18 幼馴染の邂逅
18 幼馴染の邂逅
平原に陣取った両軍が、交戦状態に入る前の夜、陽炎は陣幕の中で眠れぬ夜を過ごしていた。
両軍は未だ睨み合う形で、戦々恐々としている。敵兵力は五万……対して陽炎軍はたったの三千である。
それも兵力の核となるフォレスト族の兵はたったの二百で、残りは他の部族の兵士である。
何時裏切るか分からぬ他の部族の兵士を用いるのに躊躇いが生じたが、
少しでも兵力稼ぎの為ならば致し方なしと言った状況である。
対して、敵兵力は五万……大軍勢で、しかも幼馴染であった詩花が率いている。
陽炎は夜な夜な、詩花の事を想いながら、平原の片隅にある丘の上に立っていた。
星々が煌めく夜空が広がっている。それは目を見張る程、幻想的で、
陽炎は自分が、別次元の異世界にいると噛み締めるように実感できた。
「陽炎……国王であるお前が、自ら指揮を執っているとは些か誤算であった」
後ろから懐かしい声が響く……慌てて振り返ると大きく成長した詩花が立っていた。
陽炎の願いであり、待ち焦がれていた五年ぶりの幼馴染との邂逅は呆気なく実現した。
久方ぶりに出会った詩花は凛々しくも、厳かな佇まいをしている。
遠い昔の記憶にある詩花は陽炎を兄のように慕い、一途な少女であった。
「詩花……見違えたな。お前が大将軍になっていたとは……」
陽炎は昔を思い出して懐かしさで目頭が熱くなり、昔のように詩花の頭を優しく撫でようとするが、
詩花に強引に手で弾かれた。陽炎は詩花の変化に大きく戸惑う。詩花は自分を恨んでいるのだろうか。
途端にそう思うと身から出た錆とはいえ、陽炎は例えようもなく悲しくなった。
「陽炎、お前は最早、私の敵だ。祖国を捨て、ならず者国家を建国するとは恥を知れ!」
詩花は凛とした佇まいからは想像もできない罵声を陽炎に浴びせる。
その罵声を浴びて陽炎は下を向く。自分は詩花に恨まれても仕方がないことをした。
祖国を捨て……いや、自分を一途に慕う幼馴染さえも捨てて逃げたのだ。
その時の詩花の悲しみようは想像を絶するであろう。仕方のないことかもしれない。
「詩花、俺を許してくれ。君を捨てて逃げたのは反省している」
陽炎は詩花の悲しみぶりを想像して反省の言葉を並べる。
幾ら反省しても足りない気持ちだ。それでも許しを請う為ならば何でもしよう。
「私はお前を許さない。祖国を捨てたお前に復讐する為に私は研鑽を積み、大将軍となった。
明日、私の手足となる五万の軍勢が猛威を振るい、フォレスト神王国は滅亡を遂げる。
お前の運命は明日までだ。それまで、他国へ亡命する準備でもするのだな」
詩花は棘のある言葉を吐き、陽炎の前を去った。幼馴染との邂逅は終わりを迎えた。
陽炎は詩花の復讐の念の深さを垣間見て、途端に悲しくなった。
知らない間に陽炎は幼馴染を無下にしていたのだ。そう思うと後悔の念に襲われた。
そして、翌日の昼間、睨み合いをしていた両軍は激突した。しかし、勝敗は呆気なく付いた。
両軍の力は雲泥の差であった。兵力も士気も質もまるで違う。
フォレスト神王国軍は大将軍詩花に率いられたクナ国軍の猛攻に総崩れとなって、
散り散りに霧散し、多くの兵士の骸を平原に晒した。陽炎は何もしなかった。
Bランクモンスターも瞬殺できる陽炎の超人的な個の力ならば、敵を駆逐できるだろう。
だが、敢えて陽炎自身は動かなかった。それは詩花に対する懺悔の表れ。
陽炎は自国軍の崩壊を見て見ぬふりをした。浮遊のスキルで空高くから、
フォレスト王国軍の崩壊を断腸の思いで見届けたのだ。
詩花に率いられたクナ国軍は、凄まじき行軍速度でフォレスト神王国軍の都を蹂躙した。
多くのフォレスト族の阿鼻叫喚が巻き起こる。それを陽炎は空高く浮かびながら眺めていた。
この日、フォレスト神王国は建国して僅か五年で、フォレスト族と共に滅亡を遂げた。
陽炎は宮殿が炎に包まれているにも関わらずに最後まで静観していた。
そして陽炎は残った民を見捨てて逃げた。国王としての役目を放棄したのだ。
陽炎はもう人として生きるのも嫌になった。例えようのない激情が、心の内に巣食う。
その時、覚醒を覚える感覚に陥るのを感じ、陽炎の身体に異変が生じる。
――何だ!? 身体が熱い……体が膨張していく!?
炎に包まれる宮殿を引き裂かれる気持ちで空から眺めていた陽炎の身体が膨張していく。
突如として、真紅の鱗と翼が悠々と生え、異形の姿へと変貌を遂げていく。
「グウオオーッ!」
大きく変貌を遂げ、全てを圧倒する巨体を誇る真紅の竜となった陽炎は全ての生物を威圧する咆哮を上げる。
口から燃え盛る炎を吐き散らし、身体の制御が効かず、縦横無尽に暴れまわる。
陽炎は暴れまわった挙句、その場の全てを破壊しつくし、大空の彼方へと飛び去って行った。




