・男二人女一人の温泉旅行 ー ずぶ濡れで山小屋で ー
「ありましたっ、あの小屋ですっ!」
「助かったぁぁ……っ」
「ロベール、馬は俺に任せて君はコムギさんを中へ」
あたしたちは馬から荷物を下ろして山小屋に駆け込んだ。馬たちはさすがに入れないから、勇者様が雨宿りのできる安全な場所に連れて行ってくれた。
「晴れると聞いていたのですが……油断しましたね」
「ぅぅー……パンは無事でしたけど、パンツはグチャグチャです……」
「おじさんみたいなジョークですね」
「おじさんじゃないですジョークじゃないですぅーっ!!」
山小屋に先客はなかった。窓も閉まっていて中は寒かった。あたしがくしゃみを上げると、ロベールさんも立て続けにくしゃみを上げた。面白かったから一緒に笑っちゃった。
「焚き火もしないで君たちは何をやってるんだ、風邪をひくぞ?」
「焚き火ができるのですか?」
「こういった山小屋には用意されてるはずだ」
ロベールさんは白く輝く照明の魔法を出した。すると本当に山小屋には薪が置かれていた。
「たまには魔法を頼らないのもいいかもしれませんね」
山小屋には暖炉が置かれていた。そこに勇者様が薪を投げ込むとロベールさんが魔法で火を付けた。照明の魔法はすぐに消された。
「君がいれば燃焼材要らずか。コムギ、さあ早く暖炉の前に」
「ありがとう二人とも! わぁ、温か~い……」
暖炉の前に座り込んであたしは両手を炎に近付けた。勇者様とロベールさんもすぐ隣に座った。勇者様は火かき棒を見つけて火の調整をしてくれている。
「すみません、城の天気占い師には厳しく言っておきます」
「ええっ、そんなことしたらダメだよー!?」
「ですが楽しい旅が台無しになってしまいました……」
「濡れちゃったからってなんですかー! あたし、今楽しいですっ! クシュン……ッ」
こういうハプニングも前向きに考えたら楽しい。暗い山小屋でみんなでずぶ濡れになって、赤い炎に両手を掲げるなんて新鮮な体験だ。
「脱いだ方がいいな」
「えっ?!!」
「簡単に言ってくれますね……。クシュ……ッ」
「風邪をひくよりいいだろう。それより良い物を見つけたかもしれない」
勇者様はそう言って立ち上がった。
「わっ、わぁぁぁーーっっ?!!」
それからシャツとズボンを脱いでパンツ1枚になった。鍛え上がった戦士の背中が暖炉の赤い光に照らされていた。
「木綿の毛布だ。管理されているのか状態もいい。コムギ、ロベール、君たちが使うといい」
勇者様が木綿の毛布を持ってきてくれた。
「2枚しかないようですが、貴方は?」
「ええっ、それじゃ勇者様が風邪ひいちゃいますよーっ!」
「俺は君たちほどデリケートじゃない。薪も毛布もない山小屋で数日間雪をやり過ごしたこともある」
勇者様は少しも寒そうな顔を見せずにあたしの左隣でまた暖炉の火に当たった。
「そうですか。コムギさん、水分を含んだ衣服を着たままでは、冷えるどころか服の乾燥にも支障が出ます」
「ええっと……つまり……?」
「クレインのまねをしましょう」
「ええええっっ、脱ぐってことですかぁぁーっっ?!!」
「それがあれば肌を隠せる。誓って俺たちは変な目で君を見たりしないよ」
ロベールさんも勇者様に負けない脱ぎっぷりだった。すぐにパンツ1枚になって、濡れたシャツとズボンを暖炉の上にあるフックに吊した。
「暖かい中央は私がいただきます。クレイン、意地を張らずにこちらへ」
「な、何をするっ、うぉっ?!」
裸になった勇者様は毛布を肩にかけた。勇者様と自分の肩にかけて、男同士でくっついた。
「く、くっつくなっ!!」
「お断りですね。貴方に風邪をひかれては、私が組んだ完璧な旅行プランが台無しです」
「コムギの前だぞ……っっ」
