・女の子同士で試食してみよう
図書館の本で調べたところによると、惚れ薬は[魔界シダの胞子]と[毒マムシの粉末][コヒの実]に[幽鬼の舌]と呼ばれる魔女の薬を材料にして作られるとあった。
バザーで手に入ったのは[コヒの実]と[幽鬼の舌]だけだったけど、お店の人が魔女の方だったので代用品を勧めてもらえた。
魔女さんいわく――
『まあ本当に惚れ薬なんてあったら、世の中おかしくなっちまうよ。どこの男に盛るのか知らないけどねぇ、この薬はきっかけを作るだけの物さね』
惚れ易くする薬はあるけど、惚れ薬なんて存在しないそうだ。あとだいぶ味と臭いが悪いので工夫しないと疑われるとも。
リスティスちゃんがすり鉢で[赤い葉っぱ]と、赤い[コヒの実]を擦り潰して、それを[何かの粉末]と[幽鬼の舌]と呼ばれる粉薬に混ぜ合わせた。
「うぇ……ちょー怪しいんだけど……これ大丈夫……?」
「そんなのあたしに聞かれてもわかんないよ。でもとにかくやってみるしかないよっ!」
その粉末を砂糖をたくさん使った生地に練り込んだ。デルフィちゃんが意中の男の子に食べさせる物だから、変な材料を疑われないようにしないといけない。
そこであたしはスティックパイを作ることにした。広く伸ばした生地に、叩いて伸ばしたバターを重ねて、バターの部分を生地で包み込む。
そしてこれを伸ばしては折ってバターがミルフィーユ状になるように仕上げれば、パイ生地の完成だ。
「ふぅ……っ、焼いてみないとわかんないけど、たぶんこれでよーしっ!」
「問題はこの後なんだけどねー……。てかパイって、作るのこんなに大変なんだー……」
「えへへー、すごいでしょーっ」
3つ目のパン焼き窯にそのパイ生地を入れれば、そろそろ1つ目の窯の焼き上がりの時間だった。
「あのさ、実は言い忘れてたことあんだけど……『今さら言わないでよー』とか言わないって、約束してくれるー?」
「え? うん、いいけど、何ー?」
「ソフィー、今日帰ってこないって」
「ええっ、そうなんだ……。えー、ソフィーちゃんがいないと、夜とか寂しいなぁ……」
寂しいから今夜はリスティスちゃんに泊まっていってもらいたくなった。
「いや問題、それだけじゃないんだけどー……?」
「え、何が?」
「うち……鑑定魔法、使えない……。あれ、すごく難しい魔法なの……」
「そうなんだーっ、ソフィーちゃんってすごーい!」
「はぁぁー……アンタのそういうところ、イライラするー……」
話はともかくワカメパンを出さないと。あたしはパン焼き窯からふっくらと焼き上がった丸いパンを出した。
ワカメとゴマの香りが小麦の香りと混じり合って、なんだかすごく美味しそう。
「で、それどーすんのー?」
「試食するに決まってるよーっ! その前にソフィーちゃんに鑑定――あっっ?!!」
ソフィーちゃんがいないと、どんな効果のパンになっているかわからない!
「明日ソフィーが帰ってくるまで待つー?」
「う、うぅぅー……でも、意外とワカメパン、美味しそう……」
「どんなヤバい効果になってるかー、わかんないのにー?」
「だって焼き立てだよーっ!? 明日まで待ってたら風味が落ちちゃうよーっ!」
どれだけソフィーちゃんがすごい子なのか、あたしたちは思い知らされた。
「じゃ、半分ずつ食べよっかー」
「え……っ」
「なんとかなるっしょ。はい、アンタの分ねー」
リスティスちゃんはワカメパンを半分にしてあたしに差し出すと、もう片方の手でパンをほおばった。
なんて友達想いなんだろう。あたしはちょっと感動しながら渡されたワカメパンを食べた。
「意外といけるじゃん」
「うんっ、ワカメの塩味とパンが意外と合う! くぅぅぅ~~、美味しいーっっ!!!!! わぁぁぁっっ?!!!!」
早速おかしなことになった。あたしはあたしの声に驚いて、工房の床に尻餅を突きそうになった。そんなあたしをリスティスちゃんがとっさに支えてくれた。
「大きな声出さないでよっ、耳にくるじゃないっっ!!!!!!」
「な、何これええええーーっっ?!!!!!」
音痴が治るパンを作ろうとしたはずなのに、結果は大失敗だった。これは――
「まさかっ、これってっ、声が大きくなるパンッッ?!!!!!」
リスティスちゃんが両耳を塞いであたしを睨んだ。それからジェスチャーで何かを言ってくる。
あたしの勝手な解釈だけど『お茶を入れてくるからアンタはパンを見てて』と言っているように見えた。
あたしは親指を立ててうなづいた。残りのパンを試食するにもこのままじゃ会話にならないし、パンを食べるなら飲み物が欲しいところだった。
「えへへっっ!!!!!」
ちょっとこれは使い道がわからない。失敗も失敗の大失敗だった。
あたしはリスティスちゃんがお茶を入れている間に、片付けをしつつもう2つのパンを窯から取り出した。
チョコのツイストパンは臭いの癖はあるけど、すごく甘い匂いで白と黒が編み込まれた形がよく出来ていた。
惚れ薬のスティックパイもバターの強い匂いで、怪しい薬の臭いが飛んでいた。
あたしはパンをトレイに乗せて、リスティスちゃんが待つ2階のフードコートへと上がった。
「もう声出して平気だから。はーー……ビックリしたー……心臓に悪いよ、もうー……」
「あ。あっ、ホントだ! はぁぁーっ、よかったぁぁ……っ!」
「迷惑すぎるでしょ、アンタのパン……」
「うん……さすがに誰も欲しがらないよね、こんなの……」
いくらなんでも声が大きくなりすぎる……。
「そうでもないかなー。あてがあるからー、こっちの方で処分しとこっかー?」
「イタズラに使ったりしない……?」
「しない。おっきな声を上げるのが仕事の人たちもいるからさー、そういう人たちに売っとく」
捨てるのは気が進まなかったからリスティスちゃんにお願いすることにした。




