・真実の目で私を見て - 目を治すパン -
「で、目を治すパンはできたのー?」
「ううん、実はまだ……。『目が気持ちよくなる』パンならできたんだけど、あれじゃ目は治らないと思う……」
「治さない方がいいかもねー……」
つぶやくような静かな声で言ってリスティスちゃんは悲しそうな顔をした。
「えーっ、なんでー!?」
「なんとなくそう思っただけ。手伝ったげるからさ、早く手を動かしなしなさいよ」
「あ、うん、ありがとう! なんかすごく嬉しい!」
「バカ言ってんじゃないし!」
いつもは接客を任せてばかりだから、リスティスちゃんと一緒にパンを焼けるのが嬉しかった。
リスティスちゃんもなんだかんだ楽しそうに笑ってくれたし、あたしもそれに笑い返した。そしたら急に不機嫌な顔をするのも、これまでの付き合いでだいぶ慣れてきた。
お昼のラッシュを乗り切って、昼下がりの最後のパンを売り切って、それから新しい試作のパンを窯から取り出せば、後は2階に集まって鑑定と試食を行うだけになった。
第一号は[ブルーベリージャムパン]。甘い美味しそうな焼き上がりにソフィーちゃんが嬌声を上げた。
鑑定の結果は――[目がつよくなる]だった。
「すっごいやな予感するしー、あたしパスー」
「じゃああたしが食べてみる!」
「や、止めた方がいいような気がするですよーっ!?」
「大丈夫大丈夫っ! あーんっ♪」
食べてみた。美味しかった。青林檎ジャムに舌が慣れていたあたしには、新鮮味のある味わいとブルーベリーの粒々食感が最高だった。
ジャムは保存が利くし、製法も変わらないからレギュラーメニューにしてもいいかも……。
「うーん……どうかな、目強くなったと思う?」
「かわらないと思うのです」
「いやいや油断しすぎ……アンタの本気のパンがヤバくなかったことなんてないしょ……っ」
そう言われても特に変化は感じられない。いっそのこともう1つ食べたいくらいだった。
「はわっ、お姉さまの目からすごい魔力を感じるですよっ!?」
「え……?」
そう言われてみれば、なんだか段々、左目が……なんかうずいてくるような感じがする。
「あ、あれ……っ、なんか変な感じがするけどっ、どうすればいいんだろこれっ!?」
「ぴぃぃぃっっ、こっち向かないで下さいお姉さまぁーっっ?!!」
「やっぱヤバいやつじゃーん……。はいはーい、こっちこっちー、外いこーねー、宰相に謝りたくなかったらさー」
リスティスちゃんに背中を強く押されてお店の外に出た。彼女はあたしのあごを下から押して空を見上げさせた。オレンジ色の入道雲が浮かんでいた。
「目、目が……左目が……うずく……うっ、うあああーっっ?!!」
その時突然、爆発音がとどろいた。目の前が真っ白になって、あたしはリスティスちゃんに後ろから抱き留められていた。
大通りは騒然となった。あたしの目から閃光と爆発が生まれて、それが空の彼方の入道雲に突き刺さって大きな風穴が生まれていたから。
「はぁ、ヤバ過ぎるっしょ……」
「ぴぃぃぃっっ?! お姉さまが魔王様になったのですぅぅーっっ!!」
「あ、あれ……? 『目がつよくなる』って、こういうこと……?」
それは食べると目からビームが出るパンだった。
「あはは……お騒がせしましたーっ、ごめんなさーいっっ!!」
目のうずきはもう感じられない。騒然となった大通りから逃げるように、あたしたちはパン工房に帰った。
「えと……食べる……?」
「いるかーっっ!!」
「あ痛っ! あはは、外に連れ出してくれてありがとう、リスティスちゃん」
リスティスちゃんにコツンとオデコにチョップを入れられた。あとちょっとで、大事なお店を壊しちゃうところだったし、ホントに感謝だった。
ともかく次に行こう。あたしは本日試作2号の[ブルーベリーバゲット]をお出しした。
「これはねーっ、ジャムじゃなくてブルーベリーの実の砂糖漬けを、生地に練り込んだバゲットなの」
「お姉さまと宰相さまはバゲットが好きですねー?」
「うんっ好きだよ、食べ応えある硬さが好き! それじゃ鑑定、お願いします!」
ソフィーちゃんが工房の綿棒をタクトにして鑑定の魔法を唱えた。光のパネルが現れて、そこには[目が点(30分)]とあった。
「なんか面白そうっ、いっただきまーすっ!!」
「これは、大丈夫そう……ソフィーも食べるのですよーっ!」
「えぇぇ……わけわかんなくて逆に怖いしー……」
距離を取るリスティスちゃんに見守られながら、あたしたちは加熱調理されたブルーベリーの香りがするバゲットをほおばった。
思った通りの味だった。バゲットの中にあるブルーベリーを噛み潰すのが楽しい、味わいに変化のある面白いパンになっていた。
「うわ……『目が点』って、そういう……うわぁぁ……」
「え、何々、もう何か起きたの?」
「ソフィーもよくわかんないのです、教えてほしのです!」
あたしたちはリスティスちゃんに迫った。そしたらリスティスちゃんはなぜか笑いながら後ずさった。
「あ、あはっ、あははははっ!! ちょっと止めてよ、その顔で迫られたら笑っちゃうじゃんっっ!!」
「え、何、顔……?」
「顔がどうかしたですかー? はっわぁぁぁっっ?!!」
ソフィーちゃんがあたしを見て叫ぶので、あたしもソフィーちゃんを見た。
「わぁぁぁーーっっ?!!」
ソフィーちゃんの目が点になっていた。ぬいぐるみの目みたいになったソフィーちゃんがそこにいた。
「お姉さま、かわいいのです!!」
「あはははっ、なにこれーっ、おもしろーいっっ!!」
「食べなくてよかったー……」
パンの効果が切れるまで30分ある。このままだと次の試食もできないので、あたしたちは3階の住居に上がって短いお茶にした。
鏡に映るあたしの目もぬいぐるみみたいなら黒い点になっていて、もう面白くて笑っちゃった。
「あ、とけちゃったのです……」
「はーー面白かったー!」
「元に戻らなかったらどうしようとか、考えないところがハッピーだよね、アンタたち……」
ともあれ目も戻ったので、紅茶をすすりながら本日3つ目の試作パンをお出しした。
「じゃっじゃーんっ!! こちら、ブルーベリーのミルフィーユサンドだよーっ!! このパンにはー、卵とお砂糖とバターを使ったクレープ生地を使ってまーすっ!」
これは甘いクレープ生地5枚に、バタークリームとブルーベリージャムと、ブルーベリーの砂糖漬けをはさんだオヤツ!
もはやパンじゃないけど、これなら甘い物が好きな子供が必ず喜ぶ。今から幸せな笑顔が目に浮かぶようだった!
「美味しそうだけどー、これもまたヤバい効果があるやつでしょー……」
「鑑定いくですよーっ! ちょいっ!」
ソフィーちゃんの鑑定魔法が銀のフォークから放たれた。結果は――
「ふぅーん……。これ、もしかしたらもしかするかもねー」
「う、うんっ、もしかしたらこれなら……いけるかもっ!」
「でもさ、どうしてそんなに一生懸命その子の目を治そうとしているか、あれからちょっとは考えたー?」
「ううん、全然!」
明日、リセリって女の子にこれを食べてもらおう。他の子供たちにも美味しいパンをたくさん振る舞おう。
そしたらサジタリウス=ハレーに移り住むと言ってくれるかもしれない。ジョーグさんが喜ぶ姿が目に浮かぶようだった。




