第31話 夕涼み
サクアタという街を訪れた。
そこの領主と面識はなかったのだが、イェドの知人からあれこれと私の話を聞いていたらしく、招待を受けることになった。
俳句にもたいそう興味があるということで、基本的なことや術との繋げ方などを指南し、手土産をいくつももらって出立できた。
「さすがマッツォ師のご高名です。いろいろと補給ができましたね」
ソルラは都にはない調味料がいくつも手に入ったとかで、顔をほころばせている。
私はというと、また舟に乗って川を進むという成り行きに気持ちを落ち込ませていた。
「どうにも、この間の急流下り以降、舟には警戒するようになってしまったな」
ソルラになだめられながら、私たちは舟に乗り込んだ。
流れは穏やかだが、人里を離れて、次第に木々が高くなってきた。
鬱蒼と、とまではいかないが、ひとけの無さは気になるところだ。
「マッツォ師、あれはなんでしょうか」
言いながら、ソルラが遥か遠く、森の切れ目を指す。
「旅の一団、というところか。ひいふうみい、と……うむ、十はおらんな」
私は目をこすり、曖昧な輪郭を明瞭にせんと試みる。
そして、気付く。
「あれは、オークだ。オークの一団だな」
さらに目を凝らす。
オークが団を組むのはおかしいことではない。
ヨシトウルネ公のような特異な存在でなくても、彼らは彼ら同士でなにか交流の術を持っている節があり、言葉という言葉を聞いたことはないが、社会性はあるようだからだ。
しかし、次の瞬間、私はこれまでにはなかったものを見た。
「奴らが背負っているのは、家畜か?」
解体された後であろう牛や鳥を担いで走っている者が紛れている。
オークが人を襲い、家畜を奪うことは十分に知っているが、それを持って移動するというのはいったいどういうことなのか。
「どうにもおかしいな、やつらを止めるか」
私は舟に立ち、気を高める。
「あつみ山や吹浦かけて」
両の手から青白い光がきらめき、渦を巻きながら次第に大きくなっていく。
渦はオークの一団の方に飛んでいき、連中も異変に気付く。
「夕涼み」
私が唱え終わると、青白い光はまばゆい閃光となって周辺を照らした。
光が収まって残ったのは、氷のようになったオーク達である。
「船頭殿、ちと岸につけてくれ」
ソルラは一応舟に残し、私は陸に上がり、様子を確かめに行く。
九体のオーク、それぞれに棍棒やら鉈のようなものやらを持っているのは、いつも通りのオークである。
いつもと異なるのは、それ以上に荷物をもっていたことだ。
家畜の肉は、食糧か。
旅先でものが食えるようにと。
つまり、こいつらは旅をしているのか。
オークと言えば一つ所に留まり、人知れず生活をしているものかと考えていたが、そういうわけではないのか。
無念によってオークが誕生するのだから、その念が果たされるためにその場に滞るのが筋ではないか。
ヨシトウルネ公ですら、一時的に場を離れてはいたものの、自らの終焉の地となったヒルライズミに留まっていた。
「こやつらが特異な集団なのか、はたまた、別の異変の始まりか」
私は棍でオーク達の体を砕きながら、旅の行く先を案じた。
「おお、また舟に乗らねばならんのか」
作者の成井です。
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