9 急死と政変
続きです。
9 急死と政変
守護騎士団長として王都の守護を任される陽炎。先程のゴブリン軍の討伐の戦果に、王都が湧いた。
B+級モンスターであるエンペラーゴブリンを素手で何の抵抗も受けずに撲殺したことは、
王都中に知れ渡った。人知を超える力を持った陽炎は人々から恐れられた。
それと同時に、陽炎は王都守護騎士団の最大戦力の一人として数えられるまでになった。
そして副官であり、行方知れずの元剣神の弟……長髪で意外に不真面目『最速の剣』ガリア。
金髪で筋肉隆々の髭を蓄えた大男『雷神の剣』ライウーン。
最年少であり、貧しい農民の生まれで線の細く色白で美少年の『五月雨の剣』スコール、
陽炎三人衆と呼ばれる配下を陽炎は持った。この三人衆は陽炎の命があれば、
いつでも瞬時に呼び出される呪法を掛けられている。それが、どんなに離れていても。
三人衆は陽炎に傾倒しており、王国ではなく、陽炎に忠誠を誓っている。
陽炎本体のみでも、最強であるのに、陽炎に絶対の忠誠を誓う最高水準の部下が三人もいるのだ。
国家転覆も容易に成し遂げられるのではないかと揶揄された。陽炎はどこ吹く風である。
陽炎は三人衆を率いて守護騎士団長と言う大役を果たし、身を粉にして戦った。
オークもゴブリンもスライムも、その武威によって蹴散らした。その鬼神の如き様は、
闘神とも、王都の守護神とも言われた。それでも構わず陽炎は瞬く間に魔物を成敗した。
それは今日も続く……そしてアイスドラゴンというB-級のドラゴン。
氷の鱗で覆われているのは特徴で、飛行能力が高く王都の空に羽ばたいている。
陽炎は有無を言わさず、浮遊のスキルで空高く浮かび火炎剣で切り裂いて難なく屠った。
「流石は陽炎様にございます!」
「やはり、団長様は最強だ!」
「正しく王都の守護神です!」
口々に賞賛の声が沸き起こる。それを見ていた王都の民が、陽炎を英雄と称えた。
しかし、その日であった。肉親である今世の父が急死したのは……。
病名、『アルコール中毒』。陽炎の父は母と妹を失った時から酒浸りに成り、
宰相の役目を放棄して出仕せず、朝から毎日酒を煽っていたのだ。
陽炎はそれを知らないはずはない。だが、父を咎めても詮無いことだと思ったのだ。
父は酒の瓶が散乱している広間で仰向けに倒れて無くなっていた。
それから程なくして父の葬儀が執り行われた。陽炎は終始無言だった。
喪主は当然、陽炎だが、当たり障りのない口上で締めくくった。
しかし、そこからだった。宰相の死によって王宮内が修羅場と化したのだ。
宰相の座を巡って、二人の大臣の政権争いが勃発した。左大臣詩董宅。
そして右大臣ガシンの両巨頭は血みどろの政権争いを繰り広げた。
その余波は守護騎士団長であり、武断派の筆頭である陽炎にも及んだ。
陽炎は二人の大臣より、密会に誘われた。大金を陽炎に渡して自陣営に取り込もうとしたのだ。
陽炎は当然の如く拒絶したが、詩董宅とガシンはしつこかった。
「陽炎殿……我が陣営に味方していただきたい。
孫娘の詩花を陽炎殿に嫁がせても良いのですぞ」
詩董宅の屋敷にて行われた、ある日の密会に置いて、詩董宅の誘いを受けた。
詩董宅は何を隠そう、あの妹分の詩花の祖父である。
孫娘の詩花と陽炎が親しいことを見抜いていたのだ。詩董宅はしつこかった。
当然、陽炎は首を立てには降らず、その日の密会は流れた。
王都中に影響力を持つ陽炎は勧誘の声が後を絶たなかった。
二人の大臣が陽炎を取り込もうとする理由は陽炎が、いまや上級武官の筆頭であり、
その実力は国内に知れ渡っているからである。陽炎は激怒した。異世界に転生して初めての怒りであった。
陽炎は日に日に強まっている血みどろの政権争いに心底から嫌気が差した。
余計なしがらみが鬱陶しかった。超名門である陽家の家督相続の儀も迫っている。
だが、陽炎は家柄も地位も全て捨てて王都を去る事に決めた。その前に詩花に会っておきたい。
荷物を纏め、比較的軽装で、詩花と予め決めていた場所、高台へと向かう。
詩花は陽炎を今か今かと待ちわびていた。陽炎は意を決し、詩花に決意を話す。
権力争いに陽炎は嫌気がさします。




