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革命の炎

「我々以外に、あなたを追い込んでいる人間がいるのですか?」


私とマルコスが、息を詰めてベルモンドを見ていた。


「あ、いや、それは——」


ベルモンドが下を向き、黙ってしまった。


ニッキーが、静かに続けた。


「ミランダ・クレシェント伯爵夫人ですよね」


ベルモンドの目が、見開かれた。


ベルモンドはゆっくり、ニッキーの顔を見た。


「なぜ、それを!? あんたら、まさか最初から?」


ニッキーが立ち上がった。


「ええ。我々は、あなたと夫人との不適切な関係を調べております」


──!


私は思わず姿勢を正した。ニッキーがこの情報をすでに掴んでいたとは、聞いていなかった。


「どうかそれを、洗いざらい話してくれませんか?」


ニッキーがベルモンドの隣まで歩き、目線を合わせるように身を屈めた。


「もしそれらを洗いざらい教えてくれるなら、提訴は考えてもいい」


「いやむしろ——」


ニッキーが、優しく笑った。


「行政官、あなたの力になれるのではと考えておりますが」


私とマルコスは、緊張した面持ちで二人を見ていた。


「ほ……本当に、助けてくれるのか?」


「ええ、もちろん。カートライト商会のベルリア支社長として、約束しますよ」




◇ ◇ ◇




二人の様子を、私は見ていた。


──すごいわ、この二人のコンビ。


──強硬なマルコスさんと、柔和なニッキーによる、硬軟合わせた交渉術。


ニッキーが、ベルモンドの目の前でゆっくり笑っている。普段、私と話す時の少年っぽい表情とは違う、商人の顔だった。


──ニッキーも、二人の時とは違って、優しいだけじゃなく、なんだか頼もしく見えるわ。


ハッとして、私は自分の頬に手を当てた。少し、熱かった。


──って、私、こんな時に何考えているの! しっかりしなきゃ!


「?」


マルコスが、不審げに私を見た。


私は咳払いをして、姿勢を直した。




「さ、最初は彼女の慈善事業を、行政官として支援したいと思っていたんだ」


ベルモンドが、ぽつぽつと話し始めた。


「だが途中から、彼女は公金を……」


ベルモンドは、意外なほどあっさりとクレシェント夫人との黒い関係を話し始めた。クレシェント夫人の慈善事業に公金で援助したこと。だが、監査を拒否され、代わりにクレシェント夫人から金を受け取ってしまったこと。次はそれをネタにこれまで強請られ続け、公金を流し続けていること。


もちろんそれは、マルコスとニッキーの交渉力によるところが大きい。だが、行政官がそれだけクレシェント夫人に追い込まれていたという証明でもあった。




しばらく後。


「マルコス、この件でクレシェント夫人を刑事法院に訴えることは出来るか?」


「ああ、要件的には可能だと思う」


「!!」


ベルモンドが息を呑んだ。


「クレシェント夫人が司法に圧力をかける可能性は?」


「もちろん、それはあり得るだろう。だから、その前に——」


マルコスが、机の上に新聞を広げた。


「新聞社にネタを売り込む」


「!!」


ベルモンドと私の声が揃った。


「この国の人々はまだ、ペンが剣よりも強いということを知らないようだからな」




「ちょっと待ってくれ!」


ベルモンドが立ち上がった。


「そんな事をしたら、大騒ぎになる」


涙が滲んでいた。


「知ってるぞ!? それで起きたアルビオン革命で、どれだけの血が流れたかを」


「それに、政治は綺麗事だけじゃすまないんだ。そんな事、あんたら商売人も知ってるだろ?」


マルコスが肩をすくめた。ニッキーは厳しい表情を崩さなかった。


私は、冷静に二人とベルモンドを見比べた。


──確かに、ベルモンドさんが言っていることも一理あるわ。


この国の政治が腐敗しているのは、クレシェント夫人だけじゃない。叩けば埃はいくらでも出る。それが貴族社会だと、私は知っている。


それに、王室はアルビオンの革命の炎が、ベルリア国に波及するのを恐れている。


本当に新聞社に告発などしたら、ニッキー達が逆に殺されるかもしれない。


──私の個人的な感情のために、この素晴らしい二人を犠牲にしてはならない。


「おいおい、勇気を出すんだ」


マルコスが、呆れたようにベルモンドに言った。


「あんたにはどの道、選択肢はないんだよ」


「やめましょう」


私は静かに言った。


ニッキーとマルコスが、同時に振り向いた。


「私たちの目的は、カトリーヌ夫人の名誉を回復させること。そしてクレシェント夫人に、悔い改めてもらう事だけ」


「ガブリエルさん……」


ニッキーが私を見た。


私はベルモンドに向き直った。


「ベルモンドさん、あなたにお願いしたい仕事があります」


ベルモンドの目に、わずかに光が戻った。


「聞いてもらえますか?」

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