!」


 レオンも少し笑う。


「まあ、お前なら絶対気に入る」


 アルトだけは少し眉を寄せていた。


「……本当に一緒に行く流れなのか?」


「諦めろ赤毛」


「誰が赤毛だ」

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