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・ロベールさんが帰ってきた!!

 あたしは休息日が好きだ。お店が繁盛するして、街もいつもより賑やかになって楽しい気持ちになる。露店もたくさん通りに並んで、お店に置けそうな掘り出し物を探す楽しみがある。


 それに今日は初めてクリームパンをお店に並べる日だ。いつもよりも早起きをして、お店の売場にクリームパンをどっさり並べて、あたしたちは今日もお店の営業を始めた。


「アムリスちゃんっ、これ親分さんと一緒に食べて! 絶対美味しいからっ!」


「ありがとうございます、ガルムレック様がお喜びになられますわ」


「アムリスちゃんも絶対食べてね!? プティングだよっ、すごく美味しいよっ! そうだ、今ここでちょっと食べる!?」


 アムリスちゃんの感想を聞きたかったけど、親分さんと一緒に食べると言って、たくさんのパンを抱えてお城に帰って行った。


 残念だったけど、すぐに他のお客さんたちからクリームパンの反響が返ってきた。休息日は必ず混雑する2階のフードコードから、クリームパンに盛り上がる女の子たちの声が聞こえた。


「大変なのですお姉さまっ、もうなくなっちゃいそうなのです!!」


「数量制限かけた方がいいかもねー。今日はお得意様がきそうな予感するしー?」


「えへへへ……だったらもっと焼かなきゃ!!」


「あたしらのお昼の分も忘れないでよー?」


「美味しくパワーアップなのです!」


 あたしはその日も一生懸命働いた。お客さんの感想がレジのリスティスちゃんに投げかけられると、聞き耳を立てて手を止めた。

 美味しく作れた食べ物をみんなに食べてもらう。知ってもらう。美味しいって言ってもらう。これってすごく素敵なことだった。


 目まぐるしく一日が過ぎ去っていった。昼過ぎになるとクリームパンをもう一度食べたいと言って、朝にやってきたお客さんが焼き上がりを待ってくれたり、褒めてくれたり、今日は大成功の日だった。


「ふぅ……さすがに、疲れたぁ……」


「最近混みすぎ……またなんかテイムしてきてよー。休息日の混雑ヤバ過ぎだから……」


「ソフィーもそう思うです……今日は目がグルグルの日だったのです……」


 それからソフィーちゃんはお城に修行に、リスティスちゃんは夢魔族の仲間とイタズラに行くと言ってお店を出て行って、あたしはレジカウンターで休憩しながら材料の納品を待った。


 そうしているとドアベルが鳴った。


「あ、今日は早かったですね! いらっしゃ――あ、ああああっっ?!!」


 やってきたのはいつもの仕入れ業者さんじゃなかった。


「どうも、ごぶさたしております」


「うわああーーっっ、ロベールさんだぁぁーっっ!! いつ帰ってきたんですかーっっ!!?」


 あたしがずっと帰りを待っていたロベールさんだった!


