↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
30/32

29 陽炎VS氷巫女

 29 陽炎VS氷巫女



 陽炎は超越者の間で氷巫女と相対した。氷巫女は観念したようにゆっくりと玉座から立ち上がる。

 氷巫女は何処か物悲しい顔をして陽炎を見つめている。その眼を見て、陽炎は決心が揺らぎかけた。

 だが、それも心理戦……氷巫女の術中に陥るものかと自分を律した。


「氷巫女……お前の為に多くの者が悲しむ。俺はお前を許さない」


「陽炎様、本気で私と袂を分かつおつもりですか?」


「違う、俺はお前を消しに来た。お前の存在を消しに来たのだ」


「やはりこうなりましたか……私はこうなることを初めから分かっていましたよ。

 陽炎様……いえ、三村隆景。冴えないオタクだった分際で随分、調子に乗っていましたね」


 氷巫女は冷徹な表情を醸し出している。陽炎は転生前の名前を呼ばれて驚いた。

 そう言えば、氷巫女は陽炎が転生者だと知っていた。何か裏があるなと勘繰った。


「氷巫女、お前は一体何者なのだ? お前の目的とは?」


「良いでしょう……教えて差し上げます。実は私、全ての異世界を制圧しているのです。

 全ての世界は私の管理下にあります。私の別の世界での異名は大魔王コールド……」


 氷巫女の激白に陽炎は戦慄した。氷巫女は元いた地球を含む全ての世界を支配している。

 そして大魔王コールドという別の世界での異名……恐ろしい存在だと陽炎は身震いした。

 自分はそんな存在に勝てるだろうか……いや、勝つしかない。

 その前に彼女の前で自らのステータスを開示する。今までの自分の集大成の確認だ。



 名前 陽炎(三村隆景)

 ランク A+(伝説級-)

