・観光、ユカタ、ヒヨコ
甘味処を出るとキモノ屋さんに行った。色とりどりの布を使った綺麗なユカタやキモノがお店いっぱいに飾られていた。
どっちも本格的な物になるとすごいお値段だった。
「どうです、なかなか見事なものでしょう? この辺りは染料の栽培が活発でして、各地の里が各地の色に布を染め上げているのです」
「その里の色ということか。面白い文化だ」
「魔界の植物が色鮮やかなのは土壌による影響なのです。中でもこのユーガは土壌の多様性に富んでおりまして、同じ染料植物なのですが、里ごとにその花や葉の色がガラリと変わるのです」
ロベールさんは今日も説明好きなロベールさんだった。
「これが魔界の強みというわけか。これだけ色鮮やかな服が安価に手に入るというわけでもすごいことだ……」
勇者様は地方の歴史や文化に興味がある。仕事柄ロベールさんはそういうのにも詳しくて、二人は楽しそうに難しい話をしていた。
「まあ要するに、どの色の服もそう値段がかわらないということです」
「わかっているさ。ユーパトリウムでは深紫と真紅が高かったが、こっちではほとんど同じ値段だ。好きに色を選べるだなんて魔界は素晴らしいよ」
二人は盛り上がっているけどあたしは買い物に夢中だった。語らう二人を背中に抱えながら、どのキモノを買ってもらおうかと悩みに悩んだ。
大好きな二人からの贈り物なんだから、今しかない一着なのだから、一番自分が気に入る物を見つけたかった。
「……つまり土着愛の強い種族か」
「ええ、彼らは自分の土地を離れることを本能的に強く嫌うのです。分類上は私と同じ魔人族なのですがね……」
美味しそうな桃色のユカタ。涼しそうな白と青のグラデーションのユカタ。少し地味だけど香ばしそうな焦げ茶色のユカタ。3つの候補に絞ったところで、あたしの前に第4の選択肢が現れた。
「あっ、これっ、これがいいですっ!!」
それはやさしい雰囲気のレモン色のユカタだ。
「おや、やっと決まりましたか。おっと、これは……」
子供服コーナーにあったけど、体格的にはあたしでも着れると思う。
「ヒ、ヒヨコ……?」
「はいっ、ヒヨコちゃんのユカタですっ!!」
「フッ……そうきましたか。貴女らしいといえば貴女らしい趣味ですね」
ロベールさんがお店の人を呼ぶと、試着をさせてもらえることになった。
「どう見ても、子供服では……?」
「まあ、元公爵令嬢が着る服ではありませんね」
「聞こえてますからーっ! 子供っぽいと思われてもあたしはこういうのがいいんですっ!」
あたしはヒヨコちゃんのユカタを試着した。宿のユカタより少し丈が短くなったけど、こっちの方が明るい色でかわいい。お店の人に腰のオビを締めてもらうと、あたしは二人の前に駆け戻った。
「じゃんっ!! どうですかっ、かわいくないですかっ!?」
「お、おお……っ」
さっきは子供服って言ってたくせに、勇者様は感動したように声を上げた。
「わかってはいましたが、少しサイズが小さくて……これは目に毒ですね……」
「毒なんかありませんよーっ!? だってヒヨコちゃんですよーっ!? それに色も山百合みたいで綺麗じゃないですかー!」
「え、ええ、まあ……」
詰め寄るとロベールさんが赤くなって視線をあたしからそらした。丈が短い方が動きやすいし、こっちの方があたしに合っていた。
「どうですかっ、勇者様!」
少し身軽になったのでくるっと回って勇者様の前に寄った。
「ヒ、ヒヨコちゃんがかわいくて、いいと思う……」
「ですよねーっ、かわいいですよねっ、これっ! なんか自分がヒヨコになったような気分になってきました!」
「だが目に毒だ……」
「えーーーっっ?!」
着たらもっと気に入ったのでヒヨコちゃんのユカタを買ってもらうことにした。あたしは別によかったのに、丈が長いと二人が言うので、お店の人に長さを調整してもらった。
「ロベール、俺は器の小さな男だ……」
「突然なんです?」
「店の客がコムギの足をジロジロと見ていた……」
「ほぅ……」
「醜い感情がわき起こったよ……。自分の彼女でもなんでもないというのに……」
「どの男です? 二人で囲んで睨むくらいならば法に反することもないでしょう」
ヒヨコちゃんとなったあたしは店内をブラブラしていた二人を探して、お会計をしてもらって、贈り物に何度も感謝してからお店を出た。
「まだ少し丈が短いような気がしますが……」
「そう? でもこれ以上は生地から作り直しになっちゃうって」
着替える前は足に引っかかって歩きにくかった丈が膝の上まできたことですごく楽になった。
「君が気に入っているならいいさ。だが少しでも不快な視線を感じたのなら、俺たちに言ってくれ」
「二度と太陽を拝めないようにして差し上げますよ」
「視線なんて気にしないしそんなの困るよぉーっ!?」
「そこは気にしてくれ!!」
それからおみやげ屋さんに行って小物を探した。細工から陶器、染め布を使った生活用品。誰が喜ぶのかわからない銀ピカの骸骨。変な物から綺麗なものまでいっぱい並んでいた。
「みんなのおみやげどうしよう……」
「それは後回しにされてはどうでしょう」
「しばらく滞在すればどうせ退屈することになるんだ、今は自分が欲しい物を探すといい」
「じゃあ一緒に探して下さい! なんかわかんなくなってきちゃって、二人のオススメが聞きたいです!」
そう聞くと勇者様は気になっていた物があったのかすぐに動いた。彼は赤い鳥の羽根を使った髪飾りを取って、あたしの髪に止めてくれた。
「え、えへへ、なんか照れますね、こういうの……っ」
「これだって棚に置けば立派な置物だ」
「あ、そっかっ! その発想はなかったですっ! これ買って下さい!」
勇者様はロベールさんに何かの合図をするとレジに向かった。
「では私も彼のやり方を見習って、こちらの白銀のロングソードを――」
「そ、それはさすがにいらないですっ!!」
「フフ……冗談です」
「冗談に聞こえませんでしたよぉーっ!?」
ロベールさんはやっぱり気になるのか、壁に飾られていた白銀のロングソードをまだ見上げていた。
「こういった観光地のみやげ物といったら木のロングソードと相場が決まっていますからね」
「こんなの買ってどうするんですか……」
ロベールさんはあたしの質問に腕を組み、真面目な顔でしばらく考えた。
白銀のロングソードの下には白木のロングソードが何本も飾られている。どれにも『ユーガ・ハーラ温泉』と刻まれていた。




