13 夢の中で
13 夢の中で
夢の中……陽炎は真っ白な空間に漂っていた。陽炎の視線の先に憧れの存在、
氷巫女が優しく微笑み佇んでいた。久しぶりだ、彼女と会うのは……。
不意に女神の民、サラに言われた事を思い出す。氷巫女が邪悪な存在だと彼女は言った。
氷巫女に直接聞いてみる決心を陽炎は決めた。氷巫女は囁くように陽炎に甘美な言葉を並べる。
「陽炎様、久方ぶりですね。氷の居城で陽炎様のご活躍を見ておりました。
巷説違わぬ高潔な御方……才気に溢れ、不正を嫌い、弱き者に手を差し伸べる。
陽炎様以上の御方はコールドアースには存在しないでしょう」
氷巫女の陽炎を褒め称える言葉に疑惑の芽が、萎んでいくような感覚を覚えた。
そうだ……氷巫女が邪悪な存在である筈がない。だが、サラの語った言葉が脳裏を過る。
氷巫女は女神の姿と力を奪い、一族を皆殺しにした。彼女がそんな大罪を犯すだろうか。
「氷巫女……君はフォレスト族に生まれ、女神の力と姿を奪って、
コールドアースを支配した……本当なのか?」
氷巫女は陽炎の言葉に不快な表情を浮かべた。初めてだ、氷巫女が悪態を付くのは。
見る見る内に氷巫女は不機嫌になる。彼女の心の琴線に触れてしまった事に陽炎は気付いた。
「陽炎様、それは嘘です。フォレスト族の族長の娘……サラと言いましたか?
あの娘の言っている言葉はデタラメです。惑わされてはなりません」
氷巫女が柄にもなく潔白を吐露し、捲し立てる。陽炎は氷巫女の剣幕にひたすら動揺する。
泰然として振る舞う氷巫女からは想像もできない動揺が機微として感じ取れる。
陽炎は戸惑いを覚えつつ、氷巫女の潔白を証明しようとする言葉に耳を傾ける。
「あの娘に深入りしないほうが良いですよ。陽炎様は優しすぎるのです。
貴方は弱き者を決して見過ごすことは出来ない。それが陽炎様の弱点……。
一つ忠告しておきましょう……あの娘に関わると危険です。
あんな娘など、放っておきなさい。陽炎様は真っ直ぐに氷の居城を目指すべきです」
氷巫女はキッパリと断言した。陽炎は迷った様子で、氷巫女に視線を送る。
「それは出来ない……サラをフォレスト族の元に送り届けると約束した」
「分かりました……こうなることも当然、予期していましたよ。
陽炎様の御心のままに進みなさい。また、夢の中で出会いましょう」
氷巫女は観念した様子で、言葉を紡ぐ。その表情は呆れ果てた様子であった。
「有難う……すまない」
陽炎は何処までも自分の身を案じてくれる氷巫女に感謝の礼と謝罪を述べた。
夢の中での氷巫女との邂逅は終わりを迎える。そのまま、陽炎は意識が暗転した。




