第105話 赤髪の青年と、また厄介な遭遇
「……なんでお前らがいる」
アルトは露骨に嫌そうな顔でそう言った。
レオンが即座に笑う。
「そりゃこっちの台詞だ赤毛」
「市場に来ただけだ」
「お前もだろ」
「俺は普通に買い物だ」
アルトの後ろには護衛らしき男が二人いる。
以前より軽装だが、
貴族側の人間なのはすぐ分かった。
だが。
アルトの視線はすぐに別方向へ向いた。
カイである。
正確には――
カイが手に持っている保温水筒と、
術式が書き換わった痕跡を見ていた。
「……何をした」
低い声だった。
店主が勢いよく答える。
「いやこの坊主が術式調整を――」
「言わなくていい」
アルトが即止めた。
頭痛を堪える顔だった。
レオンがニヤニヤしている。
「もう慣れろって」
「慣れられるか」
アルトは疲れた顔で言った。
「なんで市場で普通に高位術式改造してる」
「効率悪かった」
カイは普通に答える。
「だから直した」
「だから、で済む問題か!?」
リナがぼそっと言う。
「やっぱツッコミ役になるわよねぇ」
エルミナも静かに頷いた。
「気持ちは分かります」
アルトは一度深く息を吐く。
それから改めてカイを見る。
以前会った時と同じ。
妙に静かで。
危機感が薄くて。
なのに、
周囲の常識だけを壊していく少年。
正直まだ理解できない。
だが。
以前より不思議と嫌悪感は薄れていた。
その時。
店主が興奮したまま言った。
「兄ちゃんマジですげぇぞ!」
「魔導技師でもここまで綺麗に流れ変えられねぇ!」
アルトが頭を押さえる。
「目立つな……!」
「無理だろもう」
レオンが笑った。
ティアはそんなやり取りを楽しそうに見ている。
カイは少しだけアルトを見る。
「……買い物?」
「そうだが」
「何買うの?」
「旅用品だ」
そこまで言って、
アルトは少し眉を寄せた。
「……お前らもか?」
レオンが頷く。
「温泉街行く」
一瞬。
アルトの動きが止まる。
「は?」
「王都外縁の」
「いや知ってる」
アルトは数秒黙ったあと、
ものすごく嫌そうな顔をした。
「……偶然だな」
「お前もか?」
「別件だ」
即答だった。
だがレオンは察した顔になる。
「あー、貴族会合絡みか」
「言うな」
ベルクが少し笑う。
「なんじゃ、仕事か」
「半分な」
アルトはため息を吐いた。
「父上の代理だ」
貴族という立場上、
温泉街の保養地では時々社交会や会談も行われる。
アルトはその随行らしい。
そして。
レオンが嫌な笑みを浮かべた。
「じゃあ途中まで一緒じゃねぇか」
「断る」
「即答!」
リナが吹き出す。
だがベルクは面白そうに笑っていた。
「まあ良いではないか」
「道中賑やかな方が退屈せん」
アルトは本気で嫌そうだった。
しかしその横で。
カイだけが少し考える。
「……赤髪」
「なんだ」
「前より疲れてる?」
その瞬間。
アルトが固まった。
レオンが吹き出す。
リナは顔を覆った。
「うわ、そこ行く!?」




