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10 暫しの別れ

とりあえずここまで。

 10 暫しの別れ



 夜景に彩られる高台からは王都の町並みを一望できる。陽炎は詩花と重大な話をする前に、

 王都の風景をこの目に焼き尽くしていた。陽炎は遂に王都を離れる決心を着けた。

 その思いを幼少の折より、妹の如く可愛がっていた詩花に話すのだ。

 陽炎は詩花の理知的な眼を見据えて、言葉を開いた。詩花は黙って陽炎の言葉に耳を傾けようとする。


「詩花……心して聞いてほしい」


「陽炎様……」


 真剣な面持ちで詩花を見据える。詩花は覚悟が出来たように陽炎の言葉の続きを待っていた。

 詩花の悲痛な思いがひしひしと感じる。詩花は元来、聡しい少女だ。

 陽炎の言葉の続きを容易に想定出来るだろう。

 そして、近頃、陽炎が政権争いの大駒として勧誘を受けていることを彼女は理解している。

 その上で、親しい詩花を王都が一望できる高台に誘い出したのだ。気付けぬはずはない。


「下らぬ政権争いに嫌気が差した。この国に未来はない。

 俺は今夜より、地位も身分も家柄も全てを捨てて、王都を去る。

 お前とはもう会うことは無いだろう。今までありがとう」


 陽炎は柄にもなく、薄っすらと涙を浮かべて思いの丈を話した。

 そうだ。幼馴染と分かれ、生まれ育った王都を去る……それがどんなにか張り裂けそうな気持か。

 それも仕方がないだろう。政権争いの道具にされ、汚濁の渦となった王都中枢。

 汚らわしい……陽炎は血みどろの政争に嫌気が差した。人間の欲とは計り知れない。

 そこまでして地位を得たい等とは現代人の精神を持ち合わせる陽炎には理解不能だった。


「陽炎様は高潔な人柄なのですね。王都中枢に異変が起きているは分かります。

 私も女子の身ですが、良く存じております。陽炎様は巷説に違わぬ御仁……」


 詩花は涙を滂沱のように流していた。そして尚も言葉を続ける。


「私も連れて行って下さい! 足手まといにはなりません!」


 詩花は半ば懇願するように陽炎に縋りつく。それを陽炎が制した。


「お前には無理だ……貴族の贅沢な暮らしをしてきたお嬢様には荷が重い。

 王都は平和そのものだが、王都を離れれば盗賊や野盗などの蛮人が跋扈する無法地帯。

 貴族のお嬢様には耐えられないだろう。足手まといだ……」


 陽炎は冷たく突き放した。何も冗談ではない。

 詩花は有力貴族のやんごとなき身分のお嬢様として蝶よ、花よと育てられてきた。

 彼女には無理だ。自分には彼女を守れる程強いが、万が一のことがあるかもしれない。

 詩花にはお嬢様として安泰な一生を送って欲しい。それが陽炎の願いだ。


「陽炎様、どうかご無事で……」


 これ以上の説得は無用と判断した詩花は諦めて、陽炎の無事を祈る仕草をする。

 陽炎はそれに応えると、荷物を背負って王都に別れを告げた。

遂に陽炎は地位を捨てて旅に出ます。

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