・勇者様への恩返しに街を案内しよう - 歓楽街とバザーと天球儀 -
「身体が軽い……やはりすごいな、君のパンは」
「あ、軽いですかっ!? それはよかったです!」
「これは疲れを癒すパンなのか? 明日からまた頑張れそうだ」
「えへへー、たぶんそんな感じです」
その軽いのがずっと続きます。だってソフィーちゃんの鑑定魔法には[永続]ってあったのだから。
「あ、カツサンド、あたしの分もどうぞ! 実は昨晩、試食しすぎちゃいまして……」
「そんなに食べられないよ。……と言いたいところだが、やはり危険だな、君のパンは」
勇者様はあたしからカツサンドを受け取った。大食いのロベールさんに負けない食べっぷりで籠を空っぽにしていってくれた。
「うぷ……っ!? さすがに、食べ、過ぎた……」
「すごいです、さすが勇者様です!」
勇者様はすぐには動けなそうだった。ビッシリ詰め込んだ予定がこのままでは狂ってしまう。
「この後は……?」
この後は繁華街の遊技屋さんに寄る予定だった。だけどせっかく食べさせた聖女の力増し増しのパンを吐かれてしまったら困る。
「ここから南に行くと繁華街があって、そこからさらに行くとバザーがあるんです。そこで一緒にお買い物でもどうですか?」
「いいね、ちょうど旅道具が欲しかったところだ、ぜひお供するよ。悪いが、もう少し休んだ後に……うぷ……っ!?」
勇者様ともう30分くらい休憩してから、片付けをして南に広場を抜けた。
「こ、ここは……想像していたより……」
「え、なんですかー?」
「い、いや……魔界にもこういった場所はあるんだな……」
「綺麗な人が多いですよねっ!」
勇者様は綺麗なお姉さんやお兄さんだらけの繁華街に戸惑っていた。居心地が悪そうにキョロキョロしながら、あたしの様子をうかがった。
「ここは君みたいの女性が通って、大丈夫な場所なのか……?」
「あんまりこないです。ロベールさんには近付くなって言われちゃいましたけど、サジタリウス=ハレーに悪い人なんていませんし」
「君はあまりここに近付かない方がいい」
「えーーっっ!? 子供扱いしないで下さいよーっ!」
「あまり人を心配させるものじゃない。く……っ」
夢魔族のセクシーなお姉さんが勇者様にウィンクを飛ばした。だけど勇者様は嬉しくないのか、苦しげに顔をしかめた。
「魔界の人たちはなんというか、自由だな……」
「はいっ、のびのびしてますよねっ!」
「破廉恥だ……」
「えーっっ!?」
そんなふうに話していったら段々と町並みが落ち着いていって、そこから大通りの方に抜けるとバザーのある広場が見えてきた。
「何を買うんですか?」
「ランプと水筒と手袋、可能なら油紙がほしい。擦り傷に塗る軟膏もだ」
「それなら心当たりがあります、任せて下さいっ!」
「助かるよ。一人じゃ右も左もわからない」
「つまり勇者様への恩返しになってるってことですね!」
勇者様とバザーを回った。勇者様は見慣れない物ばかりのバザーに目を奪われて買い物どころじゃなさそうだった。
だからあたしが全部見つけてあげた。カッコイイ銀のランプに、清潔感のある分解できる水筒。革の手袋に油紙、軟膏は簡単に見つかった。
「驚いた、ここはなんでも揃うんだな……」
「えへんっ、すごいでしょっ!」
「拠点にピッタリのいい街だ。しかし君は何も買っていないようだが……」
「だって欲、ないですからあたし!」
けど気になっていない物がないと言ったら嘘になる。さっきから何度か通りがかった小物屋さんに、すごく綺麗な魔除けのお守りが置かれていた。
でもただの飾りに金貨3枚とか、さすがに高くて買う踏ん切りが付かない。
「アレが欲しいのか?」
「えっ、な、なんであたしが考えてることわかったんですか!?」
「さっきからチラチラと見ていた。金貨3枚か……安くはないな」
「はい……もうちょっと安かったらお店に飾ったんですけど……」
あまり高価だと盗まれちゃうかもしれない。うちのお客さんにそんな人いないはずだけど、嫌な気持ちにはなりたくない。
「君の店に似合うよ、飾ろう」
「え、勇者様もそう思いますか……?」
「ああ、もっと魅力的な店になると思う」
そう言われると買いたくなっちゃう。その魔除けは天井に吊す小さな天球儀で、全身がピカピカの白銀色に輝いていた。
構造もすごく凝っていて、風を受けると内側のいくつもの輪がクルクルと回る。すごくいい仕事をしていた。
「ううーん……うーん……よ、よぉーしっ!! じゃあ買っちゃ――あれっ、勇者様っ!?」
買う決意をして視線を上げると、勇者様がお店の人と話していた。駆け寄ってみるとお店の人が『毎度あり』と言って、勇者様の手にその素敵な天球儀が譲られた。
「えっえっえっ、横取りですか、これっ!?」
「何を言っているんだ、君は」
「だってっ、それあたしの……っ」
「ああ、どうぞ」
勇者様はその天球儀をあっさりあたしにくれて、何事もなかったように歩き出した。
「えーーっっ?!! お、お金っ、お金払いますっ!」
「交渉したら金貨2枚にしてくれた。貰ってくれ」
「嘘っ、そんなに!?」
「噂の魔王コムギの店に置いてもらえるなら2枚で売っていいと言ってくれた」
「魔王じゃないですっ、代理補佐ですってばーっっ!?」
こんな高い物受け取れないと思う反面、欲しくて気になっていたものだから舞い上がちゃうくらいに嬉しかった。
でもこれじゃ勇者様に恩返しするどころか、ますますお世話になっちゃう。
「ところでこの後の予定は?」
「あ! この近くの川辺にお茶の美味しいお店があるんです!」
そろそろ次の予定に移らないとまた計画を省略することになる。
「行こう」
「でも、これ、いくらなんでも受け取れないです……」
「迷惑だったか……?」
「そんなことないです、最高ですっ!!」
明日からこのキラキラしたのがうちの店の天井で輝くんだと思うと、今すぐこれを飾りに戻りたくなるほどだった。
「ならいいじゃないか、行こう! 言っておくが返却は受け付けない」
「勝手ですよぉーっ、そんなのーっ!?」
勇者様はあたしの抗議をすごく楽しそうに笑った。あたしへのプレゼントをとても楽しんでいた。
こうなったらこっちだってプレゼントされっぱなしじゃいられない。あたしだってこの先もこっそりと、勇者様に本気のパンを盛り続ける!
「なんだい?」
「負けませんからね、あたしっ!!」
「あ、ああ……? よくわからないがわかった」
まだあたしのリュックにはデザートのクリームパンが隠されている。本当は半分ずつ食べるつもりだったけど、いっぱい食べさせて強くしてあげるんだから!
クリームパン、大好きだけど、こんなに良い物貰っちゃったら惜しくない。お腹いっぱいと言われても、口に押し込んででも食べさせちゃおうとあたしは決めたのだった!
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