26 陽氷と氷巫女
26 陽氷と氷巫女(陽氷)
陽氷はフォレスト神王国の跡地にいた。今もなお、瓦礫の山が、積み重なり、
在りし日の王国を懐かしむ。自分は増長の末、滅びたフォレスト族の血を半分、引いている。
深い深緑の髪が、その証だった。フォレスト族は他の部族を見下していた。
自分達こそが、女神の民だと、滅亡する最後まで信じて疑わなかった。
炎を自在に操ると言う父を神輿として担ぎ上げ、父は気を良くして国王の座に就いた。
その後は泥沼の歴史だった。統治能力が皆無の父と、増長したフォレスト族は僅か五年の歳月で滅びた。
――愚かな民族だ……。
陽氷は心の中で呟く。その時、静寂を破るように微かな気配が、辺りを包み込む。
陽氷の目の前に一瞬で、ある人物が降り立つ。瞬間移動のスキル……只ものではない。
見れば陽氷と背丈があまり変わらない少女だった。目を見張る純白の髪色。
白雪のように白い肌。赤く爛々と輝く大きな瞳……直感的に噂の氷巫女だと断定した。
「貴女は噂に聞く氷巫女ですね。僕は陽氷、僕に何の用ですか?」
陽氷は凛々しくも理知的な瞳を向けて、緊張しながら言葉を発した。
氷巫女は白い肌を赤らめて陽氷を見つめている。慈しむような彼女の視線を感じた。
「お初にお目にかかります。氷巫女です。やはり、陽炎様と同じく聡明な御方。
眼を奪われる程に凛々しいその御姿を拝見して嬉しく思います」
氷巫女は懇切丁寧に一礼して、目を輝かせて自己紹介をした。
陽氷は、母の……フォレスト族の仇である筈の氷巫女の丁寧な態度に警戒を解いていく。
吸い込まれるように陽氷は氷巫女の美しさに心を奪われる。
氷巫女は女神様の姿と力を奪ってフォレスト族を裏切ったと母に念仏のように言われていたが、
目の前の少女は礼儀正しく、取るに足らない子供である自分を褒め千切っている。
悪くない気分だった。陽氷は賢く利発だが、子供故に軽んじられることが多々あった。
「氷巫女……噂とは違うものですね。母は貴女を毛嫌いしていました」
陽氷はつい、本当の事を口にした。陽氷の母、サラは氷巫女の悪口を常に口にしていた。
それをウンザリしながら陽氷は黙って聞いていた。だが、影響を強く受けたことも事実。
陽氷は母の思惑通り、氷巫女を嫌いになっていた。しかし、目の前の少女と実際に出会い、
氷巫女が本当は素晴らしい人なのではないかと、思い始めた。子供故に単純なものである。
それを氷巫女が狙っていることに陽氷はハッとして気付いたが、既に感化されてしまう。
「サラの事ですね。あの娘はフォレスト族の族長の娘でした。
そして……サラは私の子孫です。サラの子供である貴方様も同じです」
氷巫女は打ち明けるように言った。陽氷はその事実を知り、眼を見開いて驚愕した。
自分には……世界の主である氷巫女の血が入っている。その事実に戸惑いを隠せない。
陽氷はその事実を知り、氷巫女に対する警戒を完全に緩める。それを見て氷巫女は安心した表情を造る。
彼女は……氷巫女はきっと恐れていたのだ。母の影響を受けて自らを警戒する陽氷に。
「氷巫女様、とても光栄に思います。僕は貴女を信頼に値する人だと認識しました」
陽氷は嘘偽りなく、述べた。氷巫女は途端に嬉しそうな表情を浮かべる。
思ったより、親しみやすい人だと陽氷は思った。氷巫女……素晴らしい人だ。
彼女の目論見通り、あっさりと感化されてしまう。陽氷は完全に浮かれていた。
「陽氷様、これは親愛の証です。お納め下さい」
氷巫女は杖を一振りすると、煌びやかに輝く黄金の腕輪を生み出し、陽氷に差し出した。
それを手渡しされて陽氷は目を丸くして驚きつつも子供らしく素直に嬉しそうにする。
「これは……?」
「これは『氷巫女の腕輪』、私の使徒の証に成ります。
これより、貴方様をこの私の使徒として迎え入れようと思います」
氷巫女は優しく説明した。その説明を聞いた陽氷は、物珍しく氷巫女の腕輪を右腕に装着した。
「陽氷様、とても良くお似合いですよ」
氷巫女は微笑みながら、嬉しそうにする陽氷を眺めている。
装着して暫くすると、自分でも良く分からない程、氷巫女に対する熱い思いが湧き上がるのを感じた。
彼女を守りたいとか、今までなかった感情が止め処なく溢れ出る。
不思議な気分だった。でも悪くはなかった。陽氷は氷巫女を、全てを捧げて守る決心を決めた。




