表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
32/73

ダイヤモンドの贈り物

「こ、これ……ダイヤモンド?」


廊下のランプの光が、石の上で散っていた。


──え!? 一体突然何? これ幾らするの?


ニッキーが緊張した顔で立っている。


「え、あの、これは?」


「が、ガブリエルさん!」


ニッキーの顔が、一気に赤くなった。


「は、はいっ!」


「ぼ、僕は……」


「あなたの……」


そこで、止まった。


ニッキーの額に、汗が浮いている。私の心臓も、勝手に速くなっている。廊下の静けさが、急に重く感じる。


「かっ、解放の黒にですね!」


「……はっ、はい?」


頭の中が、一瞬で真っ白になった。


ニッキーが咳払いをした。さっきまでの慌てた様子が、すっと整っていく。


「あ、すみません。僕は、解放の黒にジュエリーが似合うと思っているんですよ」


「黒の輝きに勝てるのは、ダイヤモンドの輝き。それを試してみたくて」


「試す? それだけのために、こんな高価なものを買ったんですか!?」


「研究開発費と考えれば安いものです。ガブリエルさんなら、これをヒントにもっと新しい商品を思いつくでしょう?」


「そのために、これを私に」


「はい、そうです」


「……わかりました。考えてみます」


「では、おやすみなさい」


扉が、パタンと閉まった。




廊下に、私だけが残された。


「おやすみなさい」


声は、扉の向こうには届かなかったかもしれない。




◇ ◇ ◇




自分の部屋に戻り、ニッキーは深いため息をついた。


「何をやってるんだ、僕は」


ベッドに腰を下ろし、頭を抱える。


「女性に好意を伝えるって、難しいなあ」


しばらく、そのままだった。それから顔を上げ、布団を引き寄せた。


「いや、でも、少しぐらいは僕の想いは伝わってるはずだ」


布団にくるまり、彼は目を閉じた。




◇ ◇ ◇




ペンダントを首にかけた。


鏡の前に立ち、私は自分の胸元を見た。


黒のドレスの中央で、ダイヤが静かに光っている。確かに、合っていた。これ以上ないほど、合っていた。黒の中に一点、星のような輝きが置かれていて、見ているうちに目が離せなくなる。


──確かに、解放の黒にはものすごく合うけれど。


ふと、現実が戻ってきた。


──でも、こんなに高いダイヤなんて、みんな用意できるとは……。


胸の中で、何かが動いた。




朝が来た。


ホテルの食堂で、二人は席に着いた。籠に山盛りのパン、目玉焼き、湯気の立つスープ。


「おはようございます」


「おはようございます」


「昨日はよく眠れました?」


「そ、それなりに」


「あっ、私、わかったんですよ。ニッキーさんの意図」


「えっ!?」


「ニッキーさんは、アクセサリー開発を進めていたんですね?」


ニッキーが、固まった。


「でも、思うんです。こんな大きなダイヤをつけるのは、貴族でも買えない」


「かといって、小さなダイヤや他の宝石では、解放の黒に負けてしまう」


私はカップを持ち上げた。


「だったら、イミテーションを作るのはどうでしょう?」


「カットガラスと真鍮で、解放の黒にぴったりのアクセサリーを作れば、とっても素敵」


「そう思いません?」


ニッキーが、優しく微笑んだ。


「……素晴らしいアイデアです」


「実現可能な工房を探してみましょう」


「ありがとうございます」


二人で朝食を食べた。バターを塗ったパン、まだ温かい目玉焼き、香ばしいスープ。窓から朝の光が入り、テーブルの上に四角い明るさを作っている。


ニッキーが幸せそうに笑った。


ほんの少しだけ、寂しそうにも見えた。


私はそれに気づかないふりをして、自分も笑った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