・媚薬って何?
「あれ、その人は……?」
階段を上がり切るとリスティスちゃんと、ネレイド族の女の子に迎えられた。
そのネレイド族の女の子は髪が青くて、目に見えて内気な性格に見えた。だってあたしと視線が合うと、目線を落としてモジモジとし始めるから。
「友達」
「あ、そうなんだ。なんか、意外……」
いつも超強気のリスティスちゃんに、こんな内気な友達がいるなんて……。
「は、ソレどういう意味? うちに友達がいたら変とか言いたいの?」
「ええっ、違うよーっ!? ただ性格全然違うみたいだから、不思議に思っただけで……」
そのネレイド族さんは何かを言おうとしてはモゴモゴとしていた。羨ましくなるくらい胸が大きくて、目が前髪で隠れていて、華やかなネレイド族にしてはちょっと野暮ったい雰囲気だ。
「あのさー、アンタがワイルドオークの男とヒューマンの女の恋愛を成就させたって話、結構噂になってんの」
「そ、そうなんだぁ……」
魔王様がお城の人に語りまくったせいだなんて、噂の当人のあたしが言えるわけもない。
「この都って色んな種族のやついるでしょー? だから同じような悩み抱えてる人って結構いてさー。ぶっちゃけこの子もそうなの」
「ぁ……ぅ……っ、ぁ…………っ」
大まかな話しかしてないのに、その子は顔を真っ赤にして縮こまった。それを見てもリスティスちゃんが短気を起こさない感じからして、二人は短い付き合いではないのかも。
「下半身……ぴちぴち……ない……よね……」
「あ、ごめんなさい、よく聞こえなかったです。えっと、つまり何をすればいいんですか?」
「治……して……」
「何をですか?」
「お、音痴……っ、治して……っ」
あたしは首を傾げた。恋愛の悩みなのに、なんで音痴の話になるのだろう。
「要するにこの子、好きな男の子がいるの」
またネレイドさんの顔が真っ赤になった。
純情だ。すごく純情だ。なんか相手の男の人が羨ましくなるくらい、純情でかわいかった。
「相手はアンタと同じヒューマンの、かなり若い子。下半身がピチピチしてるネレイド族なんて、好きになってもらえるわけないよね……とか言ってる」
「え、そんなことないよーっ! あたしネレイド族さん好きっ! みんなかわいいしっ、歌も綺麗だもん!」
褒めたのにネレイドさんの表情が暗くなった。音痴なのをすごく気にしているみたいだ。
「ネレイド族やハーピー族ってさー、歌で男を口説くの。でもこの子下手なんだよねー……歌わない方がマシみたいなー?」
「その言い方はひどいよーっ!?」
「とにかくさ、音痴さえ治れば勇気出してアタックするって言ってるからさー、なんかしてやってよ」
「ぅ……ぁ…………がい……します……」
「それダメなら勇気が出るパン。それもだめなら、食べたやつがあげた相手に惚れるパン。それもダメなら媚薬入りのパンでいいから作ってよ」
「ぇ……ぇ……っ?!!」
ネレイド族さんがうろたえた。あたしは二人のやり取りを見ながら首を傾げた。
「媚薬って、何……?」
「は? それ本気で言ってる?」
「え、知らないと恥ずかしいこと……!? 媚薬ってどういう物なの!?」
「別にー。知りたければ自分で調べればー?」
ネレイドさんはさっきから首を左右を振っている。媚薬っていうのはお気に召さないみたい。
「お……おねが……します……」
「うんっ、いいよ! なんだか楽しそう! 媚薬っていうのも、作れたら作るねっ!」
ネレイドさんは首を激しく左右に振って、あまりに振りすぎて倒れそうになっていた。
「ぷぷぷぷっ、ウケるー♪」
「酷いなぁ……。じゃああたし、お城の図書館で色々調べてくる! 帰ったら試作してみるねっ!」
「あっそ。じゃ、うちはアンタのベッドで昼寝してるから、戻ったら言ってよねー。そん時の気分次第だけど、手伝ったげなくもないしー」
「ありが……とう……」
そういうことに決まったのでネレイドさんとお店を出た。ピチピチの魚の下半身で階段を上手に降りる姿が驚きだった!
