・銀のロングソードとライスジュース
「……本当に要りませんか?」
「ごめんなさいこんなの要りませんっっ!!」
うちのパン屋が武器屋さんになっちゃうのでお断りした。
「お待たせ、店の人に話を付けてきたよ」
「あ、お帰りなさい」
「その羽根はレンゴクチョウと呼ばれる小鳥の羽根だそうだ。よければ大切にしてくれ」
「ありがとうございますっ、嬉しいですっ!」
今ならあたし飛べるかも。素敵な贈り物が嬉しくて左右の手をパタパタさせてみた。残念だけど飛べたりはしなかった。
「君からは何を?」
「そこのピカピカのロングソードを差し上げようかと思ったのですが、要らないと言われてしまいました」
「……ああ、実は、俺も少しそれが気になっていた。うん、カッコイイな……」
「フッ……わかっていますね」
勇者様はほれぼれと白銀のロングソードを見上げて、それからこっちを見た。
「本当に要らないのか?」
「ええええーー…………」
なぜこれが気に入らないのか理解出来ない。という顔だった……。
「よい品ですよね……」
「ああ、いいものだ。実用性はないだろうが、少なくともカッコイイ」
「コムギさん、本当に、要らないのですか?」
要らないです。要らないんですけど……あたしが大好きな二人はこれをお店に飾りたいみたいだ……。
でもこれ、持って帰るだけでもちょっと大変なような……。
「俺はインパクトがあっていいと思う」
「小物ばかりでは目立ちませんからね。そこでこの大物の出番といわけです」
「こんな物を振り回されたら命に関わるからな。防犯にも一躍買って俺たちも安心というわけか」
「男性客の視線は釘付けになるでしょう。観光地で売られているロングソードは、魔界の男の子の憧れですから」
そう言われたら悪い買い物でもないような気がしてきた。うちは甘い商品が多いので女性客が多いし、もっと男性客の気を引きたい。
ちょっとオブジェとしては威圧的なような気もするけど……。
「わかりました! じゃあうちのお店に飾っちゃいましょうっ!」
「おおっ、気を変えてくれたか!」
「どこに飾るか悩んでしまいますね。店主、話は聞いていましたね? こちらの白銀のロングソードを1振り下さい!」
「ぅ……」
二人が喜んでくれてよかった。よかったんだけど、やっぱり、要らないといえば要らないような……。目立つところに置かれたらすごーく困るような……。
ああ、でも、二人とも嬉しそうに笑ってる。もう後には引けないみたい……。
ロベールさんの手から大きな金貨が現れて、ついに白銀のロングソードは買われてしまった。
「よいですね……」
「ずるいぞ、ロベール! 俺にも持たせてくれ!」
ロベールさんはキラキラと輝くロングソードを肩にかけた。勇者様はロベールさんから貸してもらうと、同じように肩にかけて笑いあった。
まるで新しいオモチャを買ってもらった男の子たちみたいだった。
それからあたしたちは宿に戻って、宿で昼食を食べて、愛馬に乗っての楽しい遠乗りに出かけた。パレットリアと呼ばれるお花の染料畑を見れるそうなので、近隣の里を目的地にしてお出かけを楽しんだ。
畑一面がピンク色の花弁でいっぱいの染料畑が綺麗だった。行きはロベールさんの背中に身を預けて、帰りは勇者様の背中を借りた。
幸せを感じた。恋愛感情に気付かせてくれた観光客のお姉さんたちに感謝したくなった。もっともっと、仲良しになれるようなことをしたくなった。
夕方頃に帰ってきて、温泉で汗を流して部屋で疲れを癒せばもう夕飯だった。
「こちら、ドゥームズ・テンと呼ばれる郷土料理になります。通はテン・ドゥーンと呼びます」
「わぁぁぁぁーっ、美味しそう!!」
「ここは不思議な食べ物が次から次へと出てくるな……」
テン・ドゥーンはライスの上に揚げ物を乗せた料理だった。あたしの勘違いでなかったら具の一つがエービィに似てる。つまりすごく美味しいご馳走ってことだ。
「さらに今夜はこちらのライスジュースも付いてきます」
「えっ、お米のジュースですか!?」
「おい、ロベール、これは……」
「ジュースです」
お米のジュースはまるでお酒みたいな匂いがした。ドロリと濁っていてなんだか甘そうだった。
「ではいただきましょうか。エービィの美味しさを理解できない貴方と共に」
「俺のために具を変えてくれたんだな、助かるよ」
勇者様のテン・ドゥーンはエービィが入ってなかった。代わりに白っぽいのが入っていた。
「サクサクで甘からだぁ……っ!」
「気に入って下さってよかった」
「勇者様のドゥーンの白いのはなんですか?」
「マ・イーカです。これも揚げ物にするとドゥーンに合いましてね」
ロベールさんが勇者のコップにライスジュースを次いだ。さっきちょっと舐めてみたんだけど、ほんのり甘くてあたしもなんとか飲めるやつだった。
「お、おい……」
「今夜は貴方の本音を聞いてみたいのです」
「あのっ、あたしももう少し飲んでみたいです、ライスジュース!」
テン・ドゥーンとライスジュースをいただきながら、あたしたちはお菓子を食べた。ライスジュースとしょっぱいお菓子の相性は最高だって、ロベールさんが勧めるから。
「おや意外といけますね、二人とも。ライスジュースのトックリが空になってしまいました」
「追加しよう」
「ふぁぁぁ……あたしは満足かもぉ……」
勇者様とロベールさんはライスジュースを交わして語り合った。あたしは頭と身体がグニャグニャしてきたからソファーに寝転がってお喋りに参加した。
お菓子を食べていたらパンを焼きたくなった。でも今はヘロヘロで頭も手も動かない。まだ時間も早いのに眠気が襲いかかってきた。
「わたし、先に寝るね……おやすみ……」
二人があたしになんて言葉を返したのかもわからない。あたしは寝室のお布団の真ん中に倒れ込み、楽しそうに語らうロベールさんと勇者様の声を子守歌に目を閉じていた。




