28 陽炎出陣
28 陽炎出陣
陽炎は氷の居城にて、玉座で思案する氷巫女の傍らに控えていた。
不機嫌なオーラを漂わせている氷巫女は明らかに不快な表情を浮かべている。
それもその筈、全ての国を服属させた帝国ブラックガーデンが、反氷巫女連合を興し、
世界の主である氷巫女に反旗を翻したのだ。それは彼女にしては耐え難きことである。
それを十二分に理解している陽炎は彼女の心中を察した。
だが、全ては氷巫女……彼女が蒔いた種なのだ。氷巫女は人間を見下していた。
その強大な力に胡坐をかき、イケメンコレクションの収集に長い時を費やしていた報いなのだ。
「氷巫女……君が人間を見下していた結果だ。全ては君が蒔いた種なのだ」
陽炎は声を絞り出して氷巫女を非難した。氷巫女は項垂れている。
こんな憔悴しきった彼女を見ているのは若干気が引けた。
しかし、ここで陽炎はふと疑問に思った。彼女は最強の力を持っているのに、
不自然に動揺し過ぎだと陽炎は思ったのである。彼女は予知能力がある。
自分には見えていない先が彼女には読めているのではないか。
陽炎は疑問を抱きつつ、戦いに赴く準備を進める。その準備の間も彼女の事が気が気ではなかった。
「陽炎様……貴方様が頼りです」
氷巫女は弱々しい声で言いのけた。陽炎は無論、連合軍を一人で迎え撃つ覚悟だ。
自分は伝説級-。世界を滅ぼせる力は十二分にある。彼女の為に連合軍を相手取るつもりだ。
むしろ、伝説級レベルMAXの氷巫女ならば造作もないが、氷巫女は精神的に落ち込んでいる。
そんな彼女の力を当てにすることは出来ない。自分が、彼女を守らなければならないのだ。
陽炎は漆黒のローブを羽織って、氷の居城を飛び去った。連合軍は、氷の大地に陣取っていた。
「グウオオ―ッ!」
陽炎は炎竜形態で、連合軍を迎え討たんとする。灼熱の炎を口から吐き出し、
氷の大地を溶かす程の黒炎は、その眼に映る全ての者を焼き尽くさんとする。
最新の装備に身を包んだ人間の精鋭達だが、伝説級である陽炎に取っては赤子の手をひねる様なもの。
爪牙で、次々と人間共を屠っていく。罪悪感を覚えていないと思えば嘘になる。
自分は人外だが、人間の魂を持っている。だが、目の前の幾百万の人間共は、
氷巫女を滅ぼさんとしているのだ。それは到底容認できることではない。
自分には氷巫女が全てなのだ。彼女の為ならば、鬼にでも悪魔にでもなろう。
炎竜形態の陽炎は十メートルにも及ぶ巨躯である。その膂力は人間共を軽く凌駕する。
人間を足で踏み潰し、爪牙で容赦なく粉々に砕き、粉砕する様は正に人外の巨竜。
数十分戦闘を繰り広げた頃であろうか、一人の女に目を奪われた。他でもないサラである。
サラは軽装で、長剣を掲げて、部隊の指揮を執っていた。
サラがブラックガーデンの将軍なのは知っている。剣術の才を開花させたことも。
全て情報を得ている。サラの身を案じていない日はない。陽炎は立ち止まり、人間形態へと戻る。
氷巫女から賜った魔剣を手に、陽炎は周囲の人間を相手取りながら、サラへと迫る。
「サラ!」
「陽炎……」
サラは表情を変えずに長剣を構える。既にサラの心は離れていたのだ。
全ては身勝手な自分が悪い。だが、致し方なし。陽炎はサラを相手取る事を決めた。
その前にサラのステータスを確認しなければならない。
名前 サラ
ランク A+
種族 フォレスト
レベル 100
そこまで見て、陽炎は察した……魔力を持たないサラがどんな気持ちで修業していたのかを。
自分は彼女を無下にしていた。自分が氷巫女にうつつを抜かしていた間、
サラは死に物狂いで研鑽を積んでいたのだ。一般人と変わらなかったサラが、
女神の代行者たる鷲の眼を遥かに超えるステータスを備えている時点で御察しだ。
そこで陽炎は目が覚めた。自分は何と愚かであったのであろう。
自分は転生して良い気に成っていたのだ。屑過ぎる自分に陽炎は嫌気が差した。
「サラ……すまない……俺は何と言う事を」
陽炎の眼から大粒の涙が零れ落ちる。それを見届けたサラは長剣を捨てて、陽炎を抱きしめた。
陽炎はキョトンとして呆けたが、サラの気持ちを察した陽炎だが、涙は止まらなかった。
「サラ……俺はお前達の為に犠牲となろう。氷巫女と差し違える」
「陽炎様、どうかご武運を」
サラは手を合わせて、陽炎の無事を祈ってくれた。その気持ちを陽炎は決して無下にはしない。
陽炎は再び炎竜形態になり、氷の居城を一心不乱に目指した。
全てはサラと息子の為に捨て石になる覚悟だった。氷巫女はこの世界の癌だ。
彼女を消さないと、世界は一つにならない。彼女を消し、封印された女神を復活させるのだ。