「昨晩遅くに」


「お帰りなさいっ! ずっときてくれなくて寂しかったっ、会いたかったですっ!」


「勇者キュルクレインよりもですか?」


「……へ?」


 思いもしない返しに驚いたけど、そんなことより勇者様とロベールさんが上手く仲直りできるのか心配になった。


「いえなんでも。それよりも取り置きをお願いしておいたはずですが、まだ残っていますか?」


「あ、もしかしてお城からの取り置きの話ってっ!」


「私です」


「そんな! それならそうと言って下さいよーっ!?」


「それでは面白味がありませんので」


「言ってくれたらあたしがお届けしたのに!」


「だからこそです」


 あたしはパン工房に駆け込んで、乾燥しないように布をかけておいたバスケットを抱えてお店で待つロベールさんの前に駆け寄った。


「あれ、どうかしたんですか?」


「い、いえ……」


 するとロベールさんは一歩後ろに下がってしまった。どうしたのか不思議になって詰め寄ると、また一歩ロベールさんは逃げる。


「食べて下さいっ、自信作ですっ!」


「知っています。プティングが入った新作ですね」


「さすがロベールさんっ、なんでもお見通しですねっ! よかったらお茶を入れますからっ、お部屋で食べていきませんか!?」


「あ、貴方の生活空間に、私を入れるのですか……?」


「あはは、変な言い方しないで下さいよーっ」


 ロベールさんを3階にご案内した。

 帰ってきてくれたのがすごく嬉しくて、お部屋にお通しするとあたしはダッシュでお茶を用意した。


「お待たせしましたーっ! どうですか、あたしたちの家!」


「落ち着きません」


「ええっ、散らかってるからですか!?」


「いえそういうわけでは……」


「じゃあなんでー!?」


 今日のロベールさん、ちょっと変だ。あたしはテーブルにお茶を配膳した。ロベールさんは床に置いてあったバスケットを開けて、そこからクリームパンを4つ取り出した。


「よろしければお一つどうですか?」


「いいんですかー!?」


「ええ、残りは譲れませんが」


「その食いしん坊なセリフをずっと聞きたかったです!」


 ロベールさんとのお茶会が始まった。ロベールさんはそれはもう幸せそうに、あたしの焼いたクリームパンを食べてくれた。


「どうですか?」


「美味しいです。今まで食べた甘いパンの中では一番です」


「やったっ、ありがとうございます!」


「ああ……想像を越える至福の味わいだ……。あまりの美味しさと多幸感に、意識が飛んでしまいそうです……」


「えへへー、またまたぁー♪」


 でも実際すごく幸せそうな顔をしてくれた。美味しそうに茶とクリームパンを口に運んで、お堅いロベールさんとは思えないほどに笑顔が明るかった。


「どうしたんですかー? なんかいつもよりすっごくいい笑顔してますけど?」


「やっと貴方のパンを食べられた上に、こんなに美味しい新作が待っていたのです。おまけにご自宅に通していただけるなんて光栄の極みですよ」


「あはは、またまた大げさなー♪」


「いえ、貴方はご自覚がないようですが、貴方ほど明るく魅力的な女性は他にいません。一緒にいるだけで気持ちが温かくなります」


「くすぐったいですよー、もーっ!」


 でもなんか嬉しい。そんなふうに思ってもらえるなんて嬉しい。あたしなんかより綺麗でかわいい人が魔界にはいっぱいいるのに、お世辞でも嬉しかった。


「ああ……もうなくなってしまいました……」


「えへへ、すごい食べっぷりでした! よかったらこれ食べます?」


「いただきます!」


 あたしが残り少しのクリームパンを差し出すと、ロベールさんはすぐに受け取ってくれた。だけどその時、指と指が触れちゃってロベールさんが固まった。


「あの……ロベールさん?」


 ロベールさんがあたしを見ている。なぜかあたしを見つめたまま動かなくなってしまった。


「すみません、ロベールさんこういうスキンシップ、前から苦手ですよね……」


 あたしがそう言うと固まっていたロベールさんがやっと動いた。もう片手で、クリームパンを差し出すあたしの右手を包み込んだ。


「……え」


 これは予想外だった。


「なるほど、この感情はやはり……」


「あ、あの……っ、あの……っ?!」


 彼はあたしの手の甲を確かめるように撫でた。あたしの手、働きすぎて、そんなに触りごこちよくないはずだから恥ずかしいのに。


「コムギさん」


「は、はいっ!?」


「昨日までの私は貴女の魅力にまるで気付いていなかった。貴女は6月の太陽のような素晴らしい方だ」


 暖かくて眠くなっちゃいそうな人ってこと?

