・温泉と湯上がりご飯
当然だけどお風呂は男と女で分けられていた。先客がちらほらいて、中には仲のいい友達同士ではしゃいでるお姉さんたちもいた。
やっぱりみんなときたかった。次こそはソフィーちゃんたちやアムリスちゃんを誘って、この温かいお湯に浸かりたかった。
広くて熱い露天風呂に浸かってのぼせかけるまでゆっくりした。というか、ちょっとウトウトしておぼれかけた。
「大丈夫、ニンゲンさん?」
「だいじょぶだいじょぶ、ありがとー!」
「ニンゲンさんは一人旅~?」
「ううん、男の人二人と一緒。いいなぁ、あたしも女友達ときたかったなぁ」
「えっ、それどういうこと!? 詳しく聞かせてよ、ニンゲンさん!!」
詳しく説明したらすごく羨ましがられた。どっちもカッコイイしやさしいって言ったら、なんかうなり声を上げられた。
「キィィーッッ、男がいたら女同士で旅行なんてしてないのよーっ!!」
面白い人たちだった。お風呂を出たときはユカタを着直すのを手伝ってくれた。あたしは出会いに感謝して、長湯にちょっとふらふらする足で、だいぶあちこちさ迷ってからどうにか九頭竜の間に戻ってきた。
戻ってこれて、よかった……。
「お、おお……」
「え、何……?」
帰ってくると勇者様があたしに声を上げた。ロベールさんもテーブルに腰掛けたまま、なぜか固まっていた。
「あのー、どうかしたんですかー?」
「いえ何も。なかなか戻ってこないのでクレインをからかって暇を潰していました」
「すみません、なんか気持ちよすぎて、寝ちゃって……」
「そ、そうですか……」
ロベールさんの様子もちょっとおかしい。二人とも顔が赤い。二人ともお風呂でのぼせちゃったのだろうか。
あたしが席に着くと、ロベールさんが喉を鳴らした。勇者様はこちらをチラチラ見ていた。
「本人に自覚がないところがまた……強烈ですね……」
「今夜眠れる自信がない……」
「あの夜のように睡眠の魔法をかけて差し上げましょうか?」
「どの夜だ……っ」
またあたしを蚊帳の外にしてイチャイチャしている。こんなことなら強引にでもソフィーちゃんを連れてくるんだった。
そう思っていると部屋のドアがノックされた。ロベールさんが応対に出ると、本日の夕飯が運ばれてきた。
宿のレストランで食べるのではなくお部屋で食べる。それが旅館の醍醐味なんだって。
「こちら、魔王様の大好物のスーシと山菜料理です」
「野草料理か、いいな! サバイバル訓練でよく食べた!」
「これが噂のスーシ……ごくり……」
全部食べきれるかなと心配になるほどにいっぱいで豪華な夕飯だった。
「スーシ初心者である貴方たちは、まずこちら、タマゴスーシから始めるとよいでしょう」
「いただきまーすっ!!」
タマゴスーシは甘かった。ライスと一緒にほろほろと口の中でとけてすぐに喉の奥へと消えてしまった。
「甘いぞ、ロベール……」
「甘いということは美味しいということですよ、勇者様!」
「そういうことです」
「どういうことだ。……それで次は?」
「カッパからカンピョウリ、そこからテッカへとゆくのがよろしいでしょう」
食通のロベールさんがいるとご飯も面白い。言われた通りに食べていった。魚が苦手なあたしでも、テッカはすごく美味しく食べられた。
「さてそろそろいいでしょう、次は本命のレッド・マーグロです。スーシはこのマーグロという食材がキングです」
「知らない食べ物を食べるのは楽しいな。いただくよ、ロベール」
「フッ、永久に忘れられない味にして差し上げましょう」
「料理人でもないのになんでそんなに偉そうなんだ、君は……」
レッド・マーグロのスーシを食べた。味はさっきのテッカの中に入っていた物と同じで、不思議な食感のお肉だった。
ギトギトしていないのに美味しさが身に詰まっていて、スーシの王様と呼ばれることだけのことはあった。
でも、パンには合わなそう……。
「しかしウーニとカニミソーは貴方たちには少し早いです。私のシャケキャビアとカーニと交換して差し上げましょう」
「君が独り占めしたいだけでは?」
「クレイン、貴方は私のことをなんだと思っているのです」
「食いしん坊!」
勇者様がチラッとこっちを見るから、息を合わせてあたしたちはそう言い返した。
「とにかく黙ってこちらのシャケキャビアを食べるとよろしいでしょう。交換はいつでも受け付けますよ」
思わせぶりにそう言うのでシャケキャビアを食べてみた。すごく美味しかった。ぷちぷちの塩味で、それがライスとすごく合っていた。
「うぇぇ……っっ?!」
「フッ、だから言ったでしょうコムギさん。それは上級者向けだと」
ウーニは不味かった。すごく不味かった。薬みたいな味だった。似た感じのカニミーソもきっと不味いからロベールさんにあげちゃった。
「さあクレイン、貴方のウーニもこちらに……」
「美味いじゃないか」
「な、なんですと……っ!?」
内臓みたいな見た目なのに、勇者様は美味しそうにウーニをほおばった。
「クッ、ウーニを独り占めにする私の計画が……っ」
「カニミーソもいけるな。悪いな、ロベール」
「貴方が舌の肥えた貴族階級であることを、すっかり忘れていた私の敗北ということですか……」
「あはは、勇者様って庶民的で貴族っぽくないですもんねー」
山菜料理もスーシも美味しかった。ロベールさんもいつもよりも饒舌で、明るくて、勇者様をからかう時なんて目が生き生きしていた。
「スーシにはまだまだ沢山のバリエーションがあります。よろしければこれからも食べ方を教えて差し上げましょう」
「喜んで世話になる。やっぱり美味い物を知りたかったら君に聞くのが一番だ」
「いつかウーニも食べれるよう、がんばります、あたしっ!」
「それは私がいただくので慣れなくて結構です」
美味しくて楽しい夕飯だった。残飯一つ残さないロベールさんの食べっぷりに宿の女将さんも狐耳をピコピコさせて喜んでいた。
スーシパンとか、いつか作ってみたいな。




