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・甘味、好き……

 蒼い葉を持つ紅葉が植林された並木道。ユーガ温泉郷全体を見渡せる展望台。展望台に続くゆるやかで見晴らしのいい上り坂。お米を使った醸造所。緑豊かで不思議な形をした神殿。温かい足湯。綺麗なお姉さんがいっぱいいる楽しい街。


 ロベールさんの背中を勇者様と並んで追って、面白いところをいっぱい紹介してもらった。


「どうです、素晴らしいでしょう、ユーガ・ハーラは」


「ああ、興味深い。独自の信仰に郷土文化、もう少し詳しく知りたいな」


「いいでしょう。ですがかなりマニアックな話になりますので、それは後ほどということで――着きましたよ」


 ロベールさんに導かれて藁葺き屋根のお店に入った。そのお店からは甘い匂いが立ちこめていて、軒先ではユカタを着たお姉さんがお団子を食べていた。


「ここってお団子屋さんですかっ!?」


「甘くない物もあるんだろうな……?」


 ロベールさんはあたしたちの質問に答えなかった。窓から外が見える奥の席に落ち着いてから、遅れて答えてくれた。


「ここは甘味処、甘い物を食べる専門店です」


「わぁぁーっ、甘い物専門のお店ですかーっ!」


「おい、聞いていないぞ、ロベール……ッ」


「聞かなかったのは貴方でしょう。大丈夫です、我々に付き合ってゆけば少しずつ貴方の舌も、甘味への耐性を身に付けるでしょう」


 ロベールさんがメニュー表を取った。メニュー表はもう1つあったからあたしも取って、勇者様が好きなプディングがあればいいなと思いながら美味しそうな物を探した。


「あ、プディングはないみたいですね……」


「そんな……ないのか……」


「よして下さいよ、私まで食べたくなるではないですか、あの魅惑のクリームパンを」


「君こそよせ。無性に食べたくなる……」


 嬉しくて作ってあげたくなったけど、今は我慢して注文を決めた。朝は収納に引きこもっちゃうくらいだったけど、今はどうにか二人の顔を自然体で見れる。他の人の目がある外出先だからだと思う。


 注文はそんなに待つこともなく、お茶を半分飲んだところでやってきた。ちなみに勇者様みたいな人のために、ここでは紅茶もメニューに乗っていた。


 勇者様はロベールさんおすすめのワラビモチ。あたしはクリーム・アンミツ。ロベールさんはクリーム・ゼンザイとイーモ・ヨーカンというのを注文した。


「本来、黒蜜と大豆粉末を塗りつぶすほどにかけてから食べる食べ物ですが、味のわからない貴方はそのまま食べるとよろしいでしょう」


「美味しそう……」


 ワラビモチはあたしたちが知っているモチとは少し違った。プルプルしていて、半透明で、まるでゼリーのようだった。

 勇者様はワラビモチを串で突いて、落とさないように慎重に口へ運んだ。


「ど、どうですかっ!?」


「どうでしょうか? 貴方の口に合うはずなのですが」


「そんなに見られると食べにくい……。美味しいよ、ちょうどいい甘さだ」


「それはよかったです」


 ロベールさんは勇者様の返しに喜ぶと、クリーム・ゼンザイというのを口に運んだ。あっちもすごく美味しそうだった。


「よかったら君も少し食べるか?」


「い、いいんですか……っ!?」


「ではお構いなく」


「ああああーっ、ずるいですよぉロベールさぁんっっ!!」


 ロベールさんがひょいとワラビモチをつまんで持って行くので、あたしも同じように摘まんで食べてみた。勇者様はあたしたちをやさしく見守っていた。


「これも土産に持って帰りましょう。無論、自分が食べる分もです」


「わぁぁーっ、プルプルでモチモチ! ネットリしててゼリーより食べ応えあるー!」


 そんなにボリュームがあるお菓子でもないし、これは追加で注文してもいいかも。黒蜜をたっぷりかけて食べてみたかった。


「こちらのイーモ・ヨウカンもどうですか?」


「食べる食べるっ!」


「どうぞ」


 ロベールさんが串で刺したイーモ・ヨウカンをあたしの口元に運んだ。


「ぁ…………」


「どうかされましたか?」


 そこで急に恥ずかしくなった。口に半開きにして差し出されたそれを食べるかどうか、あたしは迷った。


「コムギ、もっと食べたいだろう? どうぞ」


「え……!?」


 そんなあたしを見て何を思ったのか、勇者様はワラビモチが刺さった串をあたしの口元に差し出した。


「貴女にはそんな薄味の食べ物は似合いません。このイーモ・ヨウカンこそが甘味の王様ですよ」


 あたし、そういうタイプに見えるんですか!?


「コムギ、君はもう少し健康に気を使った方がいい。若い頃から彼のように濃い味の食べ物ばかり食べていたら、身体を壊してしまうぞ」


 あたし、遠回しに太らないように気を使ってもらってるんです!?


「あ、あの……わかりましたから、ゆっくり片方ずつが……」


「では私のイーモ・ヨウカンを先に」


「そういう押し付けがましいところが君の弱点だな。コムギ、自分が食べたい方を先に口に入れるんだ」


 そう言いながらも勇者様までぐいぐいワラビモチを向けてきた。


「あちらはもう食べたでしょう。さあ口を開けて下さい」


「どうして君はそんなに強引なんだ、たまには相手の意思を尊重するべきだ」


「わかっていませんね、クレイン。時に人は押し付けられることを望むのです」


 そうかもしれないですけど今は望んでません!

