第99話 王国魔導研究総会と、満場一致の「出すな」
食事を終えた研究院食堂には、少し落ち着いた空気が流れていた。
ティアは満足そうに紅茶を飲み、リナは椅子へもたれかかっている。
レオンはまだ少し笑っていた。
「いやぁ……研究院の連中がここまで振り回されるとはな」
「笑い事ではありません」
エルミナは疲れた顔だった。
「本当に胃が痛いんですから……」
一方で。
研究員たちは、未だに壊れていた測定器の話をしていた。
「修復後の出力効率が異常だ……」
「術式の繋ぎ方が既存理論と違う」
「というかあれ、本当に生活魔法なのか?」
カイはそんな周囲を気にせず、お茶を飲んでいた。
ラウフェンはその姿を見ながら、静かに腕を組む。
「……なるほどな」
「何がです?」
エルミナが聞く。
ラウフェンは少し考えてから答えた。
「副学院長が“保護優先”へ切り替えた理由だ」
リナが苦笑する。
「まあ分からなくもないけど」
「敵対とか以前に、扱いが難しすぎるもんね」
「違う」
ラウフェンは真顔だった。
「問題は、“本人が無自覚”なことだ」
食堂の空気が少し静かになる。
「この子は、自分の異常性を理解していない」
「だから遠慮がない」
「だから自然に世界へ干渉する」
レオンが肩をすくめる。
「道直したり壁直したりベンチ掃除したりな」
「しかも全部善意」
エルミナが頭を押さえた。
「余計に厄介なんですよ……」
その時だった。
ラウフェンの通信魔導具が淡く光る。
「……副学院長か」
内容を確認し始めたラウフェンの表情が、途中で少し変わった。
「ほう」
「何ですか?」
エルミナが身を乗り出す。
ラウフェンは通信内容を読み上げた。
「“王国魔導研究総会について、カイ君の参加可否を確認せよ”」
数秒。
場が止まる。
リナが最初に反応した。
「……総会?」
ティアが首を傾げる。
「なんですかそれ?」
エルミナが説明する。
「王国最大規模の魔導研究発表の場です」
「研究員、上級魔導師、教授陣が研究成果や新術式を報告する正式総会で……」
レオンが続ける。
「貴族も来る」
「軍も来る」
「王族関係者も来る」
リナが顔を引きつらせた。
「え、めちゃくちゃ大事なやつじゃない」
「王国魔導技術の最前線が集まる場ですね」
ラウフェンが頷く。
「優秀な魔導師はそこで名を上げる」
「研究予算や立場にも直結する」
「つまり――」
レオンがニヤリと笑う。
「普通なら、カイは総会の目玉にされる」
全員の視線がカイへ向く。
当人は。
「?」
よく分かっていない。
ラウフェンは通信を読み進める。
「“現時点で複数派閥が興味を示している”」
エルミナが頭を抱えた。
「もう始まってる……」
「当然だ」
ラウフェンは冷静だった。
「無詠唱」
「術式不要」
「高等修復」
「環境制御」
「しかも、金章保有者クラスを遥かに超える実力が確認されている」
「放置される訳がない」
研究員の一人が真面目な顔で言った。
「総会へ出せば、王都中の注目を集めます」
「間違いなく歴史に残ります」
「革命ですよこれは」
ティアは少し不安そうになる。
「でも……人いっぱい来るんですよね?」
「来るな」
レオンが即答した。
「しかも面倒なのが大量に」
リナがカイを見る。
「……ちなみにカイ」
「ん?」
「そういう人いっぱいの場所、好き?」
カイは少し考えた。
「疲れる」
即答だった。
レオンが吹き出す。
「だろうな!」
だがラウフェンは笑わなかった。
むしろ真面目に考え込む。
「……仮に参加した場合」
「確実に注目が集中する」
「実演要求も来る」
「研究接触も増える」
「貴族連中も動くな」
エルミナが小さく青ざめる。
「最悪、“公開測定”とか言い出しますよ……」
リナが嫌そうな顔をした。
「うわぁ……絶対面倒」
その時。
カイがぽつりと呟く。
「静かな方がいい」
沈黙。
ラウフェンがゆっくり目を閉じた。
「……副学院長へ伝える」
「“本人は望んでいない”と」
研究員が驚く。
「主任!? 本当に不参加に!?」
「正気ですか!?」
「国家級研究対象ですよ!?」
ラウフェンは真顔だった。
「だからだ」
全員が黙る。
「お前たち、まだ分かってないのか」
「この少年を、“普通の天才”として扱うな」
「無理に表へ出せば、絶対に碌なことにならん」
レオンが笑う。
「副学院長と同じ結論か」
ラウフェンは深くため息を吐いた。
「むしろ遅かったくらいだ」
そして通信魔導具へ短く打ち込む。
『王国魔導研究総会への参加は非推奨』
『本人の快適性と精神負荷を優先すべきと判断』
『研究院としても不参加を提言』
送信。
数秒後。
即座に返信が来た。
ラウフェンが内容を見て、思わず笑った。
「早いな……」
「なんて?」
リナが聞く。
ラウフェンは苦笑しながら読み上げる。
「“満場一致で同意”だそうだ」
レオンが腹を抱えて笑い出す。
「ははははっ!!」
「学院上層部全員、“出すな”で一致したのかよ!」