 種族 人種

 レベル 97

 アタック 2200

 ディフェンス 2790

 スピード 3570


 通常スキル


『破壊』『闘神のオーラ』『神速の太刀』『倍返しの太刀』『両断の太刀』

『破壊の太刀』『念話』『自己再生』『炎の太刀』『武器生成』『浮遊』『衝撃波』


 称号スキル


『選ばれしもの』『竜王』『転生者』『氷巫女の右腕』『元国王』『元守護騎士団長』



 陽炎は魔剣を構えて、凄まじい踏み込みで、氷巫女に神速の太刀を浴びせた。

 だが、氷巫女は片手で受け止めた。そして、そのまま出鱈目な握力で粉々に魔剣を粉砕した。

 流石、ステータスをカンストさせているだけある。そして氷巫女の反撃。

 氷巫女は左手を天に掲げる。陽炎の頭上に無数の氷が出現し、落下していく。

 氷の雨に陽炎は全身から熱を放出させて、何とか溶かしてやり過ごせた。


「遅いですよ」


 第二の氷巫女の攻撃が続く、氷巫女は右手を掲げる。凄まじい衝撃波が、陽炎を襲った。

 彗星の如き流星群は陽炎の身体を完膚なきまでに打ち砕く。

 ステータスカンストに加えて強大な魔法力……勝てる道理が無い。


「これはショックウェーブバーストか……」


 言わずと知れた氷巫女の最強の魔法……獣人族を滅ぼした威力は記憶に新しい。

 陽炎は懸命に何とか耐えたが、二発目を受ければ一溜りもない。

 しかし、予想は最悪を想定するものだ。氷巫女は二撃目を放とうとしている。


「ショックウェーブバースト……二発目です」


 半端ではない激しい揺れと鳴動が、辺り一帯を揺るがす。

 再び彗星の如き流星群は容赦なく陽炎に迫る。これを受ければ自分は間違いなく死ぬだろう。

 陽炎は咄嗟に炎竜形態で被弾……強靭な鱗は傷だらけになりながらも陽炎を守ってくれた。


「良い判断ですね。お見事です」


 氷巫女は表情を変えずに陽炎の健闘を称える。陽炎は元の人間形態に戻って再び相対する。

 炎竜形態では攻撃が大振りになりすぎるで、氷巫女には通用しない。

 ランクは落ちるが、人間形態で戦うしかないのだ。

 大技が来たら炎竜形態で防ぐ戦法を戦いの中で陽炎は編み出した。

 氷巫女は陽炎の戦法を見て、感心する様を見せる。余裕がハッキリと滲み出ていた。


「スキル『武器生成』! 出でよ、氷の短剣!」


 氷巫女は手元に氷で出来た短剣を生み出し、それを手に陽炎に迫る。

 ふざけた武器だと一笑に付したかったが、それは陽炎を舐めているのだ。

 短剣で剣神である陽炎を倒しきれると判断を氷巫女は導き出している。

 陽炎は剣神としての矜持がある。陽炎も武器生成で、黒い刀身の剣を造りだし、

 氷巫女に剣戟で挑む。鋭い踏み込みからの炎の太刀で、短剣ごと、氷巫女の身体を両断した。

 氷巫女は炎に弱い。彼女の液体金属は永久不滅だが、唯一炎で受けた一撃はすぐには戻らない。


「油断したな……炎に弱いお前では俺には勝てない!」


 陽炎は慢心せず、炎の太刀で氷巫女の身体を切り刻む。最早、氷巫女の身体は肉塊と化していた。

 呆気ない幕切れに陽炎は意気消沈する。この世界を蝕む元凶を打倒したが、

 陽炎の思いは複雑だった。氷巫女は曲りなりにも自分に優しくしてくれた。

 高位を向けられたことは事実。無下には出来ない。そんな思いが逡巡していく。

 すると、氷巫女の肉体が、凄まじいスピードで再生を始めていく。


「これは……残りの全魔力を再生に費やしたか」


 陽炎は息を飲み、氷巫女の再生を見ていた。彼女の膨大な魔力によってあっと言う間に、

 元の美しい身体に戻り、表情を変えずに氷巫女は佇む。だが、無理に再生したことで、

 彼女の魔力は著しく消耗した。今の彼女の姿は元の女神と同じだと言う姿ではない。

 深緑の髪と眼を持つフォレスト族特有の身体だ。氷巫女は女神の姿を維持できなくなったのだ。


「私の魔力が著しく消耗した。陽炎様の前で無様な姿は晒したくはなかったですね」


 氷巫女は自らの姿に嫌悪した様子を見せる。サラと瓜二つの姿は血縁関係を物語っていた。

 その憔悴しきった姿を見て陽炎は哀れだと思った。哀れな愚かな女が、目の前で狼狽している。


「そんな姿を晒したお前に俺は負ける気がしない……。

 魔力を限界まで消耗したのは容易に見てとれる。俺が幕を引いてやろう」


 陽炎は黒刀を構えて、氷巫女に猛然と迫る。女神様の力を失った氷巫女に負ける道理はないのだ。

 しかし、氷巫女は呪文を詠唱して何者かを目の前で召喚し盾にする。

 そのまま召喚獣ごと叩き伏せるのは造作もない。

 だが、氷巫女が召喚し、盾としたのはサラと陽炎に瓜二つの息子……陽氷であった。

 寸での所で、陽炎は剣を引き、後退し様子を伺う。陽氷は呆然として自分と氷巫女に目線を向ける。


「陽炎様、私にこれ以上攻撃を加え様ならば、陽氷様の命はない。

 陽氷様には私が隷属の腕輪を授けました。私が魔力を込めれば陽氷様は死ぬ!」


 氷巫女は一転して高笑いしながら、勝ち誇ったような笑みを浮かべる。

 いつのまに氷巫女は最愛の息子に隷属の腕輪を授けていた。息子は騙されてその腕輪を嵌めた。

 隷属の腕輪は古来より伝わる伝説のマジックアイテム。陽炎は息子の無知を呪った。


「氷巫女……! 貴様!」


 陽炎は息子を盾にされて怒りを滲ませる。かつてない程の激しい怒りだ。


「父さん……」


 息子は自分に縋るような目線を送っている。全て、自分が氷巫女にうつつを抜かした結果だった。

 人間を盾にする最低の屑に恋をしていたなど、陽炎は自分が到底許せなかった。


「陽炎様、形勢逆転ですね。全ての世界の支配者足る私が負ける筈はないのです!

 しかし、私は貴方様には甘い……陽氷様を盾にする事は止めにしましょう。

 自動回復で私の魔力は十分回復しました。最早、盾にする必要はありません」


 氷巫女は自動回復で魔力の回復を十二分に回復すると、陽氷を掴んでいた手を放して、

 その辺に放り投げた。息子を雑に扱われたのを見て陽炎は更に怒りを募らせる。

 魔力を回復させた氷巫女は再び、フォレスト族の姿を捨てて女神の姿に戻る。


「陽氷……離れていなさい。差し違えてもお前達の為に犠牲に成ろう」


「父さん、どうかご武運を……」


「ああ、その前に隷属の腕輪を破壊してやろう。『破壊』!」


 陽炎が念じると陽氷の腕に嵌められた腕輪を粉々に破壊した。

 父の意を汲んだ陽氷は遠くに離れていく。それを見届けた陽炎は闘神のオーラを開放する。

 凄まじいエネルギーが陽炎の身体から迸っていく。凄まじい闘気の力が陽炎を覆った。


「陽炎様、伝説級-に過ぎない貴方様が私に敵うとでも思っているのですか?

