19 強国の大将軍(詩花)
19 強国の大将軍(詩花)
東の大国クナの大将軍、詩花は空を見上げて呆然としていた。
幼い頃より、憧れの存在であった陽炎との邂逅は彼女にとって興醒めする想いだった。
陽炎が、王都を捨てて去る様は今でも鮮明に覚えている。陽炎は自分の目標であった。
彼が王都を去った後、詩花は身を粉にして研鑽を積み、陽炎への想いを滾らせた。
しかし、今の陽炎は腑抜けだ。国王としての責務を全うせず、
変身呪文か、何かで竜に変身して飛び去っていた。身勝手極まりない。
民を見捨てて逃げた……そんな彼に従っていたフォレスト族は哀れだった。
まさか、国王が何もせず、静観を決め込むなど断じて道理に合わない。
詩花は陽炎が竜に変身し、暴れまわって瓦礫の山となった都を歩いていく。
その時、瓦礫の山の片隅で、フォレスト族の娘と思わしき女と子供が怯えた目で此方を伺っている。
子供は陽炎の面影を何処となく残していた。途端に懐かしくなって、詩花の頬が緩む。
「お前達は陽炎の……民を見捨てて飛び去った陽炎の家族か?」
詩花は怯えている陽炎の家族と思わしき者達に努めて優しい声音で質問をする。
「はい……陽炎の妻のサラと言います」
「……そうか。戦犯である陽炎の親族であろうと私は無下にはしない」
「有難うございます」
サラは詩花の温情に驚きの表情を浮かべ頭を下げた。詩花は部下に命じて彼女らの身柄を確保する。
例え敵であろうと、人を決して無下にはしない。これは陽炎から教わった事だ。
この陽炎の言葉は今でも詩花の心に灯っている。思って、詩花は胸が苦しくなった。
陽炎は民を見捨て逃亡した……いや、そうではない。詩花は思考を巡らす。
あの愚直な陽炎が、そんなことをするだろうか。否、それはしない。
陽炎は元々、冷めやすい性質を持つ。陽炎は早い段階で分かってしまったのだ。
この王国がいずれ滅ぶことを。そして、自分を裏切ったことによる懺悔の気持ち。
――陽炎……もしや、私の為に。
聡明鋭利な詩花は陽炎の真意を汲み取った。その気持ちを知った詩花は、
陽炎に対する憎しみが、不思議にも自然と消えていく。
気持ちの中のわだかまりが消え去る。晴れ晴れとした気持で詩花は戦後処理を終えて、本国に戻った。




