・真実の目で私を見て - 材料:ブロッコリー ゴマ ブルーベリー -
今日は少しがんばり過ぎてしまったみたい。さすがにもう夕飯を作る体力は残っていなかったから、通りで肉や野菜の串焼きを買って今晩の食卓に並べた。
それからベッドで少しだらだらすると、ソフィーちゃんが今日も三階の窓から帰ってきた。あたしは弾むように起き上がり、うちのホウキではなくどこかのデッキブラシで帰ってきたソフィーちゃんに笑いかけた。
「お帰り!」
「ただいまなのです! ぴぃーっ?!」
レモンちゃんとドラゴンちゃんも階段を駆け上がってきて、ソフィーちゃんに飛びついた。
ソフィーちゃんは喜び半分、恐怖半分の複雑な顔でレモンちゃんをお腹の上で抱いていた。
「あのね、夕飯食べながら鑑定してほしいパンがあるんだけど、いいかな?」
「ほぉぉーっ!? 新しいパンっ、作ったですかー!?」
「うんっ、食べながら事情を説明するから席についてっ!」
食卓をみんなで囲んで、店を閉めた後の出来事を説明した。
「やさしい人なのです」
「だよね、顔は怖いけどすごくいい人だった!」
「子供だけの村ですかー……。ならソフィーも差し入れ作るの手伝うのです。鑑定も、任せてほしいのですよーっ!」
「ありがとう! それでね、どんな効果になるかわかんないし、3種類作ってみたの」
試作第一号の[トマトチーズブロッコリーロール]を食卓に並べた。
「これはバターを使ったロールパン生地でー、トマトソースとチーズとブロッコリーを包んで焼いたものだよー!」
「ふぉぉぉーっ、見たことないパンなのです! 鑑定、してみるですねーっ!」
ソースの味見はしたけど試食はしていない。どんな効果があるかわからないから、美味しそうだけど我慢した。
ソフィーちゃんがまだお肉の残っている串を魔法のタクトにして、不思議な響きの呪文『シテマス・イシゴートネ』を唱えて、あたしの力作に鑑定魔法をかけてくれた。
現れた光のパネルにはこうあった。
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[トマトチーズブロッコリーロール]
効果:[細マッチョ化]
脂肪が落ちて筋肉が付く
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全く目的にかすりもしない効果だった……。
「ううーん……。ええと、どうしよう、これ……」
自信作だったのに、それは『痩せるけどマッチョになるパン』だった。鑑定が終わったらソフィーちゃんと半分にするつもりだったのに、マッチョになっちゃうのは困る……。
「しゅごいのです、お姉さまは天才なのです!」
「でも、マッチョ化するって、あるよ……?」
「みんなで分ければいいのです。痩せるのは、助かるのですよーっ」
「確かに、最近ご飯が美味しくて……確かに……っ」
ウェストサイズを指で測ってから、4等分にして食べることにした。だって美味しそうだったし、最近ちょっとお肉が付いてきてたから……。
「ふっ素晴らしい……トマトとブロッコリーのアベマリア……なのですっ!」
「あはは、それってロベールさんのまね?」
「はいなのです、前にマリアなんとかって、言ってたのです!」
マリアージュって言ってたような気がする。よくわからないけど、たぶん組み合わせがいいって意味なのかも。
トマトとチーズとブロッコリーの相性はバッチリで、それをロールパンでお手軽に食べられるところがちょっとした大発明だった。
「あっ、すごいっ! 人差し指の先っぽの分だけウェストが細くなってる!」
「ソフィーの計算通りなのです! ムキムキにもなってないのですっ、力があふれるのですよーっ!」
ドラゴンちゃんとレモンちゃんには大きな変化がなかった。美味しそうに空中で泳いだり、笑顔でプルプルと震えていた。
このパンがあれば暴飲暴食しても大丈夫!
だけど、引き替えにムキムキになってしまう女の子の敵みたいなパンだ……。
「余った分は明日、コボルトの親分さんにあげちゃおっか?」
「そうするのです……。もっと痩せたいですけど、腹筋が割れたりするのは困るのです……っ」
失敗だけど食べる人によっては大成功のパンだった。
続いてあたしは試作2号の[ゴマパン]を食卓に並べた。
「あ、匂いでわかるのです。これは、ゴマのパンなのです!」
「大正解! これはねーっ、煎った胡麻と、擦った胡麻をバゲット生地に混ぜ込んだパンだよー!」
香ばしいバケット生地ときっと合うと思って試作してみた。
ソフィーちゃんも香ばしい香りによだれをすすって、お肉が消えた串を使って鑑定魔法をかけてくれた。
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[ゴマのバゲット]
効果:[健康]
寿命が気持ち伸びる
やや太る
快眠
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「ええええーーっっ、なんでーっっ?!」
「太るのは困るですよーっっ!! こんなに美味しそうなのにーっっ!!」
健康、快眠、寿命。すごいことはすごいけど、若いあたしたちには取り立てて必要のない効果だった。
「うぅぅ……でも、美味しそうな匂いがするですよ……?」
「うん、そうなんだよね……。ちょっとだけなら、大丈夫かなぁ……?」
「試食しないわけにはいかないと思うのです……」
ゴマのバゲットをカットしてちょっとだけ食べてみた。
ゴマの油脂分がバゲット生地と混ざり合ってとても美味しい。それに香ばしくて後を引く味わいだった。
「もっと食べたいけど、これ以上は危ないよね……って、うわぁっ?!」
指でウェストのサイズを測り直すと、爪先の分だけあたしは太っていた。何度測ってもちょっぴり太っていたぁーっ!!