 ロベールさんはあたしの手を離さない。あたしから視線を離さない。あのロベールさんがクリームパンそっちのけでなぜかあたしを見つめている。


「あ、あの……っ、そういえば勇者様っ、勇者様には会いましたかっ!?」


「ああ、彼ですか」


 ロベールさんがあたしからクリームパンを受け取ってイスに座り直した。それから優雅にお食事を始める。


「昨晩すぐに会いました」


「ど、どうなりました……?」


「心配して下さるのですね」


「当然ですよーっ!? だって、心配ですもんっ!」


 仲直りしてくれないと寂しい。あたしのせいでロベールさんは友達を裏切ることになってしまった。


「ご心配なく。会ってすぐにぶつかり合って、お友達からやり直すことになりました」


「よ、よかったぁぁ……。って、ぶつかり合ったってなんですか!?」


「少々、決闘を」


「ええええーっっ?!」


 ロベールさんの上半身、テーブルの下の下半身を確認してみた。怪我とかはしているようには見えなかった。


「彼はやはり尊敬に値する男です。誰に対しても公平で、正々堂々としている」


「はいっ、そういうところ、ロベールさんにも似てます!」


「私は彼ほど誠実ではありません。彼はあんなことをした私を許して下さいました」


「ぁ……よ、よかったぁ……わかってくれたんだ……」


「彼自身、私の裏切りに深く傷ついたでしょうに、器の大きな男ですよ」


「牢屋でノビノビしちゃうくらいですからねーっ!」


 なんか胸のつっかえが取れたかのようだった。ロベールさんはずっとあのことを気にしていたし、あたしも仲直りできるか心配だった。今夜はすごくよく眠れそうだ。


「そういえば温泉旅行、どうでしたか!?」


「楽しかったです。魔王様もお幸せそうに笑顔を振りまき、温泉街の女性たちに囲まれてご満悦でした。湯もさることながら、温泉饅頭、鮎の塩焼き、山菜料理もなかなか味わい深く……」


 食べ物の話ばかりになるところがさすがの食いしん坊宰相様だった。


「ええええ、いいなぁ……あたしもついて行きたかったなぁ……」


「そうですね、貴女も一緒だったらもっと楽しかったでしょう」


「そうですよーっ! ヨブお爺ちゃんには悪いですけど、あたしの方を連れてってほしかったです!」


 あたしもロベールさんと温泉に行きたい。お仕事は大好きだけど、届いた手紙を呼んでいたらすごく羨ましくなった。


「では近いうちにみんなで行きましょうか」


「あ、いいですねーっ! って、ええええーっっ?!!」


「私はクレインに声をかけます。貴女は親しい友人に声をかけるとよいでしょう。出発は暫定ですが半月後ということで」


「い、行くっ、行きますっ! 一緒に遊びに行けるなら大好きなお仕事だってお休みにしますっ!」


 勇者様も一緒だなんて楽しそう!

 あたしも楽しくするために色んな人に声をかけなきゃ!


「おこんにちわニャー!!」


 誰に声をかけるか考えていると、1階から声が聞こえた。業者さんの納品だった。


「では私はこれで」


「ええっ、もう帰っちゃうんですか!?」


「お気持ちは嬉しいのですが、仕事が山のようにたまっておりまして……フ、フフ……」


 遠い目をするロベールさんを1階まで見送ってその日はお別れになった。その後は業者さんの納品を検品して、それから日曜日の街に繰り出してちょっと遊べば夜になっていた。


「それは素敵。ぜひ楽しんでらして下さいね、お姉様」


「ええっ、きてくれないのーっ!?」


「お姉様の幸せのためですわ」


 アムリスちゃんがお店に寄ってくれた。一緒に行きたくて旅行に誘ってみたら、断られてしまった……。


「ソフィーも遠慮するのです」


「今度女だけで行くのはありかもしんないけどさー。ロベールと勇者の間に挟まる勇気とかないしー」


 ソフィーちゃんもリスティスちゃんも参加に乗り気じゃなかった。遠慮とかいらないし、みんなで楽しく旅行に行きたいだけなのに。


「店はうちらに任せてさー、行ってきなよ。うちらじゃ味は落ちるけどさー」


「応援してるですっ! 幸せを鷲づかみにするですよっ、お姉さま!」


 残念だ。ロベールさんと二人だけじゃ寂しい。せめて勇者様がきてくれるといいけど、どうなるのかな。


 仲直りしたロベールさんと勇者様。それにあたしで温泉旅行。やがて一日を終えてベッドに入ったあたしは楽しい旅を妄想した。


 みんながきてくれないのは残念だけど、楽しみで楽しみで妄想が夢となって、あたしを幸せな眠りの底へと引き込んでいった。


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