・どっちが好き?
朝、目覚めるとあたしはロベールさんの足を枕にして、勇者様の顔と胸を足蹴にしていた。
「はっ?!」
「やっと起きて下さいましたか……」
「あっあっ、ごめんなさいロベールさん……っ。というかあたし、なんでこんな角度で寝てるの……っ!?」
寝苦しそうにしている勇者様から足をどけて折り曲げた。
「いえ、貴方につぶされてうなされるクレインの姿が見物でしたので、お構いなく」
「うぅ……普段はこんなに寝相悪くないんですよ? 本当ですよ……?」
勇者様はまだ眠っていた。あたしが身を起こすと、ロベールさんが隣にやってきて、一緒に勇者様の寝顔を見下ろした。
「実はこんなところに、バターピーナッツがありまして」
「え……?」
ロベールさんはどこからともなく出したバターピーナッツを、勇者様の両方の鼻穴に押し込んだ。
「フッ、フゴッッ、フグゥゥッッ?!!」
「わああああーっっ、何してるんですかロベールさんっっ?!!」
「ちょっとした親愛の証です」
勇者様は何をされたのかもわからずに身を起こして、頭のまったく回ってない顔でこっち見た。
「私はお腹が空きました。朝食を運ばせてもよろしいですね?」
「ああ……」
あまり眠れなかったのだろうか。勇者様はわかっているのかも怪しいぼんやりした返しをした。
「同じ朝方に寝たはずなのに、なんで君はそんなに元気なんだ……」
「徹夜は慣れていますので」
「慣れちゃダメですっ、ちゃんと寝て下さいよーっ!」
ロベールさんはショージと呼ばれるカーテンを開いてから部屋を出ていった。あたしたちはまぶしい魔界の朝日に目を細めてうつむいた。
「朝ご飯、なんだろうな……?」
「楽しみですねっ! 楽しみだけど、はぁ……パンが恋しい……」
「旅行中はパンのことを忘れたらいい。仕事のことを忘れるいい機会だ」
「うぅぅー……そう言われたらお店のことが気になってきました……」
勇者様に誘われてテーブルに腰掛けた。喉が乾いたけどポットの中は空っぽだった。
ロベールさんがすぐに宿の人を連れて帰ってきて、テーブルに朝食が配膳された。今日の朝ご飯は――
「こちら、朝スーシです」
「昨日と同じじゃないか……」
「わーいっ、スーシだ、スーシだぁーっ!」
同じスーシだけど材料が違った。山菜料理とハーフだった昨晩とはボリュームが違った。
「朝一で食べるスーシの美味しさがわからないないとは、わかっていませんね。ではまずこちらの、ナスのバトルシップ巻きからいただきましょう」
「変な名前だ……」
「あ、美味しいっ、ナス美味しいっ!!」
ナスから入って、カッパ、テッカと続いて、それからしましました不思議なスーシを取った。
「こちら、女性に特に人気の、ムゥシ・エービィです。さあ、ご一緒にどうぞ」
「エービィーッ! いただきまーすっ!!」
あたしはエービィの味わいに感動した。ぷりぷりしていて美味しい味がつまったすごいお肉だった。
「こ、この味は……っ」
「おや、お口に合いませんか、クレイン?」
「あ、ああ……これは君にあげよう」
「それはもったいない、こんなに美味しいのに」
美味しいのに勇者様は青い顔をしていた。
「サバイバル訓練で食べた物に、味がひどく似ているような気がしてな……」
「ええまあ、スーシの材料は慣れてから見た方がよろしいでしょうね」
ロベールさんは勇者様のムゥシ・エービィのスーシを一口で食べてしまった。このお肉の正体、知りたいような、知りたくないような……。
だた一つ確かなのは、シャケキャビアはやっぱり美味しいってことだった。
お腹いっぱい食べて幸せになったら、あたしたちはユーガの町に出る前に朝風呂に入ることにした。
「うーん……ううーん……おかしいなぁ……」
なんだか変な感じだった。お風呂に入ったらさっぱりしてソワソワした気持ちが落ち着くと思っていたのに、全然収まらなかった。
お風呂に入る前から心拍が早くなっていたし、昨日の夜や、山小屋でのことを思い出したらさらに早くなった。
恥ずかしい気分になったり、ワクワクしたり、急に不安になったり、あたしの中に沢山の感情がある。特にドキドキや不安は勇者様やロベールさんのことを考えると強くなるようだった。
「あ、昨日のモテモテニンゲンさんだ」
「どうしたの? 彼氏と喧嘩した?」
「違うよーっ、彼氏じゃないよーっ!」
昨日であったお姉さんたちにロベールさんと勇者様の話をした。あたしが抱えているおかしな精神不安と動機の相談もした。
「なんで気付かないの!? それっ、恋っ!」
「こい……?」
「相手のことが好きだから不安になるんだよ。嫌われたらどうしようとか、無意識に考えちゃうの」
「あ、なるほど、それはあるかも……!」
嫌われたくない。その感情は旅行に出てからさらに強くなった。あたしは嫌われたくない。ずっと仲良しでいたい。これが、恋……?
「どっちどっち、どっちに恋してるの?」
「え……?」
「どっちが好き?」
「え、えっと……ううーん……」
どっちが好き。そういう考えた方はしたことがなかった。聞かれてあたしは自分の胸に手を当てて、自分に問いかけた。
ロベールさんと勇者様、どっちが好き?
「え……まさか、この子……」
「ありえるね。だってどっちもチョーイケメンだもん」
順序なんて付けられない。どっちも好き。どっちにも嫌われたくない。
「あの……どっちも好きなんですけど、どうしたらいいですか……?」
「なんて贅沢っっ!!」
「キィィィーッッ、ちょっと若いからっていい男に囲まれてっっ、はぁぁーっっ、もう嫌ーっ!!」
「自分でどうにかしなさい、自分で!! お姉さんたち忙しいの!!」
お姉さんたちは急に態度を変えて露天風呂を出て行ってしまった。お風呂に残されたあたしは、もう一度胸に手を当てて考えた。
どっちが好き?
「う、うう……うぅぅ……ど、どうしよう……」
どっちも好き。お姉さんたちに金切り声を上げられようとも、あんな素敵な二人に順番なんて付けられなかった……。




