正義の味方
——ブレンナール工場、会議室。
胸を張り、どこか誇らしげに、エティエンヌは言った。
「自由で、平等な社会、だって?」ロザリーが、眉をひそめる。
「そうだ」
彼は、朗々と続けた。
「自由と平等を求めて、アルビオン革命は起きた。——その精神は、我が国にも、伝播した。ようやく我々は、貴族による支配政治を、終わらせようとしている。——だが、今度は、どうだ?」
声を、強める。
「資本家という、“新しい特権階級”が生まれ。——我々労働者は、再び、虐げられ始めた」
「……随分と、大きな話だね」ロザリーが、腕を組む。
「人は、自由で、平等である。——それを求めることこそ、正義だ。そのためには——」
エティエンヌの目が、冷たく光る。
「組合員“個人”の幸福など。——塵芥に、等しい」
一瞬、会議室が、静まり返った。
そこへ、ジャックが、割って入る。
「彼は、“正義の味方”ですよ」
◇ ◇ ◇
芝居がかった口調で、ジャックが続ける。
「あなた達、悪党が、ずっと踏みにじってきたものを。——彼は、取り戻そうとしているだけだ」
「中立国ベルリアが、軍需に関与した」エティエンヌが、淡々と言う。「これは、国家的問題だ」
「救護衣料だ! 軍服じゃない!」ロザリーが、叫ぶ。
「関係ない。——資本家の利益のために、労働者が、戦争の犠牲になった」
「トーマスは、違う!」ヴィンセントが、声を荒げた。「あいつは——工場の未来を、託して、死んだんだ!」
「資本家による、洗脳の結果だ。——哀れなことだ」
「……で」ロザリーが、ヴィンセントを抑えながら言う。「結局、何がしたい」
「国民議会に、訴える」エティエンヌは告げた。「ガブリエル商会、カートライト商会の、国内資産を、接収。——両商会を、組合員による、自治管理とすることを、要求する」
ジャックが、満足げに、微笑んだ。
「我々労働者は。——資本家ガブリエルと、堂々と、戦う」
◇ ◇ ◇
重い扉を出て、ロザリーとヴィンセントは、外の空気を吸った。
「……話が、通じる相手じゃ、ないね」
「ああ。——これが、“労働闘争”ってやつ、らしい」
工場の前には、労働者たちが、集まり始めていた。
掲げられた、プラカードの列。『戦争加担反対』『労働者を殺すな』。そして——『トーマスを返せ!』。
「……トーマスの名前が」ロザリーが、呆然と呟いた。「勝手に、叫ばれてる」
「くそっ……!」ヴィンセントが、壁を殴る。「トーマスの思いも、知らねえ奴らが……!」
——その光景を、遠くから眺める、ジャック。
(やっとだ……。やっと、あの女を、引きずり下ろせる)
◇ ◇ ◇
——王都、ガブリエル商会。
机に積まれた、新聞の山。その見出しが、躍っていた。
『労組、ガブリエル商会を告発——“中立破りの、戦争加担”』
それを読む、私の顔は。すっかり、疲れ切っていた。