「だからなんです? 男同士で気持ち悪かろうと、これが最もスマートな対処方でしょう」
「普通こうはならないだろうっ!!」
なんかおかしいような気もするけど、風邪で楽しい旅行が台無しになるのは困る。あたしは部屋の隅っこで服を脱いで下着だけになると毛布をかぶって……。
「あの、やっぱり……これだとあたしばっかり暖かくて不公平な気がします!」
「貴女はいいのです」
「ああ、そこはロベールに同意だ。男は男同士でぬくもることにする」
納得いかない。女だからって特別扱いされる言われはない。というか、ずるい……。
「それじゃあたしだけ仲間外れじゃないですかーっ!! あっ、そうだっ、だったらこうしましょう!!」
「な、何を……!?」
「ちょ、ちょっと待つんだ君っ、それはまずい……!!」
あたしはみんなで暖かくなる第二の方法を示した。あたしが暖炉の真ん中に入ってロベールさんを右手に追い出すと、ロベールさんの肩に自分の毛布をかけて、あたしの右肩に渡らせた。
そして勇者様側の毛布をあたしの肩にかければ、完成! ちょっと背中が寒いけど、あたしが暖炉の真ん中でその分暖かい。これでこそ公平だった。
「とんでもないことをする人です……」
「確かにこれなら、男同士でくっついて微妙な気分になるのは避けられるな……」
「私がお嫌いですか?」
「君は俺が嫌いか?」
あたしをはさんでまた勇者様とロベールさんがじゃれ始めた。本当に仲の良い二人だった。どちらも腕や肩がゴツゴツしていて、顔は綺麗だけど男の人なんだなって再確認させられた。
「じゃあじゃあ、二人はあたしのこと好きですですかー!?」
会話に入り込もうとしたら二人はあたしの質問に黙り込んでしまった。
「あの……なんですか、この間……!?」
「好きに決まっている」
「ええ、嫌いになる要素がありません。これほど魅力的な女性はそういないでしょう」
「やったぁーっ、ありがとうございますっ! 言わせた感ありますけど!」
二人があたしのことを好きって言ってくれた。そしたらなんか嬉しくなって、興奮しちゃったのか心臓の鼓動が速くなって、なんか頭が、少し混乱してきたかもしれない……。
あたしたち今、すごいことをしている。裸で好きとか嫌いとか言ってる。冷静に考えてみたらこれって、えーと、なんか、頭回らなくてよくわかんない……。
「雨が上がることを願って少し休みましょう」
「寒くないか、コムギ? ロベール、もっとくっつけ、彼女を凍えさせるわけにはいかない」
「えっえっ、だ、大丈夫ですよぉ……っ!?」
毛布が届かなくて腰の辺りが寒いけどそのくらいなら我慢できる。
「いいでしょう。貴方がコムギさんによりくっつくとおっしゃるのならば、こちらも遠慮する理由がありません」
「えーーーっっ?!! わあああああーっっ?!!」
二人が身を寄せてくると毛布の隙間が減って少し暖かくなった。でもあまりに刺激的で心臓がもたない。二人ともこっちを向いたりしなかったけど、恥ずかしくて頭が回らなかった。
「天気占い師を叱るのは止めておきます。アクシデントもまた、旅行の醍醐味と言いますからね」
「ああ、雨が上がるまで男同士でくっついて堪えるよりは格段にいい判断だ」
「フッ、私の隣はいつでも空いてますよ、クレイン」
「どこまでヘソ曲がりなんだ君は……」
やっぱり仲良しだなぁと思いながら暖炉の火に当たった。すごく恥ずかしいけど楽しかった。二人とも沢山話をしてくれて退屈することはなかった。
雨で外は寒いし、今日はこのまま夜を明かしてもいいかなって思うくらい、ドキドキでお喋りの絶えない刺激的なひとときが過ぎていった。
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