「悪魔のパンなのです……」
「こんなの毎日食べたらとんでもないことになるよーっ! 失敗作だよ、こんなのぉーっ!」
「お医者さんは欲しがると思うです。明日、ソフィーが街のお医者さんにあげてくるですよ」
「あ、確かに……。闘病中の人にはいいかもしれないね……」
ゴマをバゲットに加えて焼くだけだから、お店のメニューに加えるのはいいかも。聖女の力を込めなければ、それほど太るパンにはならないはずだし、健康にもなれる。
とにかくこれも失敗。あたしは最後のパンを食卓に並べた。
「じゃんっ! これは本日のデザートのっ、[薄焼きブルーベリーサンド]だよーっ!」
薄焼きのベーグル生地で、市場で買ったブルーベリージャムを3層に重ねた力作だ。生地はお砂糖を加えた甘くしっとりとした生地で、効果はどうあれこれは絶対に美味しいと思う! 子供たちも間違いなく喜ぶ!
「こ、これは……っ、これはしゅごいのですっ!」
「へへーっ、これはちょっと手間暇かかってるからねーっ! さあ鑑定、お願いしますっ!」
「任せるのですよーっ!」
ソフィーちゃんは新しい野菜串を振って、ピーマンを引っこ抜いてから、あたしの[薄焼きブルーベリーサンド]に鑑定の魔法をかけた。
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[薄焼きブルーベリーサンド]
効果:[開眼]
目が気持ちよくなる
暗視能力(30分)
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やった! と思ったらぬか喜びだった。
目がきもちよくなる、ってどういうこと?
直接目を治す効果ではないみたいだけど、一応方向性は合っているのかな……?
「これはしゅごいのです、お師匠さまにあげたいのです! お姉さまは天才聖女さまなのですよーっ!」
「えへへ、ありがとう。じゃあ早速、食べてみようっか!」
料理と一緒にデザートを食べちゃいけないなんて法律は魔界にはない!
あたしはそれぞれのお皿に甘い匂いのする[薄焼きブルーベリーサンド]を並べた。
「きゅるぅぅぅーっっ♪♪」
「ぷゅ……っっ?!」
レモンちゃんもドラゴンちゃんも配膳するなり即食べてくれた。すごく美味しかったみたいでレモンちゃんは横長にドロリととろけた。
「ほわぁぁ~っっ♪ 薄切りの生地とブルーベリージャムがからみあってあまーいのですっ!」
「おっおっ……なんか目が……わぁぁぁーっっ?!」
その[薄焼きブルーベリーサンド]は目に見える効果があった。それは食べると目が気持ちよくなるパンだった。
「わぁぁーっ、お姉さまっ、外がしゅごいのですーっ!」
ソフィーちゃんは窓から外を眺めて感動した。パンの効果でちょっと遠くが見えるようになった目で、並んで外を眺めてみた。
すると夜の世界が輝いて見えた。サジタリウスの目に青く塗りつぶされて見えなくなっていたところが、昼間のようにくっきりと見えるようになっている。
「あたし、すごーいっ!! 目を治すパンっていうより、視力をよくするパンって感じだけど、このまま工夫していけば治せるかも!」
「ご飯中だけど、お散歩行きたいのです!」
「いいねっ、いこいこっ!」
あたしとソフィーちゃんは夜の街に繰り出して、暗視の力でキラキラに様変わりした夜の世界を楽しんだ。
効果は30分限り。でも素敵な経験だった。
ソフィーちゃんの鑑定魔法とあたしの作る不思議のパン。この二つがあれば、可哀想な女の子の目を治すのもきっと不可能なんかじゃなかった。
明日中に目を治すパンを完成させて、リセリって女の子を幸せにしよう!
そう決めて、あたしはブルーベリーをベースにしたレシピをソフィーちゃんと相談した! 会話の尽きない楽しい夜がふけていった!