 勇者様とロベールさんは挑戦的な笑みを送り合ってまた爽やかにじゃれた。


「はむっっ!!」


 あたしは食べた。ちょうど串の先が重なったところを狙って、ワラビモチとイーモ・ヨウカンを一口で両方貰った。


「む……そうきましたか……」


「この勝負、引き分けのようだな」


「ええ、勝負は次の機会といたしましょう」


 この戦い、まだ続くの……?

 勇者様もロベールさんもどことなく上機嫌だ。自分が差し出した甘味をあたしが食べたからだろうか。それともこの二人は張り合うのが楽しいのだろうか。


 とにかくそれで落ち着いたので、あたしはやっと自分のクリーム・アンミツを食べることができた。

 アンミツは面白い味の食材が盛りだくさんの楽しい甘味だった。


「美味しそうですね」


「そのゼリーのような塊なら俺でも食べられそうだ」


「私は全部いけますよ」


「言われなくとも知っている。しかし、美味しそうだ」


 また二人の競争が始まった。次の狙いはあたしの大事なクリーム・アンミツのようだった。


「あ、あの……ちょっと食べます……?」


 二人は即答でうなずいてから、競争相手に視線を送った。


「私が先にいただいてもよろしいですね、クレイン」


「それを決めるのは君じゃない。コムギ、君は好きな方を優先するといい」


 どっちも好きなんですけど!!

 なんて言えるわけない。言ったらどうなるかわからない。失礼だと思う……。


「あの、じゃあお皿にわけます……」


「では私の皿を先にお願いします」


「またかロベール! 君という男はどうしてそうなんだ!」


 と言いながら勇者様とロベールさんは自分のお皿をあたしの前に出して、どちらが先に分けてもらうかをレギュレーションにしてまた張り合った。


 どっちも好きなんだから、どちらかを優先することなんて、あたしには出来ないというのに。


「私を優先して下さるならばもっとかわいいユカタを買って差し上げましょう」


「買収だと!? 男と男の勝負に買収を持ち込む気か、君は!?」


「物で釣ってはならないとは協定にはなかったはずですが?」


 キョウテイってなんだろう……。


「コムギ、こちらを優先してくれたら店で飾れる小物を君に贈ろう。俺はロベールほどの財力はないが、足りない分は気持ちを込めて贈る」


「芸のない男ですね、それは半月前に贈ったばかりでしょう?」


「な……っ、なぜ君がそれを知っているっ!?」


 二人がまたじゃれ合っている隙に、あたしは串でミカンと甘い豆を、スプーンで黒蜜に浸かったゼリーを二人の口元に差し出した。

 本当になんで知っているんだろう。ロベールさんに自慢した覚えはないのに……。


「どうぞ、あーん……」


 せっかくあたしが勇気を出して差し出したのに、二人は驚くばかりでなかなか口を開けてくれなかった。ライバル同士でチラチラと流し目を向け合っていた。


「恥ずかしいんですから早く食べて下さいっ!!」


「あ、ああ……!」


「ありがとう、いただきます」


 二人はやっと食べてくれた。どっちもとても嬉しそうにこっちを見るから、あたしはもっと恥ずかしくなってうつむいた。クリーム・アンミツの甘さが急に薄くなったような気がした。


「食べ終わったら小物とユカタを探しに行きましょうか」


「反対する理由はない」


「えっえっ、でも……っ」


 あたし、助けてもらったあの夜会の夜からずっと、二人に何かをもらってばかりなのに。


「私もクレインももっと華やかな格好をした貴女を見たいのです」


「ああ。それに君のパン屋にこの旅の思い出が飾られたら、常連の俺たちも嬉しい」


「思い出の残る小物ほど店を彩る物はないでしょう」


「そ、それはそうですっ! 欲しいです! 欲しいですけどっ、あたし貰ってばかりで何もお返しできてませんよーっ!!」


 もっとお仕事がんばって、もっと恩返しをしなきゃと思った。もっと二人に幸せになってもらいたい。なんでもいいから何かをしてあげたい。


「君には十分助けてもらったし、君は俺たちに遠慮することはない」


「その通りです。貴女の笑顔が私とクレインの喜びです」


「素直に甘えてくれ」


 気持ちが嬉しくてあたしは小さくうなずいた。やさしくされると恥ずかしくなるから、上手い言葉が喉から出てこなかった。

 オシャレにはあまり興味なかったのに、今は服を買ってもらえるのがすごく嬉しかった。なんか幸せ。すごく幸せ。


「ありがとうございます……。じゃ、じゃあ……っ、欲しいですっ、ユカタも小物もすごく欲しいですっ!」


 素直に甘えてみたら、勇者様とロベールさんがやさしく目を細めてあたしを見てくれた。

 二人は無条件であたしを守ってくれる。まるで兄が妹にするように甘やかしてくれる。


 す、好き……。どっちも好きだなんて口が裂けても言えないけど、好き……。

 胸の中で好きという気持ちが膨らんで爆発してしまいそうだった。

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