・前略、コムギ・ブランウィード魔王代理補佐様
旅に出るロベールさんと魔王様を見送ってからかれこれ9日間が過ぎた朝、うちに手紙が届いた。出発の支度をしていると鳥人族さんが空からフワッと現れて、赤い蜜蝋で立派な印が押された手紙を差し出してくれた。
開くのは時間ができてからにすることにして、あたしはリュックとサイドバッグにパンを詰めて、広場の人気のない場所に移動すると、レキちゃんの翼で天に舞い上がった。
行き先は国境の森。これからあそこの子供たちにパンを差し入れに行く。
やっとゆとりが出来たあたしは大切にしまっておいた手紙を服の裏ポケットから取り出して、そこにある彼らしい迷いのない文字を追った。
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前略、コムギ・ブランウィード魔王代理補佐様、平素は格別なるはからいをいただき誠に――
(中略)
さて前置きはここまでといたしましょう。我々の旅ですが、すこぶる順調に進んでおります。
赤い湯で有名なゲヘナ地方の暴君の湯。ゲヘナ名物カリギュラ饅頭。そして滋味豊かなポイズンワイバーン料理。魔王様は子供に戻ったかのように大層ご満悦で、年下のガールフレンドが3人も出来たと私に自慢してくるほどです。
魔王様は『本当は年上の方が好みなのじゃが年上がとんといなくなってしまってのぅ』などともうしておりますが、私から見ればどのガールフレンドの方もご妙齢のご婦人。年上も年下も何もないと思いながらも、ご年輩方に左右を囲まれる旅が続いております。
そんな第四のモテ期とやらに羽目を外す魔王様でございますが、先日は魔界の大物諸侯の一人と腹を割って話し、協力を取り付けて下さいました。
全て貴女のおかげです。魔王軍の世継ぎ問題は現在、着々と解決に向かって進んでおります。長らく魔界を悩ませていた世継ぎ問題は、この外遊をきっかけに解決してゆくことになるでしょう。
貴女のパンが恋しいです。日々どれだけ貴女に活力をいただいていたのかと、思い知らされる日々です。
説得しなければならない諸侯、有力者がまだ奥地におります。申し訳ありません、今少しだけサジタリウス=ハレーの守りをよろしくお願いいたします。
我々は必ずや、貴女を次の魔王にしてみせましょう。
――ロベール・サマエル
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「え、お饅頭!? ずるい……!! へぇ、ヨブお爺ちゃんって年上好きなんだぁ! 政治のことはよくわからないけど上手くいってるんだなぁ……」
ヨブお爺ちゃんとロベールさんの旅を想像しながら、一文一文を何度も読み返しながら手紙を楽しんだ。
「えへへ……そんなこと言うならすぐ戻ってきたらいいのに……はぁ、まだ帰ってこないのかぁ……。ん……? 『貴女を次の魔王にして見せましょう。』? ちょっ、ちょぉぉぉぉーーっっ?!!」
信じて送り出したロベールさんと魔王様が勝手なことをやっていた。あたしは代理補佐になるとは言ったけど、魔王になるなんて言っていない。
「えっえ……っ、えぇぇぇぇ…………?」
何度読み返しても手紙の内容は変わらなかった。あたしはパン屋さんで手一杯で魔王なんてやってられないのに、なんて勝手なロベールさんだ!
「クルル……?」
「あ、レキちゃんもロベールさんからの手紙、気になる?」
「クルゥゥーッ♪」
「じゃ、朗読するね。ていうか聞いてよーっ、ロベールさんって勝手なんだよーっ!!」
レキちゃんに手紙の内容を語った。語ると少し鬱憤が晴れた。何も解決していないし、まだ帰ってこない事実は変わらないけど……。
そうこうしていると国境の森、白化病の隔離病棟に着いた。里のみんなはもうレキちゃんを見ても逃げなかった。空を見上げてあたしたちに声を上げて迎えてくれた。
「差し入れにきたよーっ!!」
「くるるる……♪」
里の子供たちがレキちゃんの巨体を囲んだ。ジョーグさんとカールくんが差し入れの荷物を受け取ってくれた。
子供たちはあたしのことをムギお姉ちゃんって呼んでくれて、パンの差し入れを無邪気に喜んだ。
ボロボロだった隔離病棟にジョーグさんの修理の手が入って、畑の作物も元気になっていた。
「ありがとう……。きてくれたら嬉しいなって、思っていました……」
「あれだけ繁盛してる店持ってるのに、こうしてきてくれるなんてよ、ありがてぇなんて言葉じゃ言い尽くせねぇべ……」
「みんな引っ越そうぜー、ムギ姉ちゃんがいる都にさー!」
カールくんはそう言うけどまだ諦められない子たちもいた。その子たちを残して引っ越しなんて出来ない。それがリセリちゃんとジョーグさんの意思だった。
「少し、ぬくもっても、いいですか……?」
「お、おい……人前だべよ……っ」
「ごめんなさい、水くみで身体が冷えてしまって……」
「そ……それはしょうがねぇべな……」
一緒にご飯を食べたり遊ぶのが楽しかったけど、ジョーグさんとリセリちゃんは目に毒だった。リセリちゃんは大きなジョーグさんの腰に抱きついて、ラブラブにぬくもっていた。
「ムギねーちゃん、彼氏とかいねーの?」
「へっっ?!」
「羨ましいなら彼氏作ればいいじゃん」
「か、簡単に言ってくれないでっ!?」
正直、リセリちゃんが羨ましかった……。
嫉妬の目で見てしまったところをカールくんに見られて恥ずかしかった。
「そう落ち込むなよ。なんなら俺が宰相との間を取り持ってやろうかー?」
「ロ、ロベールさんは関係ないよーっ!?」
ジョーグさんとリセリちゃんは隙あらばイチャイチャだった。リセリちゃんはあたしより年下なのに、あたしより大人の階段を遙か先に上がっていた。
昼過ぎまで里のみんなと遊ぶと、みんなの予定もあるだろうからレキちゃんの翼でサジタリウス・ハレーに帰った。
差し入れはムダじゃなかった。移住の決断をする子たちが二人も増えた。
「あ、きたきた! コムギッ、ちょっと顔かしなさいよ!」
「あれ、リスティスちゃん……?」
空っぽのサイドバッグにレキちゃんとレモンちゃんを入れて店に戻ってくると、2階のフードコートの窓からリスティスちゃんが生えてきた。
正面玄関の鍵が開いていて、あたしはリスティスちゃんのいる2階に上がった。




