・女の子同士で試食してみたら大変なことに!
「じゃ、次の試食いこっか」
「うんっ、勇気が出るチョコツイストパンッ、いってみよーっ!」
「アンタのパンだしー、どうなるかことやらー、アハハッ♪」
リスティスちゃんが煎れてくれた緑茶を飲んでから、あたしたちは向かい合ってパンを口元に近付ける。
「いくよー? 自分だけ食べなかったら許さないからねー?」
「そんなことしないよーっ」
「じゃ、いくよ。いっせーのーでっ!!」
一緒に口を開けてチョコツイストパンを食べた。
「ふわぁぁぁ~~っ、パンにすると美味しいっ!!」
「うちはそのままでもいけるけどー……。んっ、確かに、食べやすいし、いっぱい食べれていいかもー……」
パンにしてチョコの風味を薄めたらいい匂いになった。あたしたちは夢中でパンをほおばって、詰まりそうになった喉を緑茶で流した。
「てかこれ、成功じゃない? なんか胸の中、根拠のない自信でいっぱいなんだけどーっ!」
「あ、リスティスちゃんもっ!? うんっ、今ならなんか、空だって飛べそうな気がしてくるっ!!」
「うちも今なら宰相にリベンジ出来るかもー!! なんか今っ、ポーカーで全財産躊躇なしで賭けれらそうないい気分!!」
「いけるよーっ! だってあたしたちが負けるはずないもんっ!! お金全部賭けても全然いいと思うっっ!!」
このパンならデルフィちゃんにぴったりだ。
あたしって天才過ぎないかな!
「あたし、普通に魔王になっちゃおうかな……!!」
「なっちゃえなっちゃえーっ!! 今の魔王様よりアンタの方がずっと頼りになるしーっ、最強のうちが支えてあげやってもいいよーっ!!」
「えへへへーっ、約束だよリスティスちゃん!!」
「そうだー、アンタに酷いことしたバカ王子とバカ親、今からやっつけに行くー!?」
「えっ、いいのーっ!? じゃあ今からいこっかーっ!! おーいっ、レキちゃーんっ!!」
レキちゃんは3階のベッドで寝ていた。もう外が暗くなっていたけど、レキちゃんの翼があれば十分に王子様と公爵様を殴って帰ってこれる!
「レキちゃーんっ、あたしをユーパトリムの都まで連れてって!! 今から王子様と公爵様を殴り飛ばしに行こうと思うの!!」
「ぴ、ぴぃぃ……っ!?」
「あ、でもロベールさんの後を追うのもいいなぁー。会ったらね、言ってやるのっ、そんなお爺ちゃんよりあたしを連れてってよぉーっっ!! って!!」
レキちゃんは首を横に振った。マスターであるあたしの言うことが聞けないなんて悪いレキちゃんだ。
「ぎゃうっ、ぎゃうぎゃうぎゃうっ!」
「いいからロベールさんのところに連れてってーっ! あたしも温泉旅行に加わるーっ!」
「ぎゃ、ぎゃぅ……」
「あっ、こら待てーっ!!」
あたしがお願いしているのに、レキちゃんは3階の窓を開けて外に逃げていってしまった!
「よしっ、空を飛んで追いかけよう! いけるっ、いける気がするっ、飛んだことないけどいけるーっ!!」
あたしはレキちゃんの後を追って窓の外に飛び出した!!
「あたしは飛べ――うわあああっっ?!!」
どうして飛べるなんて思ったんだろう。人間が飛べるわけないのに。
どうして親と元婚約者を殴ろうと思ったのだろう。顔を出しても嫌な思いしかしないのに。
「あっぶなー……っ、感謝しなさいよー、もーっ!」
「あ、リスティスちゃん……ありがとう……」
「アンタのパンってやっぱりヤバいよーっ! 明らかにさっきまでのあたしら、正気じゃなかったしーっ!」
あたしは正気に戻った。しゅん……とした気持ちでさっきのフードコートに戻り、最後のパンを囲んだ。
そして理解した。『問題はこの後なんだけどねー……』と、このパイを作った後にリスティスちゃんが言っていた言葉の意味を。
「どうするー……さすがにもう止めとくー……?」
あたしたちは惚れ薬になるパンを作った。
「う、うーん……。でも、せっかく作った焼き立てのパイだし……」
その効果をこれから試食で検証する。もしこれが惚れ薬になるパンだったら、どうなっちゃうの、あたしたち……?
