第101話 温泉街計画と、それぞれの反応
「温泉街なら、少しは肩の力も抜けるじゃろう」
ベルクの言葉に、食堂の空気が少し和らいだ。
カイは静かに考える。
肩の力。
正直、自分ではよく分からない。
ただ。
王都へ来てから、“落ち着かない”ことは確かだった。
人が多い。
視線も多い。
静かな場所は好きだ。
でも、完全に一人なのも違う。
だから今みたいに、
誰かと普通に話している時間は嫌いじゃなかった。
「温泉って、そんなにいいの?」
カイの問いに、レオンが笑う。
「おう」
「疲れてる時に入るとマジで溶ける」
「溶ける?」
「比喩だ比喩」
リナが呆れた顔をする。
「絶対変な教え方してるわよね」
ベルクも少し笑った。
「まあ、入れば分かる」
「温泉街の露天風呂は景色も良い」
「夜は特にな」
ティアがわくわくした顔になる。
「夜の露天風呂……!」
「星とか見えるんですか?」
「見えるぞ」
ベルクが頷く。
「場所によっては山の湯から王都の灯りも見える」
その情景を想像したのか。
カイは少しだけ静かになった。
レオンがその反応を見る。
「……お前、結構楽しみにしてるだろ」
「……少し」
「少しかそれ」
リナが笑う。
エルミナはそんなやり取りを見ながら、ふっと表情を緩めた。
さっきまで総会だの国家案件だの話していた空気とは思えない。
でも。
こっちの方が、たぶん自然だった。
「そういえば」
レオンが思い出したように言う。
「温泉街なら、アイツも呼ぶか」
「アイツ?」
「知り合いの魔導具職人」
ベルクが「ああ」と頷いた。
「カイトか」
リナが首を傾げる。
「誰?」
「王都外縁で工房やっとる変人じゃ」
「便利道具ばっか作っとる」
レオンが笑う。
「カイとは相性いいと思うぞ」
「快適性に命懸けてるタイプだからな」
カイが少し反応する。
「便利?」
「無駄に便利」
「風呂上がりの飲み物を冷やす専用魔導具とか作る」
数秒。
カイの目が少し動いた。
「……気になる」
レオンが吹き出す。
「食いついた!」
ベルクも笑っていた。
「まあ、お主ら気が合うかもしれんな」
ラウフェンはその様子を見ながら静かに言う。
「……温泉街への外出許可なら問題ないだろう」
「副学院長も反対はせんはずだ」
エルミナが苦笑する。
「むしろ“行ってください”と言われそうです」
「確実にな」
レオンが頷く。
「研究院側も、“休んでくれ”って思ってるだろ」
その時。
カイがぽつりと言った。
「……歩いて行ける?」
ベルクが少し目を細める。
「距離はあるぞ?」
「でも行ける」
「歩きたいのか?」
カイは静かに頷いた。
「自分で見たい」
短い言葉。
でも、それは確かな本音だった。
馬車から眺めるだけじゃなく。
誰かに説明されるだけじゃなく。
ちゃんと自分の足で歩いて、
景色を見て、
空気を感じて、
世界を知りたい。
それは前世では出来なかったことだから。
ベルクはその答えを聞いて、少しだけ優しい顔になった。
「……そうか」
レオンも笑う。
「なら道中も案内してやるよ」
「王都の外、結構面白ぇぞ」
ティアが嬉しそうに手を合わせた。
「旅みたいですね!」
リナも笑う。
「なんかようやく“普通の観光”っぽくなってきたわね」
だが。
エルミナだけは少し真面目な顔をしていた。
「……普通、ですかねぇ」
ラウフェンが即答する。
「絶対普通ではないな」
研究員たちも全員頷いていた。




