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12 女神の民

 12 女神の民



 瞬間移動のスキルを持ち合わせていない陽炎は、徒歩でサラを無事に送り届ける。

 不思議な娘だ。深い緑色の髪と瞳を持つ。只の娘ではないことは想像に難くない。

 だが、そんなことは良い。騎士として彼女を村まで送り届けなくてはならない。

 陽炎はやつれた様子のサラに水と食料を手渡した。サラは遠慮したが、

 空腹に耐えかねたのか、渋々それを胃袋に収めた。それを見届けて、安堵した陽炎は深呼吸をした。


「君は一体何者だ? 何処か、氷巫女に通じる何かを感じる……」


 陽炎は思ったことを口にした。確かにこの娘は氷巫女の面影を感じる。

 何故だろう……陽炎は不思議に彼女を眺める。サラは一体何者なのだろう。

 今まで出会って来たこの世界の人間とは隔絶した異質なものを感じる。

 サラは氷巫女という言葉に敏感な反応を見せる。途端に嫌悪したような表情を浮かべて首を振る。


「氷巫女……女神様を封じて、この世界で我が物顔に振る舞う女と比べないで!」


 サラは突如声を荒げて氷巫女の悪口を言いのける。一瞬驚いてしまった。

 大人しそうな彼女の凄い剣幕に陽炎はキョトンとして不思議がる。

 初めてだ。この世界に置いて、氷巫女に畏怖と尊敬の念を持っていない人間と出会うのは。

 それに女神様とはなんだ……氷巫女が、この世界の絶対的な存在ではないのか。


「サラさん、氷巫女について何か知っているのか?」


「すみません……声を荒げてしまって。命の恩人様に向かって……」


「何か深い事情があるみたいだな。氷巫女について話してくれ」


 陽炎はサラに言葉を促す。サラは一拍、間を置いてから、静かに口を開いた。

 その言葉に陽炎は真剣に耳を傾ける。他でもない、氷巫女について知ることが出来る。

 この世界の人間は何処か、盲目的に氷巫女を崇拝している節がある。

 だが、目の前の娘……サラはそうではない様子だ。逆に嫌悪しているように見受けられる。

 旅の道中は思いの外、長い。ゆっくりと彼女から氷巫女について聞けるだろう。


「まず、私は女神の民……フォレスト族の族長の娘です。

 私達フォレスト族は東の大国の外れにある深い森の中で暮らしています。

 コールドアースで、唯一氷巫女を崇拝していない一族です。

 歴史は古く……遥か遠い古の時代に遡ります。

 フォレスト族はこの世界の本当の主である女神様に仕えてきました。

 しかし、フォレスト族に忌まわしき脅威、氷巫女が誕生してしまったのです。

 そう……氷巫女はフォレスト族の生まれでした。

 フォレスト族は元々、自然を使った強力な魔術を使えます。

 しかし、氷巫女はそれに属さない、氷を操る強大な力を持って生まれました。」


 サラは歩きながら、刻々と話し始めた。陽炎は驚愕し、一抹の戸惑いを覚える。

 あの全知全能なる氷巫女が、初めから世界の主ではないことに。尚もサラは話を始める。


「氷巫女は女神様に匹敵する強大な力を持ち、その力で一族を率いていました。

 しかし、その力に驕り、祭壇の間で佇んでいた女神様を封印してその姿と力を奪ったのです。

 女神様の姿と力を奪った氷巫女は一族の殆どを皆殺しにしてフォレスト族を去りました。

 唯一生き残った我が祖先は長い時を掛けて一族を復活させました。

 しかし、氷巫女の呪いで幾世代の中で魔力を持たない者が生まれるのです。それが私です」


 サラは氷巫女に対する恨み節を最後に言葉に込めて全て話してくれた。

 陽炎はサラの言葉を鵜呑みには出来なかった。あの優しい氷巫女がそんなことをするはずがない。

 絶対に嘘だと断言することも出来る。サラは嘘をついている可能性も捨てきれない。

 しかし、全てを話してくれたサラを無下にすることは出来ないのも事実だ。

 陽炎は氷巫女に会って事の真相を聞きたい思いに無性に駆られた。

 そして夜……焚火をして、暖を取り、食事を食べたサラは眠りに落ちていた。

 それを確認した陽炎も睡魔に襲われ、火を消して眠った。

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