第106話 疲れてる顔と、生活改善談義
「うわ、そこ行く!?」
リナが思わず声を上げる。
アルトは完全に固まっていた。
「……は?」
カイは普通に続ける。
「目の下少し暗い」
「寝不足?」
「……」
沈黙。
護衛の一人が思わず視線を逸らした。
レオンが肩を震わせる。
「図星かよ」
「うるさい」
アルトは眉間を押さえた。
「ここ数日、会合準備で寝てないだけだ」
「貴族側も色々大変なんだよ」
「そうなの?」
「お前が原因の一部だ」
「?」
カイは本気で分かっていなかった。
エルミナが小さく呟く。
「本人に自覚がないのが一番怖いんですよね……」
その時。
カイがふとアルトの荷物を見る。
「それ重そう」
「……旅用だからな」
「肩紐硬い」
アルトが少し眉をひそめた。
「見ただけで分かるのか」
「多分肩痛くなる」
「…………」
レオンが吹き出す。
「始まった」
カイは普通に続ける。
「内側に布入れた方がいい」
「重さ散るから」
「あと紐幅少し広い方が楽」
アルトは数秒黙る。
その横で、
護衛の男が小さく呟いた。
「……それ、前に工房職人にも言われました」
「ガルドじゃろ」
ベルクが笑う。
護衛が驚く。
「ご存知で?」
「あの変人は有名じゃ」
アルトが少し嫌そうな顔になる。
「会ったことある」
「延々“旅の快適性”について語られた」
レオンが腹を抱えて笑った。
「絶対相性悪い!」
「三時間拘束されたぞ!」
「長ぇな!?」
アルトは本気で疲れた顔だった。
「“靴底の衝撃吸収について理解しているか?”から始まった」
「途中から何言ってるか分からなかった」
その瞬間。
カイがぽつりと言う。
「大事」
アルトが静止した。
「……お前までそっち側なのか」
「歩くと疲れるから」
「そりゃそうだが!」
レオンがもう駄目だった。
「ははっ……駄目だ……!」
「お前ら絶対仲良くなるって!」
ベルクも笑っている。
「ガルドが喜びそうじゃのう」
アルトは深いため息を吐いた。
だが。
以前ほど空気は険悪ではなかった。
少なくとも、
もう“敵”として見てはいない。
理解不能ではある。
だが、
妙に自然体で、
悪意だけは本当に無い。
それが少し調子を狂わせる。
その時。
市場通りの奥から、
焼きたての香りが流れてきた。
カイの視線が自然にそちらへ向く。
レオンが笑う。
「腹減ったか?」
「……ちょっと」
「よし、休憩するか」
リナが呆れ顔になる。
「さっき朝食食べたばっかでしょ」
「歩くと減る」
「分かるけど!」
ティアは楽しそうだった。
「市場の食べ歩きですね!」
アルトは少し考え――
なぜか自然にその場へ残っていた。
護衛の男が小声で聞く。
「アルト様、会合準備は……」
「……後でいい」
そう言った瞬間。
レオンがニヤッと笑った。
「お、来るか赤毛」
「誰が赤毛だ」