「わかった、うちが食べるー。あの子のためだし、あの子らには結ばれてほしいから……」
「ダ、ダメだよっ、誰かを実験台にするわけにはいかないよーっ! あ、あたしが作ったんだから、あたし自身で試さないと……」
「じゃあ、一緒に食べる……? どうせどうなるか、わかんないんだし……」
惚れ薬なんてこの世にない理由がよくわかった。自分で検証しないと、それが惚れ薬かどうかなんて本当のことはわからない。そんなこと誰もやるはずがなかった。
「じゃ、いくよー……?」
「うんっ、いいよっ」
「いっせー、のー、でっ!」
あたしたちは同時にスティックパイを食べた。
美味しかった。サクサクだった。練り込まれた怪しい薬の匂いなんて、さすがにゼロではないけどちょっとしかしなかった。
「なんだ、美味しいじゃん」
「えへへー、あたしパイ好きだからー!」
「すごいがんばってたもんねー……。うち、アンタのこと見直しちゃった……。結構苦労してたみたいだし。それなのに人を信じられるの、すごいことだと思う……」
「あたしもだよーっ。リスティスちゃんがやさしい友達想い子だって知れて、今日はいい日だった!」
あれ、なんか、段々胸がドキドキしてきた……。
「コムギ……」
「リ、リスティス、ちゃん……?」
あれ、リスティスちゃんってこんなにかわいかったっけ……。
ちょっと意地悪なところはあるけど楽しくて、正直で、いつも場を明るくしてくれる。
ああ、こんな人がずっと一緒にいてくれたらなぁ……。
そんな感情が胸に浮かぶと、テーブル向かいのリスティスちゃんに突然手を取られた。それだけであたしの心臓がドクンと高鳴った。
「うち、アンタと一緒だと幸せ。最初はなんでも許しちゃうバカなやつだと思ってたけど……。アレだって、アンタのことがすごく気になってたからなんだよ……?」
「リ、リスティスちゃん……ダメだよ、あたしたち、女の子同士だよ……」
「別にいいじゃん……。なんか今は、宰相からアンタを横取りしたい気分……。へへ……コムギー……」
「リ、リスティスちゃん……!? ダ、ダメだよ……」
リスティスちゃんは立ち上がって、同じようにあたしを立たせると抱き締めてくれた。
あれ……? なんか、おかしいような、気がするけど、すごい幸せ……。
あたしの惚れ薬、大成功だ……。
「大好きだよ、コムギ。うち、アンタの笑顔を見るために、ここきてるの……」
「そうだったんだ……嬉しい……。あたしもリスティスちゃんがお店にきてくれると……すごく嬉しいよ……!」
あたしたちは手と手を取り合った。もうロベールさんなんてどうでもいい。こんなに素敵な人が隣にいたんだから。
ところがあたしたちの隣で物音がした。振り返るとそこにはソフィーちゃんがいた。
「はっ、はわぁぁぁーーっっ?!!」
「あーあ、残念……邪魔が入っちゃったー……。でもとにかくさ、アンタのこと大好きだよ、コムギ……」
「うんっ、あたしもだよ、リスティスちゃん……」
あたしたちは熱い眼差しを重ねて結ばれていた手をほどいた。
それからパンを食べてから30分ほどが立つと、パンの惚れ薬の効果が切れた。そうしてこう思う。
「突然レキちゃんがソフィーのところにきて……心配になってきたのです……。あ、あのっ、ソフィーはそういうのっ、理解がある方だから大丈夫なのです!!」
あそこでソフィーちゃんが帰ってこなかったら危なかった……。リスティスちゃんとキスしてしまって、取り返しの付かないことになっていただろう、と。
そういうわけで惚れ薬のバタースティックパイは大成功で大失敗だった。
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