「あ、名前聞いてない! あたしコムギッ、ネレイドさんはなんて名前なの?」
「デ、デルフィ……ニウス……」
「わっ、立派な名前! あたしもね、本当はコムギュリエルっていう名前なんだよ。上手くいくかはわからないけど、がんばって作るね、音痴を治すパン! あるいは、媚薬のパンッ!」
「~~~~っっ?!!」
あたしはなぜか街の人の注目を浴びながら身を翻して、お城に続くへと大股で歩いていった。
・
お城の図書館に着いた。ここは蔵書が多すぎて手の付けようがないので、この前みたいに司書さんを頼った。
「あのーすみませーん」
「ああ、貴女は先日の……。確か、新しい魔王になられるそうですね」
「なりませんよーっ?!! ぁ……っ」
「お静かにお願いします。それで、本日はどのような本をお探しで?」
「えーとですね、音痴を治す効果の食べ物か、勇気の出る食べ物。それか惚れ薬になる食べ物か、媚薬の材料を知りたいんです!」
聞いてみたら図書館がざわめいた。
「そ、そうですか……。では本の場所にご案内しましょう……」
「ありがとうございます。よくわかんないけどお願いされちゃって、どうにかして作ってあげたいんです!」
親切な司書さんが本をリストアップしてくれた。媚薬の本は表紙がピンク色で薄い感じの本だった。
気になるけどそれは最後のお楽しみにして、あたしは順番に本へと目を通していった。
「よーし、これで最後……。なんか行けそうな気がしてきたーっ」
あたしは媚薬について書かれている本を開いた。目次を流し見して、媚薬の項目に飛んだ。
「えーと……『媚薬とは、飲んだ者を性的興奮状態にする効果のある薬をさす。』……性的、興奮……?」
あ、あれ……? 性……興奮……?
あっ!? これって……あっ、そういう……。
「わっわっ、何この本……っ、わ……っっ」
この本、どのページにも変なことばかり書いてある……っ!
それに変な挿し絵もあって、う、うわ……っ。
「リ、リスティスちゃんめぇぇ……っっ、こ、こういう意味ならっ、教えてくれればいいのにぃぃ……っっ」
熱くなった顔であたしは本を棚に戻した。しばらく顔の赤面が戻らなくて、すごく恥ずかしかった。
「知ってしまったのですね」
「う、うぅぅ……お、お世話に、なりました……」
「純粋な次期魔王もいたものです」
「な、なりませんってばぁ……っ」
あたしは図書館を出て、真っ赤な顔のまま厨房に向かうとニャーさんに一声かけた。赤面のわけをニャーさんに説明すると――
「アッハッハッハッハッ、そりゃいい経験になったねぇ!!」
「わ、笑えませんよぉーっっ!!」
「いいじゃないかい、案外他の効果のパンより可能性があるんじゃないかい?」
「嫌ですっ、そんなパン作りたくないですよぉーっ!」
「そうかい? 惚れ薬の効果のパンの方がよっぽど邪悪だと思うけどねぇ。ま、何はともかく」
ニャーさんはふわふわのおっきな身体であたしを抱き締めてくれた。抱き締められたらなぜだか気持ちが落ち着いた。ニャーさんのふわふわボディは魔法だった。
「アンタのやるべきことはそのネレイド族の子の背中を押してやることだけさ」
「ありがとうニャーさんっ、あたしもニャーさんに背中押された!」
「こっちも娘がもう一人出来たような気分さ! またいつでもおいで」
頬をザラリとニャーさんに舐められると、さらに元気が出た。
さあやろう、がんばって試作してみよう!
あたしはニャーさんにお別れしてお城を駆け出て、バザーで材料を買い込んでから自分のお店に戻った。
「お帰りー」
「ただいま、リスティスちゃん!」
「ホント、アンタって元気だよねー……」
「もーっ、リスティスちゃんのせいで恥をかいたよーっ! あたし媚薬なんて作らないからっ!」
「その歳で知らないアンタにどん引きだしー。……てか、手伝ったげるから早く始めない?」
それもそうだった。窓の外を見ればもう夕方。あたしたちはパン工房に入って、パンの試作の準備に入った。
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