25 温情
25 温情
陽炎は呆然と、鷲の眼が氷巫女の逆鱗に触れ、羽虫へと姿を変えられる様を見ていた。
その一部始終は筆舌にし難い。超越者の間に羽虫へと姿を変えられた鷲の眼が、
ブンブン飛んでいる。氷巫女はそれを見て悦に浸っている。陽炎は、いたたまれない気持ちになった。
陽炎は敵である鷲の眼が嫌いではなかった。むしろ、好敵手として敬意を払っていた。
居てもたっても居られず、ブンブン飛び回る鷲の眼を素手で掴んで、その辺にある容器に入れた。
「陽炎様も物好きですね。そんな虫けらを飼うつもりですか?」
氷巫女が小馬鹿にしたような顔をして言った。陽炎は鷲の眼を保護した。
「氷巫女……俺は鷲の眼を好敵手として敬意を持っている。
少しでも温情を持って報いたい。どうか、このぐらいは見逃してくれ。頼む」
陽炎は神妙な面持ちで氷巫女に頭を下げる。彼女はつまらなそうな表情をして、
「まあ良いでしょう……虫けらを陽炎様がどうしようと、構いませんよ。
それより、選別の儀の準備が整い次第、世界に向けて声明を発表します。
こうなれば、世界中のイケメンを集めなければなりませんね。
コールドアース中から選ばれた民を私が創造した楽園に送る準備を完了しましょう」
氷巫女が一転して喜々とした笑みを浮かべ、自らの計画を吐露する。
陽炎は怯えながら、氷巫女を見つめていた。ここ最近、彼女の本性が垣間見えてきた。
「氷巫女……俺は何も口を挟まない」
氷巫女の恐るべき計画に絶句しながらも、陽炎はもうどうとでもなれと言う気持ちになっていた。
自分では彼女の暴走は止められない。不意に、陽炎はサラと息子である陽氷の事を思い出した。
彼らは元気であろうか。氷巫女の選別だと、彼らはどうなるのか。
陽炎は考えて恐ろしくなった。自分は彼らを結果的に見捨てたとはいえ、
その身を案じる気持ちは失っていない。どれだけ自分が恨まれているであろうとも。
「そうそう。そういえば陽炎様にも御子息がいらっしゃいましたね。
陽氷様と聞き及んでおります。私の感知能力で探りますと、フォレスト神王国の跡地にいます。
どうやら旅に出ているようですね。選別の儀も始まりますし、この機会に会ってまいります」
氷巫女は鷲の眼の事など、とうに忘れて陽氷に会いに行くと言い出した。
陽氷……思い出して胸が苦しくなる。他でもない陽炎の息子。
幼い時の彼しか知らない。もう十歳になった筈だ。物心がついた年齢である。
その年で旅に出ているとはどういう事だろう。サラはどういう教育をしたのか。
無性に実の我が子である陽氷に会いたいが、陽炎は敢えて会うのは止めにした。
会える機会があるならば、出来れば氷巫女抜きで会いたいものだ。
陽炎は容器の中でブンブン羽音を立てている鷲の眼を観察しながら、愛しい我が子に思いを馳せた。