 私のステータスを知っているのでしょう? 百回戦っても貴方様に負ける事はありません」


 そう啖呵を切った氷巫女は右手を天に掲げ、氷の雨を降らせる。

 しかし、陽炎は意に返さない。闘気の鎧は氷の雨を弾き返す。


「氷巫女……お前は俺の息子を弄んだ。許さない」


 陽炎は氷巫女に接近し、闘気を身に纏った拳を氷巫女に浴びせる。

 虚を突かれた氷巫女はよろめいてふら付く。だが、氷巫女は圧倒的な防衛機能を誇る。


「素晴らしい一撃です。なれど、私に勝てる道理はない。『氷結』!」


 氷巫女は魔力を込めて、極大の冷気を陽炎に送る。だが、陽炎は全く表情を変えずに涼しい顔をする。

 しかし、氷巫女のモーションは陽炎とは比べ物にならない。すぐに第二撃が襲ってくる。


「遅いですよ……圧倒的なステータスの差は埋めようがない。

 私は全てのステータスをカンストさせている。故に負ける事は万に一つもない。

 氷巫女の至高の技を味わいなさい『氷塊』!」


 氷巫女は巨大な氷の塊を出現させて陽炎に向かわせる。氷属性の中でも上位スキル。

 だが、陽炎は一切動じない。何故だか、覚悟を決めた自分は負ける気がしないようだった。


「火炎剣!」


 陽炎は迫りくる氷の塊を切り裂いて、氷巫女へと踏み込む。氷巫女は炎属性には滅法弱い。

 当たりさえすれば奴には致命的なのだ。陽炎は氷巫女の身体を容赦なく切り裂いた。

 だが、それは偽りの身体だった。偽りの身体は崩れるように氷の塊と化した。

 恐らく氷巫女の分身体……彼女のスキルにそれらしいものがあった。


「残念、それは私の分身……『氷分身』のスキル」


「クッ!」


「悔しいですか? 私とて同じ手は喰らいません。

 それに私はいつでも貴方様を葬り去るのは容易なのですよ。

 今度は私の最強の魔法を全力で叩き込んで差し上げます。『ショックウェーブバースト』!」


 想像を絶する極大の震動と鳴動が辺りを大いに振るわせる。

 言わず知れた氷巫女の最強の魔法……その威力は国一つを滅ぼす事が出来る。

 それも今度のショックウェーブバーストは彼女の全魔力を内包し、氷の居城を崩壊させる程の威力。

 極大の流星群は陽炎の闘気の鎧を打ち破る程だった。しかし、陽炎はボロキレの様になりながら耐えた。

 フラフラに身体を小刻みに震わせながらも氷巫女……伝説級レベルMAXの最強魔法を耐えたのだ。


「氷巫女……お前の最強の魔法を俺は耐えた。逆にお前は全魔力を放出し、

 魔力自動回復があるとはいえ、もうショックウェーブバーストを放つ余裕はない」


 陽炎は荒く呼吸をしながら、自らの優位を悟った。

 逆に氷巫女はあり得ないと言った様子で彼女の最強魔法を耐えきった陽炎を怯えながら見ている。


「あり得ない……この超越者たる私の最強の魔法を耐えきるなんて……。

 あり得ない! あり得ない! あり得ない! 私は超越者……氷巫女!

 私が負けることなどあり得る筈が無いのです!

 氷属性上位スキル『氷柱』! 串刺しに成りなさい!」


 焦った様子で氷巫女は上位スキルを放つ。氷の柱が何本も床から生えていく。

 さながら竹のように氷柱が無造作に生えて陽炎を襲う。だが、陽炎は冷静に氷巫女と間合いを詰めていく。


「学習するのだな。俺に氷属性の技は通用しない。お前の力が如何に強大でも、

 弱点は必ずある。俺は差し違えても、お前を地獄に送る!」


 陽炎は氷巫女に接近し、油断した氷巫女の身体を掴んで自身の身体にある熱エネルギーを、

 限界を超えて全て放出し、解き放つ。氷巫女の液体金属の身体は耐え切れず、ドロドロに溶けて蒸発を始める。


「この私が! 全ての世界の支配者の私がああ―ッ!」


「サラ……陽氷……お前達の為に犠牲になるのは厭わない。さらばだ」


 最後に陽炎は大事な二人の事を案じながら、自分諸共氷巫女を消滅させる道を選んだ。

 そうだ……これで良かったのだ。大事な者達を守れて本当に良かったのだ。

 自分は幸せ者だ。彼らの為に礎と成れたのだ。唯一の心残りは息子の成長した姿を見られない事だけ。


「やはり……陽炎様は私に反旗を翻した。あれだけ篭絡したのに……結末は予言と同じ……」


 陽炎の予想通り、氷巫女はこうなることも予期していた。彼女の予知能力が仇となったのだ。


「陽炎様……貴方様は私が初めて心を大いに揺さぶられた御方でした……。

 それ故に私は貴方様に甘かった……結末を知っていても……」


 それが最後の彼女の切なる言葉だった。氷巫女は本当に自分への想いは本物だったのだ。

 だが、自分は彼女の想いに応えることは出来ない。陽炎は本当に大事な者達を理解したのだ。

 陽炎と氷巫女はその場で消滅し、有終の美の静けさだけがその場に去来した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。